五話
私は、数日学校を休んでは保健室に登校し、また休むということを繰り返していた。
この間会ったミズホさんも似たような状況らしい。
ある日の夕方、夕日の落ち始めた保健室。私とミズホさんは、二人だけで、隣り合ったベッドに座っていた。
「あの...ミズホさん」
窓際のベッドに座り、外を眺めるミズホさんに声をかける。
「なあに?」
「ミズホさんは、知っていますよね、ジュン君がどうして亡くなったのか...病気ですか?」
ミズホさんは、ちら、とこっちを見て、また窓の外に目線を戻す。
「ジュンは自殺よ、ジュンのお母さんからそう聞いたわ」
「えっ!」そんな...
「やっぱり知らなかったのね」
ミズホさんは、いつもと変わらない様子だった。
「そんな..どうしてですか!?」私は、隣のベッドに身を乗り出した。
「知らないわ、ジュンの両親も知らないと言ってた...私が知りたいくらいよ」
私は驚きで言葉が出なかった。
ミズホさんはまた外を見ようと向き直る。
「ジュンはね、あなたが好きだったのよ」え?
「え?私が...?」
「ずっと前からあなたが好きで、やっと名前がわかったって喜んでたわ、死ぬ直前にね」
「え?あの日にジュン君と話したんですか!?」
「ええ、電話でね」
ミズホさんは、目を伏せて、何かを思い出しているようだった。
「これから死のうとしてるなんて...全然わからなかったわ...」
ミズホさんは自分の腕を見ているようだったので、私もふとその腕を見ると、たくさんの切り傷があった。
「ミズホさん...その傷、もしかして...」
聞いてはいけないのかもしれない。でも、私は聞いてしまった。
「ええ、そうよ」
ミズホさんは、そう、一言だけ答えた。
「...なぜ、そんなこと...」
「やめたいんだけどね」
彼女はそう言って、笑っていた。
その日の帰り道。ミズホさんの言葉が、私の頭の中で、ぐるぐる回っていた。
ジュン君が、私のことを好きだった。ずっと前から。
私のことを遠くから見ていたんだろうか。ずっと?
なんで声をかけてくれなかったんだろう。そして、なんであの日に...
どうして。なんで死んじゃったんだろう。そう思ったとき、私もジュン君を好きだったことに、気づいた。
六時ごろに家に帰り着いた。
ジュン君のことが頭から離れない。いつの間にか私は声を上げて泣いていた。
「愛、どうしたの!?」
ドアの向こうから母が私を呼んでいる。でも、私はベッドにすがりついて、ただただ、泣いていた。
もう終わりだ。そう思っていた。
「愛!ここを開けなさい!」母はいっそう強くドアを叩く。私の泣き声がそれにつられて大きくなる。
やがて、少しずつ気持ちが落ち着いてきたので、私は、顔を洗おうと洗面所に行った。
鏡の中には、誰でもない女の子が映っていた。
バサバサの髪に、荒れた肌、目だけがギョロギョロとして、濃い隈に縁取られていた。
だけど私はそれに気づかずに、顔を洗った。
冷たい水で頭もすっきりするかと思ったが、あまり変わらなかった。どうしたんだろう、変だなあ...
喉も渇いていたので、キッチンへ向かう。
キッチンにつながったリビングでは、母がお茶を飲んでいた。
「愛ちゃん、さっきはどうしたの?なんであんなに泣いてたの?」
私は答えるのが億劫で、なんでもないとだけ答えた。
「なんでもない訳ないでしょ!何か嫌なことでもあったの?最近あなた変よ?」
それは普通の母の言葉なんだろう、だけど、私はカッとなって叫んだ。
「...どうせ私なんかどうでもいいくせに、今さら母親面しないで!」
「どうしてそんな事を言うの!?愛!あなたの為なのよ!?ちゃんと話しなさい!!」
「何が私のため!?私の話なんていつもろくに聞いてくれないじゃない!!こんな時だけそんなこと言わないでよ!!」
「できるかぎり聞いてるわ!お母さんだって大変なのよ!わかってよ!」
その言葉に、腹の底から頭の先まで、一気に怒りが爆発した。私は、キッチンに駆け込んで、シンクの下から、包丁をひったくるように出す。母がキッチンに私を追いかけ、飛び込んでくる。
「死んでやるー!!」
そう叫んでわたしは手首に当てた包丁を思い切り引いた。
「愛!!!」




