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REMAKE  作者: 悠夕
第四章 『乗り越えるべき記憶は雷鳴と共に』
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第13話 『ノイズ』

 電車に揺られながら、俺と健人とで溜め息をひとつ。

「仲良いな、女性陣」

「ホントな」

 初めまして織センパイ、未緒李センパイって呼んでいいですか?から始まった会話なのだが。今じゃ普通に、向かいに座る三人はガールズトークに花を咲かせていた。これが女子達の団結力というものなのだろうか。ちょっと男子ー、○○ちゃん泣いちゃってるじゃーん!ってアレである。

 まぁでも、周りに比べたら女子力がほとんど無いと言われても仕方がない格好をしている織ですら、話しながら浮かべる笑顔は『年頃の女子』のソレだった。織が楽しめてるってんなら、今回の目的としては良しだろう。

 ……良し、なのだが。少し無防備すぎるのも気になる。俺も人のことは言えないけれど、舞姫も瑠璃も、そして健人も刺青を何も隠さずに剥き出しにしていた。意図的かはわからないが織はダボっとしたパーカーのせいで萌え袖になり、刺青はいい感じに隠れている。

 さっき罪悪感にかられながらも女子トークに口を挟み、こんな無防備でいいのか?と舞姫に質問を投げたところ、


『まぁ能力者は寄ってきてくれた方がいいんじゃない?勝利が近づくし。いざ戦闘になったとしても、五人いればどうにかなるでしょう』


 と、ヘンに前向きな応えが返ってきた。いやまあ、確かになんとかできるだろうけども。

 言ってしまえば相手だって群れていない可能性はゼロでは無いのだ。俺たちを除けば、他に脱落者が居なければ残りは九人。そいつらが全員単独で動いてるとは言い切れないし、九人全員が列を成して襲いかかってくる可能性だって無いとは言い切れない。

「……いくら考えたって仕方ないんだけどな」

 楽しそうに話す三人を眺めながらもういっちょ溜息。溜息の度に幸せは逃げるらしいのだが、目の前の微笑ましい光景を見れば逃げる以上に補給できている気がする。気がするだけなんだが。

 とは言え手持ち無沙汰なのも事実。考えることをやめてしまえば太陽に焼かれるしかないのだ。暑い。

「とりあえずアレやるか、親指二本立てるやつ。指スマって言うんだっけか?」

 なんて懐かしい遊びを提案してやると、割と乗り気なのか健人も顎に手を当てながら「あー」なんて笑いながら頷く。

「アレだろ、いっせーので指あげるやつ。オレいまだにアレやってるよ」

「お、なんだ現役か。若いモンには負けんぞ」

「おうおう、オレだって老いぼれに負けるつもりは毛頭ないぜ」

 そして始まる仁義なき指スマ(正式名称不明)大会。勝敗や如何に。


 ◇◆◇


 仁義なき指スマ大会は意外に熾烈を極めた。かなり楽しかった。良いもんだな、童心に帰るってのも。

 まぁそんなこんなで電車に揺られること約二十分程。目的地の『可児名(かにな)駅』に電車は俺たちを吐き出した。

 地元の梅ヶ崎駅近くにはほとんど遊ぶところは無いものの、ここまで来れば1日は優に時間を潰せる。

 改札を出て視線を右にやると、今回のメインである『カニウォーク』が見えてくる。

 常に横歩きしていそうな名前のソレはなかなか大きな施設で、服屋や色んな飲食店、映画館にゲームセンターと色々なモノを揃えている。中央広場にはステージがあり、休日や長期休暇なんかにはヒーローショーが開かれていたりだとか有名人が招かれたりしてる結構賑やかな場所なのだ。

 ……まあそれだけの人気施設だと人が多いのも事実。ああ、見ろよ。人がゴミのようだ。帰りてえ。

 そんなローテンションな俺をよそに、ヤケにテンションがハイな舞姫は両腕をバッと上げて、


「可児名よ!私は帰ってきた!」

「うーん、イッツハイテンション……」


 ホントに今回こいつが一番楽しんでいるんじゃなかろうか。

 半目でため息をつきながら見つめていると、両手を下げながら小首を傾げて見つめてくる。

「なあに、帝。私の顔になんか付いてる?」

「いーや、なんでおまえ、そんなにテンション高いのかなって」

 問いかけると、舞姫が「ああ」なんて呟きながら、柔らかい笑みを浮かべ言った。

「帝とこうやって出かけるの久々でしょ?だから嬉しくて」

「──────」

 何の汚れもない純粋な笑顔を向けられて、思わずそれから視線を顔ごと逸らす。顔が暑いのは強い日差しのせいだと願いたい。唯一この会話を聞いていた健人はにやにやと楽しそうな視線を向けているが、指スマは結果的に勝ったし見逃しておいてやることにする。クソッタレ。

 舞姫を除く女子二人はいまだに女子トークに花を咲かせ、すごいねーなんて言いつつ人ゴミを眺めている。そんな二人を遠目に眺めて舞姫は、


「……だってさ。帝が引きこもったの、私のせいってのもあるし」


 一瞬、行き交う人達のざわめきが遠のいた気がする。

 健人に聞こえるか聞こえないかギリギリくらいの声量。その呟きは俺の耳にはしっかりと届き、脳の奥底にしまい込んだ記憶を疼かせる。

 ザザ、と。脳内にノイズが走った。

 耳の中をかき回されるような不快感。脳内は灰色に染まり、その中に軽蔑の視線を見る。

「…………まだ言ってんのか、舞姫」

「だってまあ、事実だから」

「何度もそんなことないって言ったろ。気にすることねえよ」

「帝はそう言ってても、私は────」

「いいよ、もう。ほら行こうぜ!こんなこと考えてちゃ楽しいもんも楽しくなくなる!」

 できるだけ大きな声を出して、笑顔を貼り付けて。織達に向かって歩き出す。


 ◇◆◇


「気持ち悪い……なんだよ、それ」

 そうだ。もっと軽蔑の視線を向けろ。

「やだ、来るな……こっちくんなよお前」

 そうだ、俺を遠ざけろ。できるだけ意識から逸らせ。

 がむしゃらに、ただひたすらに、憎いアイツ(オヤジ)と掛け離れた人間になろうと駆けていく。

 独りで、目的地も決めずただただまっすぐに。

 怖くはなかった。なんてったって目の前は何も見えない暗闇だ。目の前に何が待ち受けているか見えるよりは、何も見えないところに走って行くほうが断然楽だった。

 だから途中、何度も何度も転んでも。狂ったように走り出す。

 まだ見ぬ光を求めて、背を向けたオヤジから逃げるように、ただただ走って。

 それでようやく引きこもって、立ち止まって。走ってきた道を振り返って、馬鹿だったかもなぁなんて思うのだ。

 そんなの今更、遅いだろうに。

ちょっと短い気がしなくも

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