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【完結済み】異世界転生うさぎ  作者: Usabean
第五章 月面の塔
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<突然の出社命令>

数日後。


ぼくはいつものように、自室でタブレット端末で取材資料を整理していた。

先日の取材で撮影した写真や映像を整理しながら、記事に使えそうな資料を分類していく。


「これは植物園の資料。こっちは花屋。で、これは…」


指先で画面をスライドさせていると、一枚の写真が目に留まった。


月面都市の商店街。その一角で撮影した写真だった。


写っているのは、花蜜アイスを手にした一匹のうさぎ。


こちらに振り返っているわけではない。

ただ、後ろ姿のまま、楽しそうにアイスを眺めている。


―ミア。


つい先日のことなのに、ずいぶん昔の出来事のようにも感じられた。


気がつけば、ぼくは画面をじっと見つめていた。


花蜜アイスを受け取ったときの嬉しそうに笑っていた顔。


そして。

まだ名前すら知らなかった相手に、ぼくはブローチをプレゼントした。

急に恥ずかしくなった。なんであんなことをしたんだろう。


いや、もちろん、困っているように見えたから。

それに、あのブローチが似合うと思ったからで…。


「誰に言い訳してるんだ、ぼくは」


小さくため息をつく。

写真の中のミアは、そんなぼくの葛藤など知る由もなく、花蜜アイスを持って楽しそうにしている。


その姿を見ていると、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。


「…また会えるかな」


ぽつりと呟く。

この月世界に来てから、ぼくには分からないことばかりだった。


自分が何者なのか。

なぜぼくは、ヒトだったという記憶以外、覚えていないのか。

そして、どうしてぼくは、ポケベルを持っていたのか。

考えれば考えるほど、頭の中には疑問符が増えていく。


けれど、ミアと過ごした時間だけは、そんなことを忘れさせてくれた。

ただ一緒に歩いて、食べて、話した。

それだけなのに、不思議と心が軽くなった。


「今度会ったら…ポケベルのこと、話してみようかな」


ふと、机の端へ視線を移す。

そこには、すっかり風景の一部と化していた黒い小さな箱「ポケベル」が置かれていた。


この世界に来てから、一度も鳴ったことがない。


「…持っていくか」


仕事用のバッグを開き、ポケベルを中へ入れる。


その瞬間――。


ピコッ! ピコッ!


「わっ!」



突然、背後から電子音が鳴った。

反射的に耳が跳ね上がる。


「なんだ、通話装置か」


部屋に設置された通信端末を見る。

画面には、『編集長』の文字が点滅していた。


「編集…?」


ぼくは慌てて通信をつなぐ。


『おお、アルト。今、大丈夫か?』


「はい」


返ってきた声は、いつもの豪快なものだった。

けれど、どこか妙に真剣だ。


『休日は満喫できたか?』


「え? あ、はい。」


『そうか。それならよかった』


一拍。


『実はな。お前に作ってもらった植物園の記事について、少し突っ込んだ打ち合わせがしたい』


「…え?」


『明日、編集部に出社してくれ』


「出社…ですか?」


『そうだ。直接話したい』


通話が切れた後、ぼくは一人、部屋の中で首を傾げた。


ぼくはこの世界において、編集部に所属してはいるものの「フリーの記者」という遊軍的な位置づけにある。

スターグラス商業シティにある編集部のオフィスには一応、自分のデスクも用意されているらしいが、

これまで直接出社することはほぼなかった。


タブレット端末一つで完結するこの世界で、わざわざ「対面での打ち合わせ」を指定されるというのは異例だ。


もしかして、あの記事の中で何かとんでもないタブー(例えば、地下の国家機密についてなど)に触れてしまい、大問題に発展したのだろうか…。

一抹の不安が胸をよぎり、その夜はなかなか寝付けなかった。


このストーリーのショート動画も作成しています。

https://youtube.com/shorts/yTM3k765ai0?feature=share

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