光の天使とサインペン(1)
糸原歌子は、歌手を目指していた。名前の通り、歌う事が子供の頃から好きだった。
幸い、親もその夢を応援してくれ、裕福だった事もあり、子供の頃からレッスンなどに通い、子役やモデルもやっていたりする。今はその仕事をしながら、レコード会社や事務所に音源を送ったり、動画サイトで歌声をアップしていた。
モデルのエキストラの仕事はあったが、芽はいっこうに出なかった。ボイストレーニングの先生に言わせれば実力もあるとお墨付きをもらっていたし、あとは曲に恵まれるだけという感じだったが、なぜかオーディションなども全く通らなくなっていた。
しかも、子供の頃に一緒にレッスンを受けていた原口幸絵が有名なプロデューサーの目にとまり、あれよあれよという間に成功していた。プロデューサーも三十過ぎのイケメで、幸絵と熱愛の報道もあった。売れない子役上がりのアイドルが、プロデューサーに見初められるなんて、まるでシンデレラストーリーだとネットや週刊誌で騒がれていた。
幸絵はお世辞にも性格の良い人物ではなかった。むしろ、かなりのいじめっ子で、大人にも嫌がらせを繰り返し、自殺未遂までさせた事がある。地元では評判が悪く、「なんで、あの子が?」と首を傾げるものも少なくない。ネットでも匿名の掲示板では、幸絵はかなり叩かれていた。
歌子は、それを見ると、少しホッとはするが、毎日のように幸絵のテレビCMや歌声などを聞くと、心中は穏やかではなかった。一言でいえば嫉妬していた。オーディションも何も通らず、アンチからはコメントが届くので、焦っていたメンタルもあるかもしれない。いつのまにか匿名掲示板を毎日見るようになり、幸絵への誹謗中傷コメントを見ながら溜飲を下げていた。特に寝る前、ベッドの上でスマートフォンをいじりながら、匿名掲示板をみるのが日課になってしまっていた。事務所が用意してくれた寮の部屋は古くて狭く、そんな環境も歌子のメンタルを悪化させていた。
そんな中、オカルトや陰謀論マニアと思われる人物が、掲示板に降臨し、幸絵は悪魔と契約しているというコメントを残していた。
「悪魔と契約?」
意味がわからないが、コメントにはリンクが貼ってあり、そのサイトを見てみた。陰謀論系のサイトで、胡散臭さが漂っているが、悪魔と人間が契約する方法なども書かれていた。多くは生贄を捧げたり、儀式をして悪魔を呼び、契約する。従順の証として片目をかくしたり、歌詞に下ネタ、悪魔を讃美する要素を盛り込むらしい。
あまりにもファンタジーな話題で、眉唾物だったが、海外のミュージシャンの事例なども出ていて、だんだんと読んでいたら怖くなってきた。
片目を隠したり、オカルトシンボルを見せているミュージシャンは確かに多く、そういったものに限っては成功していた。幸絵も動画やCMの中でよく片目を隠していたのを思い出す。
なぜ片目を隠すといいのかはわからない。陰謀論サイトでも明かされていなかったが、とにかく悪魔が好むサインのようだ。世の中は反キリストが支配していて、聖書の逆張りをすると成功できるとも書いてあった。
それを見ている歌子の心が揺れていた。別に眉唾物野陰謀論には興味は無いが、これで成功出来るとしたら?
もしかして幸絵も悪魔と契約して成功を手に入れたりする?
歌子は、ベッドから起き上がり、スマートフォンの中の自撮り画像を適当に選び、片目を隠すような加工をしてみた。それをSNSのアイコンにした。
調べてみると、確かに有名ミュージシャンや俳優などもSNSのアイコンが片目を隠しているものが多かった。漫画家や作家も片目を隠したイラストをアイコンにしていた。そんな人達に限って人気があったり、成功している気がする。人気漫画を電子書籍サイトで立ち読みしてみたが、さりげなく片目を隠しているキャラがいたり、悪魔と契約する系のものも多かった。今は生贄をテーマにした漫画やライトノベルも多いようだ。
陰謀論サイトでは人を殺すような生贄儀式をすると、悪魔を呼べると書いてあった。
しかし、人を殺す事なんてできやしない。いくら成功したいからといって、殺人犯になるのは勘弁してほしい。それに眉唾物の陰謀論サイトの情報が正しいという確証もない。それぐらい歌子は現状に悩み、追い込まれていると言って良かった。幸絵の成功も歌子を焦らせていた。
こんなボロい寮の部屋にもいたくないし、煌びやかなタワーマンションに住みたい気持ちmぁる。いつの間にか心は欲望に支配されていた。
とりあえず、再びSNSに片目を隠した自撮り画像をアップし、生贄をテーマのしたライトノベルの絶賛コメントでも書いてもた。別に生贄儀式なんかはしたく無いが、これが代わりにならないだろうか?
欲望に心が支配されていた歌子は、何も考えずにそんな事をしていた。
すると、歌子の予想に反する事が起きていた。目の前の天使がいた。




