六話〜最終話〜
目を覚ますとそこは、真っ白な部屋。目だけで周りを見渡すと、点滴や、何かの医療器具やら、色々なものが私に繋がっていた。
ああ、病院か。喉かわいたな。
父と母が脇にいて、わたしを見つめていた。
わたしはなんと言ったらいいかわからず、とりあえず、おはようと言った。
言ったはずだが、声がうまく出なかった。喉にチューブが差し込まれている。母が看護婦さんを呼んで、チューブを外してくれた。
「おはよう...」
喉が痛いし、声がかすれる。母は、私がここにいることを確かめるように、私の手をさすった。
「愛ちゃん..よかった...!」
そう言って、わたしの手に泣き崩れた。
父はうつむいて、何も言わなかった。父の顔は、いつになく険しかった。
私はその時初めて、自分がしたことの罪と重みを知った。私は助かった。
「愛ちゃん..ごめんなさい..あなたに..寂しい思いをさせて...」母の涙が私の手を伝う。
私はゆっくり首を振った。
「いいの...私こそ、ごめんね...」私も泣いていた。
父は、電話をしてくると言って病室から出ていった。入れ替わりに看護婦さんがやってくる。
「はーい、検温しますよー」
看護婦さんは、テキパキと体温や血圧を計る。母によかったですねと一言言って、パタパタと看護婦さんは行ってしまった。
「...ジュン君が止めてくれたのかもしれない」
「え、誰?」
「友だち..死んじゃった...」
それを聞くと、母は目を丸くした。
「どうしたの?」
「あなたが友だちの話したの初めてよ、そう...亡くなったの...」
「うん...」
父が帰ってくるまで、二人とも口を開かずにいた。私はその間に、ジュン君のことを考える。
ジュン君は...なんで自殺したんだろう。今思うと、屋上で柵の前に立っていたのは、飛び降りようとしていたのだろうか...
初めて会ったとき、どこかふわふわしていて、変な奴だと思ったけど、もしかしたらジュン君の心が必死に悲鳴を上げていたからかもしれない。
私はずっと、目の先にある白い壁を睨んでいた。
だんだん考えるのに疲れて、ベッドに横になる。
なんだか、色々なことが頭の中で渦を巻いている。まだ眠い。
「お母さん、私、また寝るね」
「そう、じゃあゆっくり休んでね」母の声が耳に心地よく響いた。
数日して私は退院した。母と二人で住む家はなかなか快適だった。父ともたまに会うようになった。
父と会ったときに聞いたのだが、母と離婚する前後、仕事がうまくいかずに、会社をやめていたらしい。
今はまた勤め先が決まったんだと、うれしそうだった。俺は酒をやめるぞ、と意気込んでもいた。
「がんばってね、お父さん」
「おう!」
思えば両親が離婚したとき、私はどちらにも付きたくなかったんじゃない。
きっと、どちらかを選ぶことができなくて、苦しんでたんだと思う。
愛してるんだ。お父さんとお母さんを。
私が本当に欲しかったものは、すぐ近くにあった。
その日、私は朝から学校に行った。
久しぶりに教室に足を踏み入れる。周りの視線が痛かったが、なんとか席につく。
すると、一人の女子が私に話しかけてきた。
「愛ちゃん、久しぶり!」
「あ、うん、久しぶり...」
その子と、なんでもない話をしていた。
その子は、唯ちゃんというらしい。私と彼女は気が合うようで、楽しかった。
でも、もしかしたら、明日は話しかけてくれないかもしれない。そう思ったが、私はすぐにくすっと笑ってしまった。
昼の屋上ではミズホさんに会った。
ミズホさんは、柵の向こうを見つめながら、ここはいいわね、と言っていた。
毎日、固い結び目がほどけていく感覚がある。
だんだんと、息が楽になっていく、氷が溶けていく。
彼を思い出すのはまだ悲しいけど、泣いてばかりじゃ、彼も悲しむから。
思い出にありがとう。私は、光に向かい、歩き出していた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
初めての作品で、至らない点ばかりでしょうが、とにかく一つ仕上げることができました。
ありがとうございました。