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最終話・パチン!と指を鳴らしたら

「お待たせしました」

 との声と共に神様が現れた。


 ムスタファと私、一つ目巨人と紅竜がその元に集まる。

 神様は胸を張った。

「今度こそ、感謝して下さい」

「もう生け贄は必要ないのか?」と弾んだ声の竜。

「いえ、それはやはり魔物のアイデンティティだから譲歩できないと断られました」

 ブーイングが沸き起こる。


「ただし!」と神様が人差し指を天に向けて立てた。「生け贄姫が手に入らない場合、ロック鳥の卵の殻の粉末スープで良いとの条件を引き出しました!!」

「やったわ!!」

 思わず飛び上がり、神様に抱きついた。

「ありがとう、神様!」

「だから感謝しなさいと言ったでしょう」

 神様はふんぞりかえる。


「もちろん感謝します、神様!」

「それは俺が取って来ていいのか?」と竜。

「いいえ。あくまでも生け贄姫の代替物なので、人間が用意しなければなりません」

「そうなのか……」と竜。

「微妙」と一つ目。

「じゃあ、私の仕事は終わり。帰ります」と神様。

「本当にありがとう!」

「お達者で」


 神様は人間的な別れの言葉と共に姿を消した。


「良かった!これもみんなのお陰だわ!」

「まあ、姫さんが納得してるなら良かった」と竜が言う。

 なんだかあまり嬉しそうじゃない。不調が起きないようにしてもらえなかったからだろうか。


「よし」とムスタファ。「俺が卵を取りに行く」

「戻るまで姫さんは預かる」と一つ目。

「ああ。必ず帰るから彼女を頼む」

「あら、私も行くわ」

「「「え?」」」

 三人の見開いた目が私に向けられる。


 あれ?

 何だろうこの雰囲気。

 なんとなく嫌な予感がする。


 ムスタファが地の底に届きそうな深いため息をついた。

「あんた、やっぱりロック鳥を知らないだろう?」

 この言い方。

「……もしや普通の鳥じゃないのかしら?」


「ロック鳥は」とムスタファ。

「羽を広げると、全長ゆうに10メートル」と竜。

「じゅっ!?」

 プテラノドンか!?

