70失踪の痕跡までおまかせを
レタの口から発せられた言葉は、俄かには信じ難いものだった。あまりに突然、一瞬とはいえ頭が追い付かなかった。チップが居なくなった?どういう事だ・・・。彼女の真剣な眼差しは冗談を云うような表情ではない。それに、あの悪魔が自ら居なくなった感じではない。どちらかと云うと、何者かに捕まってしまったの方がしっくり来る。少し気が動転した。いや、あいつに限って拉致されるようなヤワなやつでは無い。何かしらの罠か何かか・・・。僕は恐る恐る、並々に注がれたコップを持ち上げるように彼女に尋ねた。
「チップが・・・居なくなったって、どういう事ですか・・・レタさん?」
「悪魔くんだけじゃないわ・・・。ソーア、それにシウンまで居なくなっちゃったのよ。」
「同時に?」
突然の出来事だと云うのは、傍らに居るセンも変わらない。彼女ですら目を疑っていた。チップだけに限らず、あの狛犬兄妹まで・・・?チップ一人が何かしらの罠に引っ掛かってならば、まだ話は分かるが。彼女はセンの問いかけに対し、静かにコクリと頷いた。彼女の頬に冷や汗を伝わせるのも段々納得できてきた。一体、僕らが離れている間に何があった?レタは少し乱れた前髪を戻しながら、少しでも冷静さを取り戻そうとしていた。
「多分ね・・・、ほらあの日。君たちが、カイデンのところに行く日からなのよ。イサムくん覚えてるかしら?三人で映画館に行ってくる、って云ってたあの日よ。」
「そういえば、確かそんな事がありましたけど・・・。え・・・、その日から居ないんですか?」
そうだ、僕らがカイデンさんのところで鍛錬をしに行った日だ。確かにあの日は、そんな事を云っていた。珍しく意気投合したソーアとチップが映画館に行くと云って張り切っていた日だ。その日は二人だけでなく、シウンも同行して三人で観に行くんだと云っていたっけな・・・。だが、その日から・・・?単純計算でも、既に十日も経っているじゃないか。
「あの子たち、どんなに遅くなっても夕飯までには帰ってくる子たちだから。その日の夜中から、ずっと捜索してるんだけど。」
「そうだ、スマホのGPSとかはどうなんですか?あれなら、現在地を特定出来るかと。」
そう彼ら“ヤドリ”には各員にスマホを持たせている。当然、そのスマホにはGPS機能がある。また緊急時にはアラームが鳴る仕様になっていると聞くから、何かあればこのアジトにもアラートが鳴る筈。肌身離さず持っていればその場所を特定出来る筈だし、壊されたり捨てられた場合でも最後の信号を追跡する事は出来る。そういう仕様で持たされているのならば、彼らをピンポイントで探せなくともある程度の特定はできる筈・・・。でも、そんな僕でも思い付くくらいの事、彼が見逃す訳が無い。むしろ第一にそれを実行しているだろう。ならば時間をかければ、もう見つかっておかしくはないだろう。ふぅ、なんだ。そこまで焦る必要は無いじゃないか。だが、そんな安堵の息は一瞬にして吹き飛ばされる。僕がそう訊いたところ、彼女は打ち萎れた瞳で首を横に振った。
「そんなの、とっくにジェニーがやってるわ。」
「まぁ、ですよね・・・。」
そりゃあそうか・・・。あのジェニーが手を付けない訳が無いもんな。でもサイバー担当でもある彼が、十日も掛けて未だ手掛かり無しとは俄かには信じ難い。それにジェニーだけじゃない。彼らは個々でも手分けして捜索を隈無く行なっていたのだろう。よく見れば彼女の瞳には、うっすらと目の下にクマが出来ていた。出来る限り睡眠時間を削って探していたのだろう。
「あたしたちも昼夜問わず、手分けして探しているけど・・・、見つからないのよ。」
レタは項垂れるように、テーブルの端に両手を添えた。その様子は、まさに万策尽きたと云わんばかりでもある。そりゃあ、僕を見つけた瞬間に飛び掛かるようにくる訳だ。大丈夫、僕も正直冷静では無い。こんなただ事では無い事態に、驚愕しているところ真っ最中なのだから。センも思わず顎下に小指を添えながら、考え込んでいた。そして探りを入れるように、レタへと訊く。
「と、なると何か誘拐とか拉致事件に巻き込まれた・・・とかかしら?」
