95しんでるら
「六道イヴ……絶対に、絶対に赦しませんわ……同じ金髪のくせに……同じ制服のくせに……」
新聞を睨みながら一人愚痴をこぼす。
写真の中のイヴは振り返ると、こちらに向かって微笑んでいる。
その絵になることったらない。
「なんでこんな作品が銀賞に……わたくしなら間違いなく金賞にしますのに……
本当に審査員には見る目がありませんわ……こんな……こんな写真……」
見つめる目が近くなる。
「お嬢様、心の声が漏れています」
「聞き耳を立てないで黙って! わたくしは何も言ってません! あなたも何も聞いていませんわ!」
スパァン!
尻が揺れる。
「憎らしい……憎らしいわ……わたくしの名前を下の名前で呼ぶなんて。そんなの家族以外に今までなかったのに!」
『桃子先輩』
あのワードが頭の中に反芻する。
転んだ身体を抱き上げてくれて、手を引いて身を寄せると唇に手を当てられて。
自分の人差し指で唇に当てる。
あのときの感覚が戻るようだが、自分の人差し指ではなにか足りない。
もう一度呼び出そうかと思うが、今はそんなことをしている場合ではない。
ノックをする音がして、メイドが扉を開く。
現れたのはピンク色のポニーテールが特徴の風紀委員鈴木千鶴である。
「お久しぶりね、鈴木さん」
「南沢先輩、何か御用ですか?」
「掛けなさい。あなたに聞きたいことがあるの」
ソファに千鶴を座らせると、桃子も椅子からソファへと場所を移す。
鈴木千鶴は風紀委員であり、すでに面識のある生徒である。
そして最近は六道イヴと仲がいいというのも、すでにメイドによる調査に判明していることだ。
「なんでしょう?」
「あなた、最近六道イヴと仲がいいわよね?」
「はい。それが何か?」
「六道イヴの情報を教えてくださる? まぁ、断ることなんて出来ないでしょうけど」
「……」
千鶴が拳を握る。
表情は変わってはいないが、少しだけ怒っているような空気感である。
だが、その程度で怯む桃子でもない。
あいかわらずソファにふんぞり返った態度でいると、千鶴向かって一枚の写真を投げた。
「こ、これは!」
そこに映っているのは千鶴の写真であった。
しゃがんだ千鶴が女子生徒の屈んだ姿を見上げている写真――イヴのパンツを見上げている写真である。
「な、何故これを!!!!」
「フフフ、今日一日メイドがあなたのことを監視していたの……鈴木さん、あなた風紀委員でありながら女子生徒のスカートの中を覗くなんて……」
「くっ……、い、いつの間に!」
「おほほほ、そして、この見上げている相手は――六道イヴよね?」
「ぐ……」
「風紀委員であるあなたがこんなことをしたなんて……幻滅ですわ……」
もうこれで千鶴は桃子に抗うことなど出来ない。
弱みを完全に握られてしまった千鶴はわなわなと震えると、もう子犬のように桃子を見つめている。
「わ、わたしに何をしろと……」
「そうね……ちなみにスカートの中は何色だったのかしら?」
「く、黒地に水玉模様でした……」
「黒地に水玉……可愛いのを履いてるじゃない、六道イヴ……」
「はい、可愛かったです……」
二人してイヴのスカートの中を連想する。
でへへへと笑う二人の表情は全く同じものになっている。
「お嬢様、本題、本題」
「あ、そうでしたわ」
メイドに耳打ちされて、だらしなかった顔を元に戻す。
「鈴木さん、学園でシンデレラコンテストをやるのはもうご存じ?」
「はい、噂程度ですが」
「そのシンデレラコンテストには六道も参加するように言ってあるの。もちろん、私も参加しますわ。それで……」
スパイ的な活動をしろというのだろうか。
千鶴は思わず良心に苛まれるが、弱みを握られている以上反抗は出来ない。
もしあの写真をバラまかれたら。もし本人に見つかったらと思うと、心臓は急激に温度を失っていく。
「私にスパイをしろというんですか?」
「そうね……フフフ、あなたには六道へのスパイとなってもらいますわ」
情報の提示か。
イヴの写真への工作活動か。
シンデレラコンテストの票数操作か。
千鶴の頭の中にはスパイ活動的な妄想が広がる。
「鈴木さん、あなたはスパイとなって六道の情報をわたくしに届けてもらえるかしら?」
「情報……ですか」
「そうよ……シンデレラコンテスト……もちろんその応募される写真は数多あります。
わたくしが六道に発破をかけたから、六道もきっとたくさんの写真を撮り、最高の一枚を送ってくることでしょう」
ごくり唾をのむ。
「最高の一枚――生徒会が管理するコンテストですから、もちろんその一枚は見れます。しかし」
「……?」
「それ以外の写真を見ることは叶いませんわ……きっと六道のことです、たくさんの没写真が出ることでしょう」
「まさか……」
「そう、あなたにはその没写真たちの回収及び、それらの提出を命令します」
「な、何故そのようなことを!」
「もちろん、あの憎き六道イヴの写真を愛でるためですわ!!!! あの憎らしき六道の写真をけちょんけちょんにして貼り付けにしてやりますわ!!!!」
「え、愛でる?」
「お嬢様、本音、本音」
メイドに耳打ちされて、桃子は怒りの表情を表す。
真っ赤になった顔、今にも火を噴きだしそうな二本の縦ロールが暴れ始める。
「愛でるんじゃありませんわ!!! あの憎き六道の写真を集めて、六道のことを調査するんですの!!!
