終わりか始まり?
この世の中は理不尽だ。勉強が出来るヤツ、運動が出来るヤツ、世渡りが上手いヤツ、どんなものにも優劣が存在する。
俺はどうだろう?特に勉強も運動も出来るわけでも、たくさんの友人に囲まれているわけでもない。
「はぁ、理不尽だぁ。」
と半分無意識につぶやいてしまうのもご愛嬌。
「なーにが理不尽なんだか~。いつもいつも理不尽理不尽って、そーくんはいつもそうだよねぇ。」
「ははっ。たしかにいつもお前は理不尽とばっかりいってるなあ!もう少しは何か明るく回りを見れないのかな。」
最初に話しかけてきたのが、冬野 雪菜。小さい時からの付き合いだ。黒髪ボブの、まぁクラスに1人か2人いる可愛い系の女の子だ。言葉の語尾をちょっと伸ばすのが癖みたいだ。
次に話しかけてきたのが、王道 進。こいつも小さい時からの付き合いだ。少し明るい茶髪の……イケメンだ。っけ。いつも少し上から物を見ているかのように話す。イケメン臭がすごい。
「うるせぇー。」
と、いつもこんな感じで三人で過ごす事が多かった。っていうか、この二人くらいしか交友関係があんまり無かった。
そして俺は、西条 創。何もかも普通。容姿は気にしたことはないが、黒髪のどこにでもいる容姿だと思っている。…思っているということが大事なのだ。誰が何を言おうと普通だ。そう!普通なのだ!
といつものように3人でだべりながら帰り道を進んでいた。
いつもなら3人が分かれる分岐点となる交差点が見えてきた。しかし、いつもとは異なる光景が見えてきた。
「あれ、なんか道の真ん中にいるねぇ~。」
雪菜の言うとおり確かに、信号の中心に何かがうずくまっている。
「猫とか犬とかじゃねーの。あのままじゃ轢かれるかもしんねーな。」
「えぇ~!?そんなのやだよぅ~。助けようよー。」
「そうだね。少し様子を見るためにも近くにいってみよう。」
その場につくと、やはり子猫が信号の真ん中でうずくまっている。回りにひっきりなしに車が走っているせいで怖くて動けないようだった。しかし、近くにいくと泣き声が聞こえてきた。
「ラッキーーーー!ラッキイイイ!もどってきてええええ」
小さい女の子の声がその場に響き渡る。しかし、回りのみんなも車が川のように流れる交差点に入る術も無くただ見守ることしかできなかった。
しかし、いつまでもそんな状況が続くわけもなく、危険運転で交差点で前の車を追い越そうとする車が迫ってくるのがわかった。
「みて!あの車に轢かれちゃうよぉ~!」
その声を聞いたのか、いきなり女の子が道路に飛び出した。
「チッ!くそがっ」
俺は意識せず走りだしていた。
間に合え。間に合え。届け。届け!届けええええ!
俺は女の子に向けて今まで出したことのない全力で走った。この時不思議と時間が長く感じて、なんでこんなことをしているんだろうか、などを思いながら走っていた。
案の定、女の子は子猫にたどりつくまえに手前の車の前に飛び出していた。女の子と車の距離は3mほど。俺と女の子の距離は1mほど。
――――――あぁ、これは俺は助からねえかなぁ。
少女を思いっきりひっぱって投げ捨てる。これは仕方ない。これくらいは許して欲しい。俺なんて----ドンッ、バアアアアアン!
ほらな?
視界が揺れる。痛い。むしろ、苦しいのほうが近いか。
薄れる意識の中、響き渡る3つの声と一緒に轢かれてしまったであろう子猫が気がかりだった。
*****
「どこなんだここは。」
真っ白な世界に一人だけの自分。不安になって口から出てしまった言葉がこの言葉だった。
そのとき、不意に頭の中に
------西条 創は、本日死亡しました。------
ふーん。なんだ死んだのかって…………「納得できるかあああああ!」
まだ俺はやりたいことがたくさんあった!例えばっ……あれ、なんかやりたいことなんてあっt「申し訳ございません。貴方を間違って死に導いてしまいました。」
――――――!?なんだ今の声は!