「仮にも狛犬と悪魔よ?誘拐とかそんなちゃちなものに引っ掛かっても、返り討ち出来る子たちだからね?」
「確かに・・・。」
そう・・・、誘拐や拉致であれば、何かしらの痕跡は残る。先にも述べたスマホが保険としてあるからだ。だが、この様子だとアジト内でもアラートが発生していない。いつまで経っても帰ってこない。この単純な理由で漸く“ヤドリ”の一員は、彼らが行方不明になったと認識してしまったのだ。
「何か手掛かりは・・・?」
「・・・。」
レタは俯きながら、再度首を横に振った。その動作に言葉を添えられる事は無く、静かに見送られた。
「お手上げって訳ね。」
センも頭を抱えながら、テーブルに添えられた椅子に腰掛ける。ギィ・・・っと軋む音を奏でる。今日はやけにその音が良く響く。それだけ静寂となってしまった喫茶店。一同、思わず言葉を失っていた。僕はふと周りを見渡す。そういえば肝心の彼が居ないような気がする。彼なら何か手掛かりの一つでも見つけて・・・。そう思った僕は顔を上げ、少しだけ乾いてしまった唇を開ける。
「そういえば、ジェニーは?姿が見えないようですけど・・・。」
「あぁ・・・、ジェニーならほら。あそこに。」
レタはすっかりテーブルにうつ伏せになりながら、親指で店内の隅っこへと差し示した。よく見るとそこには、奇抜な衣装を着た女性アイドルの絵が描かれた毛布に包まった何かが縮こまっていた。耳を澄ますと、何かブツブツと念仏を唱えるような声が聞こえる。不思議に思った僕は、その何かに近付くと・・・。
「ベ⚪︎ラー、バ⚪︎タン、ネ⚪︎ンガ、ラ⚪︎ン、グ⚪︎ーンモンス、ゲ⚪︎ラ、ア⚪︎トラー、レ⚪︎ドキング、チ⚪︎ンドラ・・・。」
それは宛ら真冬にストーブを点けずに毛布に包まりながら、部屋の隅っこに引き篭もる光景そのもの。体全体に覆い被さり、律儀に体育座りをしながら俯いている。そして、何かをブツブツと呟きながら・・・。耳を澄ませないと良く聞こえない声量で何かを呟いている。
「どわぁっ⁉︎ジェニー、居たの⁉︎」
というかこれはジェニーで良いのか?とても同一人物とは思えないぞ。ジェニーといえば、いつもクールで澄ました顔で人を小馬鹿にしたり、持ち前の頭の良さをひけらかしている。その筈のジェニーはそれとは程遠い真逆の存在に成り下がっていた。蒼白とした顔色で目の焦点も合ってない。毛布に包まって尚、まだ寒さを感じているのか身を震わせながら、ただ機械のように何かを呟く事をやめないのだ。
「マ⚪︎ラー、ス⚪︎ラン、ピ⚪︎モン、ガ⚪︎ラ、ジ⚪︎ース、ピ⚪︎モン、あ、ピ⚪︎モン二回云っちゃった・・・。モッカイ。」
「な、何やってすんか・・・。」
どこか頭のネジが数本吹っ飛んでしまったみたいになっており、声を掛ける事すら躊躇してしまうくらいだ。むしろ声を掛けて良いものか、いやそもそもこの存在に気付いて良いものだったのか。これは見て見ぬフリをするべきだっただろうか。すると店内の奥からまた一人分の足音が聞こえる。コツコツと木製の床を革靴で蹴り上げる足音は弾みが良く、ふんふんと鼻歌を奏でながらこちらへと近付いてくる。
「いやはや、ジェニー殿はあれですな。ショックのあまりに、衝動的になる奴でありますな。」
真っ黒のシルクハットを数センチ持ち上げながら軽い会釈をすると、彼はジェニーの異常について説明してくれた。僕に近付いてきたのは、ティミッドだった。自慢の長く伸びた口髭を摩りながら、少々ご機嫌目に現れる。彼はドラキュラ故に、店内に現れる方が珍しい。何せ、苦手なものが多過ぎるせいで殆どアジトの中で過ごしている。日光があるから昼間は外に出ないし、銀製品が多いこの店内は嫌うし、食材すら敏感だ。あ、そういえば玉ねぎあるけど、大丈夫かな・・・。名刺の裏に書いてあった苦手リストには、そうあったような。一応、仕舞っておくか。僕は彼が気付く前に、そっと転げ落ちていた玉ねぎを拾い上げ、手提げバックへと隠した。彼の冷静な説明は、特に驚く要素が無いと云わんばかりの対応の仕方で淡々としていた。どうやらこの光景は、彼ら“ヤドリ”にとっては特段珍しい出来事ではないらしい。むしろ、よくある事なのか?