情報を集めて分析解析して、勝てる写真を生み出すんですの!!!!
いいこと!!!1 決して集めた写真を部屋に飾ったり、秘密のアルバムに仕舞って時折見てニヤニヤするためではありませんわ!!!!
いい加減にして!!!!」
具体的に二人の間にどのような因縁があるのか千鶴は知らないが、とりあえず分かりやすい人だなぁと思う。
今でさえライバルが多いのに、また一人ライバルが増えた。
しかも相手は南沢桃子。学園を牛耳る悪の生徒会長である。
「南沢先輩」
「なに!」
怒りの縦ロールが意思をもったように暴れている。
「とりあえず……私は没になる写真を回収して先輩に渡せばいいんですね?」
「そうよ!!! 六道の写真は一枚たりとも残さず渡しなさい!!!!」
「わかりました……約束は守ります。だから、さっきの写真は破棄してください」
「嫌よ」
「えぇ!?」
「この写真には鈴木さん、あなたも映っているけど……り、六道の太ももも映っているじゃない」
写真には見上げる千鶴と、イヴの生足もがっつりと映っている。
「いい太ももですよね」
「全然よくないわよ! こんな太もも! 白くてほどよく脂肪と筋肉があって、それでいて傷一つなくて!!!!
出来ることならかじりついてペロペロしたいなんてこれっぽちも思っていませんわ!!!!!」
「あー気持ちわかります」
「こんな太もも同性から見たって羨まけしからんですわ!!!! こんな写真永久保存するしかないですわ!!!!」
ようはこの生徒会長はイヴの写真をシェアしてもらって愛でたいのだろうなと思う。
先ほどから思ったことがそのまま口に出てしまっているし、分かりやすすぎる先輩が段々可愛く見えてきてしまう。
今まではただの生徒会長くらいにしか思っていなかったが、今は少し捻くれた恋する乙女にしか見えなくなってしまう。
「でも、先輩。イヴのことが好きなら」
「好きなんかじゃないわ!!!! あんな女大っ嫌い!!! 世界で一番嫌いよ!!!!
きらいきらいきらい大嫌いよ!!!」
「でも本当は?」
メイドが耳打ちする。
「好き!!!!!!!! じゃないから!!!!!1 豚は黙ってて頂戴!!!」
スパァン!
メイドの尻がぶたれる。
「でも、とりあえず……勝手に写真を送るのはちょっと。一応イヴに許可を取ってもいいですか?」
「そうね……そうよね……本人に許可は取らないとね……うん、そうよね。それは筋を通さないとね」
「たぶんイヴなら良いって言うと思いますよ」
「うん……勝手に見られたら嫌かもしれないし」
案外素直な桃子に、千鶴もにこやかになる。
ただの暴れん坊将軍かと思えば、そうでもないようだ。
「イヴにはそれっぽく伝えておきますので」
「うん、お願いね……」
急にしおらしく乙女っぽくなる桃子に、千鶴は安堵する。
この先輩も根は悪い人ではないと確信が持てる。
本当に悪人ならば、何が何でもイヴを良いようにはしないだろうし、こんな乙女な顔だって出来ないだろう。
「送る写真は現像したものですか? データですか?」
「あ、すぐ見たいからデータがいいな。鈴木さんラインやってる?」
「やってます。桃子先輩のラインおしえてください」
ラインの連絡先を交換する。
一瞬見えた桃子のライン画面は数えきれないほどの友達で溢れている。
「先輩お友達多いんですね」
「フン! とーぜんよ! カースト最上位であるわたくしですもの!!!! 皆わたくしにひれ伏しているのですわ!!!
オホホホホホホホホホホホ!!!」
そういうとこなければただの良い子なのになぁと思う。
「じゃぁ、私はこれで。イヴにも伝えときますね」
「あ、待ちなさい! ついでに六道に一言伝えて置いて欲しいの」
「なんでしょう?」
「あ、あの……わ、わたくしも……り、六道のライン……し、知りたいな。なんて」
「わかりました。伝えときます」
「え、えへへ。お願いね……」
ポイントを!!!!下からお願いします!!!!!
あと一言でもいいので!!!!
感想が!!!!
ほちいです!!!
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