1-15 現代魔法使いの意地
「セ、セシリアやめようよ。先生もこれからは気を付けるって言ってたし」
「それだけじゃ駄目なの。私は古代魔法も十分に凄いんだってことを分かってもらえないと納得できない」
セシリアは学院内の長い廊下を突き進んでいく。
そんなセシリアの後をリュエルが必死に追うが、セシリアに止まる気配はない。
放課後になった今、セシリアはサムの研究室へと向かっていた。
理由はもちろん今日の授業でのことの話の続きをするためである。
そして徐々にサムの研究室が近づいてきた。
「す、すごい人だね。やっぱり今日は止めて機会を改めた方が良いんじゃ……」
サムの研究室の中にいる生徒たちを見てリュエルが呟く。
といってもリュエルからすれば今日一旦セシリアを落ち着かせて、その後に自分が何とか止められないかと画策している。
「サム先生!」
しかしそんなリュエルの思惑とは裏腹に、セシリアが中で生徒たちと話しているサムを大きな声で呼ぶ。
研究室の中にいた生徒たちが一体何事かと振り返るが、セシリアは気にしない。
「えっと君は……セシリアさんだったかな」
「はい。セシリア=ルーズベルトです。今日の授業のことでお話が」
周りの生徒たちから不躾な視線が向けられながらも、セシリアは堂々と言い放つ。
「あー……皆ちょっと今日は彼女と用があるから、ごめんね」
サムは研究室にいた生徒たちに声をかける。
生徒たちは不思議そうな表情を浮かべながらも、特に何か文句を言うこともなくサムに言われた通りに研究室から出ていく。
「……えっと、それで話って?」
サムとセシリア、そしてリュエル以外は誰もいなくなった研究室で、サムが聞く。
「先生は今日の授業で、何か凄いことが出来れば古代魔法を認めてくれるって言いましたよね?」
「まあ、そう言ったね」
「なら私が、その凄いことをやって見せます」
「セ、セシリア!」
セシリアを止めようと、リュエルが宥めるがやはりセシリアに止まる気配は見えない。
じっとサムを見続けている。
「ふむ。具体的にはどんなことを?」
サムは興味深そうに頷くと聞き返す。
リュエルもセシリアを心配そうに見ている。
「————ブラックベアを討伐してみせます」
「なっ!? セシリア!?」
セシリアの発言を聞いたリュエルは驚かずにはいられない。
ブラックベア――――それは一般的に獰猛な動物として知られている。 深い森には大抵生息しているブラックベアは、個体数こそ少ないものの、一匹一匹の戦闘力という点においては森に棲む他の野生動物の追随を許さない。
それだけブラックベアが危険な動物であるというこを重々承知しているセシリアだからこそ、今回サムに提案したのだ。
「それはつまり古代魔法だけでブラックベアを倒すってことで、良いのかな?」
「サ、サム先生!?」
ほとんど悲鳴とも取れる声でリュエルが叫ぶ。
「もちろんそれで構いません。私の本はここに預けていくので」
「セ、セシリアも待ってよ! さ、さすがにそれは危険すぎるって!」
ただでさえ獰猛で強力なブラックベア。
それを倒すことは並の魔法師では難しいだろうが、セシリアの実力であれば可能だろう。
しかし今回、セシリアは古代魔法だけでブラックベアと戦うと言っている。
それでは本来のセシリアの実力の半分が出せるかさえ微妙なところだ。
(……あまりに危険すぎる)
リュエルは内心、焦らずにはいられなかった。
しかしそんなリュエルとは裏腹に、話はどんどん進んでいく。
セシリアは既に魔法師の生命線とも呼べる魔法書をサムに預けてしまっていた。
「セシリア、やっぱり止めようよ。危ないって!」
危険な行為を顧みらないセシリアを何とか止めようとリュエルは必死になるが、もはやセシリアはリュエルの言葉を聞いてすらいなかった。
どんどん話を進めていく二人に、リュエルの入る余地はない。
「じゃあいってきますから」
「あぁ。もし本当に倒せたら、僕もさすがに古代魔法を見直さないといけないね」
気が付けば話は進みに進み、セシリアは研究室から飛び出していってしまった。
話からするに、今からでもブラックベアの討伐に向かうのかもしれない。
「サム先生! 一体どういうつもりなんですか!」
二人きりになった研究室でリュエルはサムに詰め寄る。
「もしセシリアになったら問題になってしまいますよ!? そんなことになったら……!」
「まあその時はその時さ」
「あなたって人は……っ!」
「ほら、早く止めに行ってあげないとお友達が危ないよ?」
「っ!」
リュエルは最後に一度だけサムを睨むと、セシリアを止めるために研究室を飛び出した。
◇ ◇
「ふわぁ。今日も疲れたなぁ……」
ダリウスが欠伸を噛み殺しながら伸びをする。
今日は珍しく他のクラスを授業することが多く、いつもより余計に疲れていた。
ダリウスは誰もいない研究室でぼうっとどこかを見つめている。
(ここ最近はやけに騒がしかったからな……)
ここ数日、ずっと毎日やって来ていたリュエルのことを思い出す。
魔法についてのことなど色々と聞いてくるリュエルはダリウスにとっても新鮮だった。
だが昨日からそんなリュエルの姿も見ていない。
セシリアに聞く分では恐らく昨日は何らかの理由で休んだのだろう。
今日は自分のクラスで授業が無かったダリウスは、今日リュエルがちゃんと出席しているのかも分かっていない。
しかし放課後になった今、研究室にやって来ていないということはつまり今日も恐らく出席はしていないのではないだろう。
ダリウスはそう考えると思わず息を吐く。
別にリュエルが来ることを楽しみにしていたわけじゃない。
だがあれだけ毎日来ていたリュエルが急に来なくなってしまったということに違和感を感じずにはいられなかった。
「——先生ッ!」
「っ!?」
しかしその時突然、研究室の扉が開かれる。
驚くダリウスは突然の来客に何事かと身構えるが、その視線の先にいたのはここ数日毎日研究室に通い詰めていたリュエル本人だった。
「ど、どうしたんだ?」
だが普段のリュエルを知っているダリウスからしてみれば、今のリュエルの慌てようはどうにもおかしい。
「昨日も休んでたみたいだし、何かあったのか?」
息を荒くするリュエルを必死に宥めながらなんとか話を聞こうと試みるダリウス。
しかしリュエルはそんなダリウスの質問に首を振りながら、ダリウスの肩を強く掴む。
「先生……! セシリアを……」
「あ、あいつを?」
「セシリアを、助けてください……!」