「えと、なんかずっと呪文のように呟いてますけど・・・。」
僕はジェニーに恐る恐る指を差し、状況を訊いた。まるで別人と化したケットシーは、魂ここに在らず。ただ、さっきから元素記号でも読み上げているかのようにブツブツと呟いてるのは一体・・・。するとそう訊かれたティミッドは口髭を少し引っ張りあげると、ふむっと一呼吸置いて答えた。
「ウ⚪︎トラ怪獣を登場順に読み上げてるんですな。」
「はぁ・・・・・・、え、なんて?」
彼の思わぬ回答に僕は目が点になってしまった。いや、それ版権的にNGだろ。モザイク入れても許されないだろ、あそこは!こんなの放送コードに通る訳がない。ここまでのやり取り丸々カットされても可笑しくないだろ、何考えてんだ原作者。さて、そんなメタ的発言をもはや声を大にして抗議したいところではあるが、そうも云ってられない。話を戻すが事が事だ。実際にチップや狛犬兄妹たちの行方は分からず終いだ。なんとかジェニーの復帰を望みたいところだが。
「昨日からあの調子でありますからに、恐らく復帰はもうしばしでしょうな。」
ティミッドから告げられたのは、唖然とした答えだった。専門分野の頼みの綱が千切れると、流石に路頭に迷う。と云うか昨日からずっとこの調子だったのか。何やってんだこの人・・・。ジェニーらしくもない。いつもならキザな態度取って、ロジックに沿った提案を持ちかけてくるのに・・・。
「ジェニーがぶっ通しで探しても見つからないから、自己嫌悪になっちゃってゲシュタルト崩壊してるのよ。こうなると彼は、まともに会話すら出来ないわ。頼みのサイバー担当なんだけどね・・・。」
と、レタは溜め息を溢しながら腰に手を添える。あぁ、そう云う事か。要はオーバーヒートしちゃった訳か。しかし頭をここまでフル回転させると、ここまでゲシュタルト崩壊してしまうのか。天才と変態は紙一重とは良く云ったものだが、彼もその類に該当するんだろうなぁ・・・。彼女の云う通り、どれだけ身振り手振りしてもこちらへの反応は無い。声を掛けても、耳栓でもしてるかのように届かない。するとジェニーは何の拍子か、突然顔だけを毛布から出したと思えば、泣きじゃくり始めた。
「うぅ・・・、どうせ僕なんて肝心な時にいつも役に立たないんだ・・・。いつもいつもいつもいつも。こんな事ならいっそシュレディンガーの猫みたいに毒ガス部屋に閉じ込めて欲しいくらいだよ。もう開けなくて良いから。非力で頭でっかちだけが取り柄の僕なんて、無駄な頭を捻り出すだけでゴミなんだ、生まれてきてごめんなさい。」
「なんか別人みたいに、ものすっごいネガティブ思考になってません⁉︎」
ジェニーとは思えないワードばかりを並べたかと思えば、どん底まで成り下がったネガティブへフルスロットルだ。その暴走は止まる事を知らず、エンジン全開で自虐ネタをこれでもかと叩き込んでいる。何もそこまで自分を追い込まなくても・・・。別に君だけのせいでは無いのだから。そう声を掛けたいところだが、ジェニーの周りはどんよりと暗く重い空気に押し潰されてしまっている。正直、声を掛けるのも億劫になってしまうくらいだ。さてどうしたものか・・・。
「ベ⚪︎ラー、バ⚪︎タン、ネ⚪︎ンガ、ラ⚪︎ン、グ⚪︎ーンモンス、ゲ⚪︎ラ、ア⚪︎トラー、レ⚪︎ドキング、チ⚪︎ンドラ・・・。」
頭を掻きながら考えていると、再び彼は例の怪獣を登場順に読み上げ始めている。なんと無駄な記憶力だろうか。それとも、そういうの好きなんだろうか。何かしらの影響が彼にはあったのかな。彼は再びうずくまり、毛布という心のシェルターへと塞ぎ込んでしまった。それはまるで外敵から身を守る為に、自分の殻に閉じ籠ろうとするヤドカリやカタツムリのそれと酷似した。ケットシーって確か、猫をモチーフにした妖精だったよな・・・。しかも別人のように陰気臭いし。
「セン、彼に胡桃渡しておいて。暫くしたら、それ持って落ち着いてくるから。」
レタは引き攣った表情で、形の異なる胡桃を二つセンに渡した。そういえばあの胡桃はいつもジェニーが持っていたヤツだったよな。暇さえあれば、いつも音を鳴らしながら握ってるのに。仮に今の彼の状態を分かり易くネガティブモードと呼称しようか。それに入ると胡桃すら持たなくなってしまうのか。受け取ったセンも少しぎこちない表情であり、ジェニーに対し心配を向けてはいるがそれと同時に若干引いている。その証拠に胡桃を受け取ったセンは硬直したまま、中々ジェニーに話しかけられないでいた。うーむ、何とかここは突破口を切り開いてみるか。そう思った僕は、彼の肩を掴み毛布をひん剥こうとした。