「腹が空いてると人も喰う」と一つ目。

「住んでいると言われるのはアララト山」とムスタファ。

「その他の魔物もたくさん住んでいる」と竜。

「肉嫌いの俺たちと違って、人間が大好物の普通の魔物たち」と一つ目。


 ムスタファがまたため息をつく。

「だからあんたはここで待ってろ」

「ロック鳥の巣の近くまで魔法で送ってやる」と一つ目。「ちゃんと生きて戻れよ」

「ああ」うなずくムスタファ。


「……ごめんなさい、知らなくて」

「いや、いいんだ」

 ムスタファが初めて笑みを浮かべた。

「本来はうちの王国の問題だ。あんたは巻き込まれただけ。むしろ生け贄姫の代替品を引き出してくれただけ、ありがたい」

 魔物二人が大きくうなずく。


「それでも一緒に行きたい。足手まといかしら?」

「はあ?なんでだよ」

 ムスタファは呆れ声だ。

「確かに巻き込まれたけど。私ももう当事者だし、あなた一人を危険な場所に赴かせてのんびりなんて、していられないもの」

「……あんた、本当に姫君なのか?ちっともらしくない」


 うっ、と言葉につまる。

 子供の頃からやんちゃで、8才になってもちっとも王女らしい振る舞いが出来なかった。

 最初は心配していた両親もやがて匙を投げ、王女らしくない雰囲気が素敵と言われて男女も身分の上下も関係なくたくさんの友達ができた。


「らしくなくても王女だし、私はこんな自分が好き。自分を嫌いになりたくないから、ロック鳥の卵をこの手で取りに行きたい」

 はっとして、一つ目を見る。

「私が死にかけたら、あなたは分かるのかしら?ここへ呼び戻せる?」

「映るものを持ってれば。鏡が一番いい」

「良かった!死にそうになったら呼んでもらって、ジャイファルが食べればいいのよ!」


 またため息の三重奏が聞こえた。


「お前、この姫さんを食べても治らないんじゃないか。逞しすぎる」と一つ目。

「同意」と竜。

「右に同じく」とムスタファ。

「失礼ね!私は歴とした姫君よ」

「とんだ姫君だな。それじゃ、まずはその服をなんとかしないとならん」

 ため息を付きながらもムスタファがそう言ってくれた。

「ありがとう、ムスタファ!」


 パチン、と鳴る指の音。


 私のドレスがアラビアンナイトのお姫様のような……


「ひっ!!」

 お腹を抱えてしゃがみこむ。


「どうした?」と不思議そうなムスタファ。

「スタイルがいいって言うからこちらの姫君衣装にしたんだが」と一つ目。

「私の国ではお腹は出さないのよ!!」


 そう、今の私の服はお腹がばっちり見えているセクシーすぎる服。

 父や兄にだって見せたことがないのに。


「顔も耳も真っ赤だ」と竜。

「女の子らしいところがあったな」と一つ目。

「人を食らうロック鳥は平気で、腹見せがダメなんて」

 竜の言葉にムスタファが笑っている。

「この服!可愛いけど山登りには向いてないと思うの!」


 パチン、とまた指の音。

 今度はムスタファと同じような、男物の動きやすい服。ほっと息をついて立ち上がる。

「ありがとう」

「あんたのへそ、可愛いかったな」ニヤニヤ笑いのムスタファ。「おおっと!!」

 私渾身の右ストレートを簡単に避けられてしまう。

 竜が笑い声を上げた。


「ほら、姫さん、鏡」

 一つ目が鎖のついたそれを差し出す。

 受けとると首から下げた。

「あと、これ」

 と次に渡されたのは小さな剣。

「お守りみたいなもんだ。肌身離さず持ってろ」

「色々とありがとう。必ずロック鳥の卵の殻を持ち帰るわ」

 彼はムスタファにも幾つかの品物を渡した。そして。

「よし、送るからな」


 一つ目巨人がパチンと指を鳴らす。


 次の瞬間、私は荒れ果てた岩山に立っていた。隣りにはムスタファ。

「じゃあ、ロック鳥の巣を探しに行きましょうか」

 私がそう言うとムスタファは柔らかな笑みを浮かべて、首を横に振った。

「まずその前に大事なことを忘れている」

「何かしら?」

「俺はムスタファ。あんたは?」


 その問いで初めて、まだ名乗っていないことに気がついた。


「エミリアよ。よろしくね」










 ◇◇








 それから。

 ロック鳥の卵の殻を巡る冒険とか。

 無事故郷に帰ったら、ヴァイクリフが王女誘拐犯として逮捕されていたとか。

 国が隣国に攻め込まれたら、ジャイファルが敵軍に炎を吐いて撃退してくれたとか。



 ムスタファと私の恋の駆け引きとか。


 それはまた別のお話。











お読み下さりありがとうございます。

このような終わり方ですが、続きはありません。



《その後のヴァイクリフ》

約束通り魔物の王宮に戻るが、竜からエミリアとムスタファを既に食べたと聞かされる。涙ながらに自分も食べてくれと懇願するも拒絶され、仕方なしに魔法で祖国に送ってもらって自ら出頭した。


《おまけ》

第7話で神様がいったん去った後、ムスタファは、

『俺を姫にしろと頼んだほうが簡単だったかな』

と後悔したとかしないとか……。



◇◇



《ロック鳥の卵の殻で○○が治る》ネタについては、映画『シンドバッド七回目の航海』を参考にしました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きはもうないのでしょうか…(´;ω;`) 長編にして欲しいくらい面白いです
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