澄んだ声、どこまでも響いていってしまいそうな美しい声が白い世界にコダマする。
「私は神です。この世で唯一の神 ------ルシフェル・ビトレ…いえ、気軽にフェルって呼んでも構いませんよ。」
――――――神!?まじで神なんて居たのか…。ていうか、こいつ今俺のことを死に導いたって…。
「おい、じゃねえ…。あの、神様、居るなら返事をしてくれ、です。それと、俺を殺したってマジなのですか?」
「はい。もちろん存在しております。私以外に神なんて居ないのですけど…。そして、貴方を私が殺した訳ではないですが、間接的に関わったのは事実です。」
――――――くそっ、あいつのせいで俺は死んじまったのか!どうしよう、家族とかどう思ってんだろうな…。つっても、俺には心配してくれる家族や知り合いなんて居ない…いや、まぁこの話はいいや。
「はぁ…。どうしてくれんだよ、です。つか、俺この後どうなんの?」
いきなり殺されたと言われて俺の言語能力はガタガタだった。
「本当に申し訳ないと思っております。ので、特別に選択肢を与えることにいたしました。」
【転生する】 or 【このまま消える】
さあ、どちらにしますか?
――――――ちょ!いま何て!?、転生か消えるかだと…。----そんなの決まってんだろ?だから俺はイイ声で言ってやった。
『転生します』
「かしこまりました。それでは、異世界へ転生させましょう。」
「なんだこれ!?体が光だしたぞ!」
まばゆい光が俺の体を包み込む。もう自分の姿すら確認できないくらい光っている。
「それは体が分解されている光です。ご安心ください。貴方の記憶は失われませんので。それと、少しだけ私の力の一部を授けましょう。いずれ貴方は成長し、この世界の……いえ、とにかく力強く生きなさい。良き生活があらんことを―――――」
――――――ちょ、まて!まだ聞きたいことが-----
そこで俺は意識が薄れていくことだけがわかった。
そこは、綺麗な場所だった。暖かく、柔らかな世界の中で、俺はふわふわと過ごしていた。
「ずっとこの空間に居れたらなぁ。そういえば、なんで俺はこんな空間にいるんだろう。」
そこは、毎日天気の良い日に木陰で芝生に寝転んでいるような、幸せな時間だった。
「はぁ~~~。もう一生このままでいいかなぁ~。しっかし、ずっとこう気持ちのいい天気なんて続くもんなんだな。」
そんな時、ふと知らない男の声が聞こえてきた。
『呆れたな。いつまでそんなに怠けているつもりだ。お前は何だ。思い出せ。いつまで寝ぼけているつもりだ。やらなくてはいけないことがたくさんあるだろう?』
――――――なんだ…今の声は…。なんなんだ!くそっ!頭が痛い!体が痛い!痛い!痛い!痛い!いた…くなくなった…。あれ、声が出ない。ん~~~~!-------
「オギャ、おぎゃああああ。オギャーー」
聞こえてきたのは赤ん坊の声。おいおい、まさか勘弁してくれよ…。
「おぎゃああああああああああああ(赤ん坊からスタートかよおおおお)」
絶望に打ちひしがれている中、苦しそうな、それでいて優しい声が聞こえてくる。
「██████ト▒▒▒s▒▒▒▒▒、▒▓█▓▒▒▓█▓」
何を言っているのかさっぱりわからない。しかし、何故か安心できる言葉をかけられて先ほどの苦しみが嘘のように消えていった。
「█▒▒▒▒▓テ▓▒▒」
『ふふっ』
その優しげな声と不気味な笑い声を最後に意識を手放した------