「ジェニー!君だけが頼りなんだよ!お願いだから、目を覚ましてくれよ!」
「無理だよ・・・、僕なんて。」
・・・がしかし、彼が潜り込んだ毛布は頑強なバリケードとなっており、全く開く気配が無い。くそ、奇抜な衣装を着たアイドルが印刷された毛布のせいで、余計ジェニーがヤバい人に見えてしまう。大体なんだ、このメイド服と水着を掛け合わせたような露出度の高い衣装は。実にけしからん、後で何のキャラか教えて貰おう。いや、そうじゃなくて。彼は無理だよと弱々しい声を吐いておきながら、毛布にしがみつく力は相当凄まじい。僕がいくら引っ張り上げてもビクともしない・・・、これが妖怪の力なのか。こんなところで発揮するなよ。こうなったら力づくで駄目なら、言葉で交渉するしか無い。
「今回探せていないのは君だけのせいじゃないんだから、一緒に彼らを探そう!きっと手掛かりはある筈だから。」
「良いんだ僕なんて・・・。こんなゴミムシみたいな僕は、どうか明後日の方向にぶん投げておくれ。ゴミみたいな知能とゴミみたいな能力じゃ、誰の役にも立てないんだ・・・。そうだ、丁度生ゴミの日だし、ゴミ袋を。でもゴミ袋に入らないだろうから、大型ゴミになっちゃう。こんな僕なんかに大型ゴミ料金が掛かるのか・・・。リサイクルにもリユースにも活用出来ない僕の行き先はどこですか?いっそこのまま、キノコになった方がマシか。あぁ、もう、ウ⚪︎トラ怪獣唱えるからあっち行ってくれ。」
説得を試みるが、一の説得に対して十倍のネガティブが返ってくる。正直、ドン引きしてしまうくらいの自己嫌悪感だ。毛布に包まった中で口だけを出し、弱々しい声をブツブツと呟いている。そして、また繰り返される怪獣の読み上げ。彼の自己嫌悪は異常で、こっちまで心や考え方が沈んでしまいそうだ・・・。僕は思わず、強張りながら首を横に振った。するとセンは恐る恐る毛布のシェルターに近付き、手渡された胡桃をジェニーへと差し出そうとしていた。
「じぇ、ジェニー・・・、これ・・・。」
シュバッ
胡桃の匂いに気付いたのか、ジェニーはコンマの速度で胡桃を奪い取る。それは一瞬の出来事だった。万引きGメンも目を疑うレベルだろう。一瞬にしてセンの掌にあった胡桃は無くなっていた。
「ふへへ、クルミ、コリコリコリコリコリコリコリ・・・。」
胡桃は既にジェニーの手の中にあり、コリコリと必要以上に音を奏でている。というか口遊んでいる・・・。もはや目の前の人物がジェニーなのかさえ、一瞬疑ってしまうくらいに僕らはドン引きした。
「ひゅい⁉︎」
当然、そんな対応を間近で受けたセンが耐えられる筈が無い。黒羽の少女は身の危険を感じたのか、逆立つように羽を広げながら怯え混じりに酷く驚いていた。対する彼はといえば、体育座りの体勢はそのままで打ちひしがれるように寝転がった。それでも怪獣の読み上げが思い出したかのように再開され、ブツブツと詠唱を続けている。
「え、これ大丈夫っすか⁉︎胡桃持たせたら、余計に酷くなってる気がするんですけど⁉︎」
こんな光景を見たら、誰もがそう感じずには居られないだろう。僕はつい指を差してしまったが、同時にとある事に気付く。彼もチップたちを探すのに必死だったのではないか、と。彼がこんなになってまで身を削って、精神を削って念願して捜索を続けていたに違いない。けれど、痕跡は辿る事は出来なかった。その歯痒さが彼にとって、僕らが思う想像以上にショックだったのだろう。
「い・・・、一応それ回復傾向だから、暫く放っておいて・・・。」
レタも彼を慰めるようにそう綴った。今は彼を休ませるしかないか。僕よりも付き合いが長い彼らの話では暫くすれば正気に戻るらしいから、今は気持ちをリラックスさせてあげよう。
「しかし、参りましたなぁ・・・。このままでは彼らの安否が心配ですぞ。」
ティミッドはシルクハットを持ち上げ、ふわりと長い黒髪を掻いていた。チップたちが居なくなったのは事実ではあるが、手掛かりも痕跡も無い以上捜査は一向に進まない。一体、彼らに何があったんだ。状況を良く思い出せ・・・。何かある筈だ、俯瞰しろ・・・、焦点を絞るな、もっと周りを。原因となる頂点だけじゃない、匂いが点在している筈だ。あの日はどんな日だった・・・。天候は?街の様子は?チップたちは映画を観に行くと云っていた。それは映画館で起きた事か、それともその道中か、事後か・・・。事件からはもう十日も経っている・・・。ん・・・、十日も?この事件って、被害に遭ったのはチップたちだけなのか?
