第14話 『本命は決めかねる』
カニウォーク内。なんかすごく女の子らしい店の前に俺たちはいた。
「やめろ俺は入りたくないHA・NA・SE!!」
「なんでよー!帝入らないと面白くないでしょ!」
「どこに面白みを求めてるんだやめろ!!」
そして女子三人組に右腕を掴まれ、引きずりながら店内に入れられそうになっていた。嫌だマジで入りたくない。
女子達だけで入ればいいのに、それじゃ面白くないとか言う謎の理由で俺まで道連れをくらいそうになっているわけだが……仲間のはずの健人は早々に嫌な予感を感じやがり、便所へと逃げていった。くそッ、俺はさしずめスケープゴートか!!
「ほーら帝センパイ観念しましょう!」
「だが断るッ!!」
「それ今この現状で使うセリフじゃないんですよね瑠璃知ってます!」
「くそぅ、無駄なヲタ知識を付けやがって……!!」
粘ってはいたもののスタミナが底をつき、ズルズルと店の方向に引きずられていく。だいたい現役引きこもりが女子三人の腕力と足腰に敵うわけなかったのだ。なんか字面的にはすごくみっともないけど。
俗に言う『くっ殺顔』で引きずられていると、楽しそうに笑いながらも口を閉ざしていた織が口を開いた。
「ほら、そろそろ周りの人の目が痛いでしょ。観念しよう、帝くん」
「うわぁそれを言われると弱い……」
そう、周りの視線はかなり痛い。なんか、なんだ。奇妙なモノを見るような目で見やがる。
正直そろそろ限界だったし、観念して店に向かって歩き始める。
店内に入った感じ、イメージは外から見た感じと変わらず『女の子らしい』というもの。店の中に並ぶ服やら商品は女性モノのみで、店員だって女性しかいな………ああいや、ひとりだけ男の人がいたわ。なんか歩き方とかなよなよしいけど。
「……で、俺をこんなところに入れてどうするつもりなんだよ女子三人組。店員さんの視線ですら痛いんだけど」
「ふふーん、どうするかと言われるとですねえ」
楽しそうな笑顔を作る中村と舞姫。だがもう1人の織は目的を知らされていないのか、小首を傾げるだけ。なんだなんだ。
「未緒李ちゃんね、服に興味がないみたいだから。私たちが見繕って着てもらって、帝に評価してもらおうってわけ。男の子の評価が一番いいでしょ?」
「帝センパイのセンスが試されますよー?」
「それ俺じゃなくて健人でもよくねえ?」とつぶやいたものの華麗にスルー。織は照れ臭そうに笑い、残る二人も楽しそうに和気藹々と話ながら服がいくつも並んでいるコーナーに歩いて行ってしまった。
……にしてもすごく居心地が悪い。こういう服系の店をユニクロ以外避けて生きてきたから余計に、というのもあるんだが。放っている雰囲気が独特というか、なんというか。
「だいいち、男が俺以外いねえ……男性客とか絶対少ないだろ」
「いぃえー、そんなコトないですヨ?」
「うわあ!??」
突然隣から返された返事に思わず声を上げる。
若干その場から飛び退きながらも声の主に目をやると、店に入った時に目に入った男性店員がそこにいた。なお歩き方だけじゃなく、喋り方と仕草共になよなよしい────というか女の子っぽい。
「よく女性のカタが彼氏なンかを連れてよくお越しになりますヨ?」
「あぁ、はぁ。そうなんですか……」
ヤケにカタカナ発音の店員に若干押される。なんだこれ、扱いづらいったらありゃしない。
苦笑を浮かべながら距離を取ってみるが叶わず、ジリジリと男性店員が距離を詰めてくる。
……尻の穴がキュッとした。なんだ、この人そういうクチなのか。やめてくれ、俺はノンケだ、女の子が好きなの!!二次元三次元問わず!!
なんて怯えていると店員の顔が俺の耳元に寄ってきた。ぞわぞわ、と寒気が走るのを感じながら目を瞑ると、
「……で、どのコが本命ナノ?」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が飛び出した。
「惚けてもムダムダ♪あの中に本命がいるんデショ?」
「なに店員さん人間やめてんですか……」
「何を言ってるかわからないケド話を逸らそうとしたってダメヨ〜」
……どうやらヲタネタも通じなければ話を逸らすのも無駄らしい。
思わず顎に指を添えて、本命か……だなんて真面目に考え始めてしまう自分が憎い。
本命。言わずとも、恋愛対象としての本命だろう。そんなの今まで考えてこなかった。
確かに全員可愛い顔をしているけども、俺には色気の『い』の字もないわけで。甘々ホワイトチョコレートデイズを謳歌している俺にはそんなレモンアイスみたいな甘酸っぱい事案は少し厳しい。
「……そういうのあんま、わかんねーっす」
「ふむふむ、ソウ?まあそういうお年頃よネェ」
くそ、うまい具合に手のひらの上で転がされてる。すごくムズかゆい。
「からかって満足したカラ、僕は仕事に戻るネ」
ばいばーい、と手を振って戻っていく男性店員。今更だがアレは男性と表すのは正しいのだろうか。
……本命、恋愛対象。男性店員のせいで、突然頭の中が桃色に染まりやがって驚きを隠せない。
そんな答えの出ない果てしない疑問をうんうん唸りながら突き詰めつつ、早く女性陣たちが戻ってくることを願うのだった。
◇◆◇
「帝いいよー、ほらほら。ついてきて」
男性店員が去ってから5分くらい経った頃。舞姫がなにやら試着室の方からかけてきて、俺の手を引っ掴む。
「やめろやめろ、自分で歩けるから。逃げたりしないから」
ため息をつきつつ、舞姫の後ろをついていく。ここまで来れば腹はくくってある。さあ、俺のボキャブラリー量に恐れ戦くがいい。
試着室の横には中村が立っていて、楽しそうな笑顔を向けながらカーテンの端を指先で弄んでいる。
「さあさあ帝センパイ、準備はいいですか?」
「おーバッチ来い。いつでもいいぜ」
無駄に威勢の良い応えを返しつつ身構える。
正直あの織がどこまで変わるのか、と期待反面若干の恐怖心を抱えていると、
「……おお」
出てきた織に、思わず歓声を上げた。
全体的にダボっとした服から一転、舞姫と中村と同じく白いイメージに変わっている。
白いワンピースに丈の短いジージャン。たぶん羽織ってるジージャンは中村チョイスだろう。コイツこういうの好きそうだし。
「ねえ、どう、どう?私と瑠璃ちゃんは今日どっちとも白いからさ。白って感じにまとめてみました」
「ジージャンは瑠璃チョイスなんですよセンパイ!」
やっぱりなぁ、なんて頷きつつ織をじっと見つめてみる。
似合ってる、似合ってるんだけども……なんだろう。何かが惜しい気がする。
「センパイ?」
「ああいや、なんでもない。すごい似合ってると思う」
俺の率直な感想に、笑みを浮かべる三人。してやったり、といった感じだろうか。
「………ああ、だから惜しいって感じたのか」
織の笑顔を眺めて、何が惜しいのか気づく。
……気付いた、んだけど。これを解決するのは俺ひとりじゃ厳しい。
女性陣に頼るわけにもいかないし……あーもう、仕方ない。背に腹は変えられないってわけで。
「店員さん、ちょっといいですか」
背後から渋い顔をしながら、例の店員さんに声をかけた。
本日二話目。また文字数が少ない。




