02. 魔女の家
鬱蒼とした森の中。冷たい風が頬を撫でる。
大蜘蛛にベッタリと絡みつかれた糸から何とか抜け出し、目の前の女性に目を向ける。
「ど、どなたかは存じ上げませんが助かりました。いや、あんな生き物がまだ日本に現存していたとは……」
【正義の魔女】と自分を自称した謎のコスプレ美女を前に驚きを隠せない。そして何故魔女の前に"正義"がつくのだろう。
なにか映画の撮影をしていた場所に俺は迷い込んでしまったのだろうか。
「あっ、申し遅れました……私は内藤 清政と申します。何をおかしなことをと思われるでしょうが、気がついたらここで意識を失っていて…。お手数おかけしますがここはどこでしょうか? スマホも圏外のようでよろしければ公共交通機関への道のりを教えていただきたいのですが…」
ポケットからスマホを取り出し、圏外のスマホを見せる。
試してみたが衛星通信でのネット利用も不可能だった。とりあえず最寄りの駅などに案内してもらわなければ。
自己紹介すると彼女は目を見開き、驚愕といった感じで俺の顔を凝視する。
「あなた、もしかして祖父の名は"マサオミ"というのではありませんか?」
「え? あぁ、いかにも私の祖父は正臣。内藤正臣ですが…」
その問いに答える彼女は少し目が潤んでいる。
どうやら祖父の知り合いのようだ。
胸の前にキュッと手を潜めた彼女はなんだか懐かしそうな目をしていた。
「貴方はまだこちらの世界に来たばかりなのですね?混乱するのも無理はないでしょう。マサオミが来た時も同じような顔をしていました。ほんとうに、懐かしい…」
じいちゃんがここに来たことがある? なんにせよ祖父との知り合いなら話は早い。彼女は甘く見積っても20代前半で若々しいが、こんなコスプレ美女とどういう経緯で繋がるのだろう。
「えっと、祖父のお知り合いなのでしょうか。残念ながら祖父はかなり前に亡くなりまして…」
「ふむ、そこからマサオミは"こちら"の世界に転生した……聞いていた話とも合致します。…キヨマサ、貴方の事は知っています。まず、私の住んでいる家にご案内しますのでそこでお話しましょう。貴方の今置かれている現状について」
そう言うと彼女は手招きしてもう少しこちらにくるようにと促す。
距離が近くなったことを彼女は確認するとおもむろになにもないはずの空中から剣を取り出し、地面に突き立てた。
「えっ!? 今どこから出しましたそれ!!!??」
フフン…と彼女は得意げに鼻を鳴らす。
ほどなくして、光が2人を包み込む。
先程大蜘蛛に襲われそうになったときに見た光の壁だ。
あまりの眩しさで目を閉じてしまう。
数秒後、光が収まった。ゆっくりと目を開けるとそこに見た光景があまりに非現実的で呆けてしまった。
「ようこそ、正義の魔女の箱庭へ。歓迎します。キヨマサ」
そこにあったのはひとつの苔むした可愛いとんがり屋根の家。その前を一面に広がるは宝石のような花畑。
そして何より驚愕したのが、先程見た大蜘蛛よりも大きなトラックくらいの巨躯をと翼を持つ大きな銀色のトカゲ。世間一般でいうところの"ドラゴン"が俺の目と鼻の先でフシュルルと、睨んでいた。うーん、ゲ〇戦記。
「───」
内藤清政、2度目の暗転。
薄れゆく意識の中でなにやら魔女さんがドラゴンに対して怒っている。剣も空中から出てたしコスプレ魔女ではなくガチモン魔女だったのかもしれない。
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コトポト、という音と干し草の香りで目が覚める。
どうやらベットの上のようだ。
「んがッ……あれ、ここは、、、知らない天井だ…」
「何を言っているのですか。そして起きましたかキヨマサ。これを飲んでください。楽になりますよ」
ベットの横に魔女さんが座っていた。
世代的に知らないのか。俺も歳をとったものだ。
ここは先程見た魔女さんの家だろうか。全体的に魔女っぽいというかサイバーパンクというか。窓際でキノコ生やしてるし、さっきのドラゴンのことも相まってジ〇リの世界に飛び込んでしまったのだろうか。
魔女さんは装備していたアーマーを着脱し、白のワンピースに魔女といえばなローブを肩にかけており、ラフな格好になっている。そんな軽装魔女娘は木のコップにいれた飲み物を渡してくる。緑色の液体だ。こぽこぽしているし、メロンサイダーかな?と思いつつ飲んでみる。
「なんですかこれ? 漢方というか、エスニックというか」
途端に体に力が漲る。
が、あまり美味しくはなかった。
想像していたメロンソーダの味でなかったためか、むせそうになる。
「ドラゴンの血を薄めたものです。滋養強壮にとても効果があります。…さきほど彼が申し訳なさそうにしながら作ってました」
「ブホォッ!」
魔女さんが"彼"といいながら指を窓に指すとそこにはこちらの様子を伺うように角だけ見えているドラゴンがいた。
思わず吐きそうになる。
何を飲まそうとしているのだこの人は。
「血…彼のですか?飲んで大丈夫なものなのかそれ…」
「ドラゴンの血には魔力を増加させる特別な効果があります。王侯貴族でもなかなか飲めないものなのでグイッといっちゃってください。転移魔法先で待機して驚かせるのが彼のマイブームな様でして…きちんとお仕置しておきましたので許してあげてください」
ぺこりっと申し訳なさそうに謝る彼女を横目に窓を見やるとビクッと震えて居なくなってしまった。一体何をされたのだろうか。てかここまでくると夢でもなんでもなく、現実だということに、、にわかには信じがたいがじゃあこの状況は一体……
それでは、と魔女さんはいうとそのブロンズの吸い込まれそうな瞳で俺をとらえる。
「今の現状を説明する前にまず、キヨマサ。貴方の状況を擦り合わせるためにあの森に来るまでの経緯を教えて頂いてもいいですか?」