「あの・・・、ちょっと確認なんですけど。」
「何?」
僕はレタに訊く事にした。もし、僕の考えが方向がズレていなければ・・・。
「この行方不明になっている事件って、他にもあったりします?」
「悪魔くんたち以外にも行方不明が続出しているって、云いたいのかしら?」
「えぇ。」
「ちょっと待って・・・。ジェニー、ログ確認するわよ。」
「好きにして・・・。」
するとレタはジェニーのスマホを開き、彼が調べていたログを確認し始めた。
「あったわ・・・。確かに、ここ数日で行方不明者が出ているみたい・・・。警察への届け出も何件か出されているみたいね、どれもまだ未解決みたいだけど。」
レタはニュースの記事を見て、少し困惑した様子だった。カリッと爪を軽く噛み、スマホの画面をまじまじと見つめている。
「やっぱりですか・・・。」
「けど、これに何の意味があるって云うのよ。」
「恐らく、この行方不明は全てこのN市で起こっているんですよ。」
「そんなの分かるわよ。事件が起きた場所くらい!」
そう、そんなのは誰が見たって一目瞭然。だが、これだけの事件。あの人が掴んでいない訳が無い。
「そこが重要なんです!この心当たりを探る為に・・・。」
「イサムくん!何かわかるの⁉︎」
レタは飛び掛かるように僕の肩を握り締めた。瞳を丸々と大きく見せ、まるで漸く事件の尻尾を捕まえた刑事みたいだ。彼女は僕の肩を何度も大きく揺さぶった。
「い、いえ・・・、正確には何ともなんですが・・・。」
「良いわ、今となってはワラにも縋るってやつよ!」
そう、この根拠に確証は無い。ただ、何も無いよりは遥かにマシだ。恐らくここで調べ上げられる事は、彼らが調べ尽くした筈だ。だったら、今度は別の角度からヒントを得るしかない。ちょっとあの人に頼るのは、少しリスキーではあるけれど・・・。いずれにしても通らなければならない道だ。だったらそれは、今なのかも知れない。だったら、ついでに訊いてしまえば良い。
「恐らくですけど、この失踪事件。既にある程度の噂になっている筈です。」
「と、云うと・・・?」
「前に聞いた事があるんですが、一人凄く噂に敏感な方が居るんですよ。彼なら、何か情報を知っているかも。街の事を訊くなら一番の適任なのは間違い無いです。それに、個人的に聞きたい事もあるし。」
「おぉ、垂殿!なんと心強い!」
「で、誰なのそれは!勿体付けずに早く、ちゃっちゃか云いなさいよ!」
皆の目の色が変わった。どんよりと漂っていた空気に日差しが通ったように明るみが増された。特にレタは興奮気味になり、肩どころか首を掴み、キリキリと締め上げようとしているくらいだ。一旦落ち着いてと声を掛け、僕は一拍分の溜め息を吐いた。
「えぇ、あなたも良く知る人物です・・・。大和テンジョウ・・・という御曹司を。」
そう、この人物なら・・・。噂好きの大和テンジョウなら、この事件の痕跡を辿れるかも知れない。予想外、と思われただろうか。彼らはその名を聴くと、ポカンと口を開けたまま静止していた。




