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お手紙カフェ・ミコトバ  作者: 地野千塩


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高価で尊い付箋紙(5)

 数日が過ぎた。


 お手紙カフェ・ミコトバからは、無事帰れた。異世界転移したと思ったが、あっけなく帰れたので拍子抜けした。スマートフォンも元に戻り、お手紙カフェ・ミコトバについて調べたが、ろくな情報はなかった。SNSで噂のような物は流れていたが、店の公式ホームページなどは一切出てこない。なぜ海辺の町に異世界転移のような状況になっているのは、謎だったが、深く追求する必要もないような気がした。


 SNSの口コミでは、あのカフェは、天国にあるんじゃないかという説も出ていた。夢で天国に行った事のsる人の話なども調べると出てきたが、あながち間違ってもいない気もした。確かな証拠も無いが、そう思う事自体は悪くない気もした。


 もう一度お手紙カフェ・ミコトバに行こうとしたが、仕事が忙しく〆切に終われていた。ネット投稿サイトでも、短編小説の応募があり、書いていたりしていた。


 あまり流行りではないが、ハイファンタジー世界の短編を描いた。募集していた短編のテーマが「薬草」「剣」「異郷」という三つの題で、そんな世界が思いついた。筆が早くのってしまい、投稿は一番乗りだった。投稿すると評判もよく、ランキング上位に載ったりしていた。しかし、何日かしたら、同じような設定で投稿する作者も何人か現れ、美波の内心は穏やかではない。確かに盗作と言える状況では無いが、「自分の作品を見て思いついた?」という被害妄想をしてしまいそうだった。投稿サイトでは、珍しい現象ではない。悪役令嬢や転生といった定番ネタも、そんな風に人々に消化され、定番設定になっていった。


 それでも、一人で仕事部屋で文字を打っていると、虚しさに襲われる。自分が書くものは、テンプレで、誰が書いても同じ? 


 テンプレなんてチャットGTPにでも任せていた方がマシ?


 再び、マイナス思考に襲われる。ディスクの上にある使用済みの付箋紙をぐしゃぐしゃに丸め捨てたい衝動にも襲われる。


 ただ、なぜかお手紙カフェ・ミコトバで聞いた話も思い出す。物も全部神様のもので、人間も神様が創造した特別なもの。この付箋をぐしゃぐしゃに丸めるのも、コンプレックスに陥るにも違う気がする。


 同時に宅配業者がきた。あのお手紙カフェ・ミコトバから荷物が届いていた。送り状にはなぜかカフェの住所は書いていなかったが、宅配業者はニコニコ笑うだけで、その理由は教えてはくれなかった。


 荷物は大きめな封筒に、付箋がたくさん入っていた。あのカフェで描いた絵がデザインされた付箋で、こうして見ると、既製品とほとんど差がないように見える。付箋には、聖書の言葉も引用され、端のほうのデザインされてあった。


『わたしの目には、あなたは高価で尊い。 わたしはあなたを愛している』


 その文字を一つ一つ見ていたら、鼻の奥がツンとし、泣きたくなってきた。自分が仕事で書くものは、何の個性もないテンプレだらけ。一番最初の投稿しても、似たような話が後から出てきたりしていた。


 それでも、この言葉を見ていたら、大丈夫そうな気もしてきた。自分の仕事は、チャットGTPに変わる可能性はゼロとは言い切れないが心は少しずつ修復してきた感覚を覚えていた。


 美琴さんから手紙も入っていた。キリスト教とも関係あるらしい。研究員の一人が敬虔なクリスチャンで、讃美歌集から栞が落ちる事に不満だったらしい。そこでお蔵入りになっていた粘着力が弱く、再び剥がれる粘着剤を、付箋として応用したらしい。元々は、付箋紙の粘着剤は何も使えないと失敗作扱いだったらしいが、神様が益にしてくれたんでしょう、こういう閃きは機械には出来ませんと綴られていた。


 手紙の内容は、どうって事ない豆知識だが、綺麗な手書きの文字で読んでいると、心は落ち着いてきた。手紙は、人の心が真っ直ぐに反映されやすいのかもしれない。美琴さんの誠実さや聡明さが伝わってくる。


 この付箋は、ぐしゃぐしゃに丸める事はできそうにない。一枚一枚大切に使おう。そう思わずにはいられなかった。

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