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幻術師ヴァニーユのアリア  作者: RIM


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12.模擬戦

 初めてのヴァニーユとのかくれんぼを終えたサーシャは、その七日後に二度目の訪問をしていた。


 その日はヴァニーユと初めての摸擬戦をするとのことで胸の高鳴りが抑えられなかったが、同時に彼は漠然とした恐怖心にも似たような好奇心に手を震わせていた。




 幻術を封じるとはいえ、現時点で彼女に勝つことは叶わないだろう。


 恐らく彼女はサーシャがどれだけの魔術を使えるのかを測りたいのだ。




 一日目のかくれんぼでは、自由と余裕のある選択肢の中で、どう姿を暴くかを観察していたようだった。


 二日目である本日の模擬戦では、一日目とは逆に緊迫感のある中でのサーシャの動き方を読み取りたいのだろうと、彼は予想していた。




 あれほどまでに違和感も、視線すらも感じさせないような完璧な幻術を、サーシャは初めて体験し、そして見事に完敗したのである。


 やはりもっと素早く走っても結界を保持していられるように訓練すべきか……それとも展開範囲を広げられるようになった方が早いだろうか。


 この七日間、サーシャはそのようなことばかり考えながら過ごしていたのだった。




 それにしても彼女は本当にすごい。


 なぜサーシャはあの状況で、視線や気配すらも感じ取ることが出来なかったのだろうか。


 彼女はまさか、殺気すらも隠せてしまうのだろうか。


 そこまでサーシャの思考が辿り着いた時、彼女のその観察眼や静かさを恐ろしくも感じていた。




 彼女の強さは、一見解りにくい静かな強さである。


 サーシャのように、見た目で強さがわかるようなものとは全く違う強さを持っているのだ。




「サーシャ様、何やら楽しそうですね」


「うむ!! 今日も張り切ってヴァニーユに魔術を当てにいくぞ!!」




 今日も元気なサーシャと、空気に徹していたい護衛は、フローライト森林にある魔術訓練場へと向かった。










 ライラックが魔術訓練場に結界を展開したのを確認し、ヴァニーユは今日の目的をサーシャに伝える。




「今日はサーシャ様に、今持っている限りの力を私にぶつけてきてほしいのです。あ、暴発はさせないように」


「承知した!」


「そこの切り株に座っているライラック師匠のことはお気になさらず。彼は自分を守れますので、多少かすめても大丈夫です。護衛さんもそこにいれば一緒に守ってくれるでしょう」


「む……そうであったか」




 とはいえ、できるだけライラックには当てないように気を付けるべきだろう。


 サーシャは護衛がライラックのそばに行ったのを確認すると、ヴァニーユとも距離を取った。




 ふわり、やわらかな風が頬を撫でたと思ったら、耳元でその声は囁く。




「それでは、始めてください」




 ――ここまで距離が開いているのに、まるで近くで囁かれたかのように届いたその声に、彼の頭の中は一瞬真っ白になった。


 今のは、ヴァニーユの声……?


 確か彼女は、歌声を風属性魔術で拡散が出来ると聞いた。


 風属性魔術で直接声を届けることすらできてしまうのか。




 背筋に冷たさが這い上がるように、心臓までもがきゅっと引き締まるのを感じる。


 彼女の魔術一つ一つが静かで、精密であり、澄んだ凶器のようだ。


 声に惑わされてはいけないということを先にに知ることができただけでも、この後の対策がとれることだろう。


 杖を構え、サーシャはまず雷を彼女に放つ。




いかづち!」




 すると、彼女とサーシャの間で雷が霧散した。


 ――なぜだ? なぜ今、攻撃したはずの雷が消えた?




 考えろ、まだ彼女は攻撃態勢に入っていない。攻撃……?


 彼女は今、詠唱をしていただろうか?


 そこまで考え、サーシャは一つの可能性に辿り着いた。




「まさか、今のも風属性魔術か?」


「はい、そうです」


「あ!! ヴァニーユにはわたしの声が聞こえているのか!? ずるいぞ!!!」




 なんという使い方だ。風属性魔術で盗聴のようなことまでできてしまうのか、彼女は。


 遠距離なのにこちらの声は筒抜け、その上あちらの声は聞こえなどしない。


 情報を集められる彼女の方が圧倒的に有利な状況である。




 サーシャは口を閉じようとしたが、詠唱をするには声を出さなければならない。


 それが最短詠唱であるオドを使った詠唱であっても、彼女の耳には情報が届いてしまうのだ。




 魔術を放つのと、音が届くのは、どちらが速いのだろうか。


 いや、雷ならば、もっと、もっと速く飛ばせるはず。




 サーシャは少し長めの詠唱をすると、魔術を少しずつ杖の先に流し込み、濃い魔力を込めた大きめの雷の玉を作る。


 そのままヴァニーユの前へと放った雷はの玉は、軽い風魔法などでは散りはしない。


 そのまま「雷光!」と唱えれば、ヴァニーユとサーシャの間で雷の玉が強く光った。


 まぶしさで腕を目の高さまで上げた彼女に、間髪入れず最短詠唱を放った。




「――いかづち!!」




 そのままヴァニーユの足元へ次々と攻撃魔術を撃っていく。


 飛び退くように避けていく彼女は木の陰に隠れようとする――それがサーシャの狙いだった。




 少し長めの詠唱の後、サーシャはヴァニーユの近くに立つその木へと杖を向けると、逸る気持ちを抑えつつ、息を乱して言い放つ。




 「雷撃!!!」




 ヴァニーユの上空から木へと雷が走り、ヴァニーユを巻き込んだ。

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