67フレンド
時刻をみればもう日付が変わってしまっている。
美里はパソコンに向かいながら、いつものようにネトゲ内のチャットを行っていた。
『そろそろ寝ようかな……明日も学校だし』
なんて打ち込めばネトゲ内のフレンドたちから、もう少し遊ぼうだとかまだ寝るには早いなんて言葉が返ってくる。
『でも、明日は学校にいかないと』
だってイヴに逢える……。
じゃないじゃないと美里は首を盛大に振った。
(逢うためじゃねーし、薄い本もらうためだから!)
何故逢えるからなんて思ってしまったのだろう。
自分の居場所は学校ではない。自分の居場所はネットの中。ネットのゲームの中。
学校は居場所ではない。陰キャである自分は陽キャにいじられるだけ。
卒業さえできればいいし、わざわざ学校にいって陽キャにいじられに行く必要もない。
タイピングが止まり、ぼんやりと画面を見つめる。
パソコンのモニターの前には――もらったヘアピンが置いてある。
ミントグリーンのリーフ型した、可愛らしい女の子なアイテム。
(こんなのつけたって……変わんない……)
視線をモニターに戻す。すると、グループ内のリーダー格の人物が話しているのが目につく。
『最近みぃ学校での話題増えたね』
みぃとは美里のゲーム内のハンドルネームである。
話題が増えたね、と言われ美里は慌てて否定を打ち込む。
『増えてないよ! ただ、いじられたりしたから……』
『でも、いじられたっていうより何か可愛がられていない?』
『あーそれ俺も思ったw』
『みぃちゃんきっと可愛いから、学校でも可愛がられてそう』
なんて、なんて。
グループのメンバーたちが賛同する。
『違うよ、マジでそんなんじゃ……』
無い。と思えども、イヴとのやりとりを思い出せば――笑顔で接してくれる姿が蘇る。
可愛いって言われて、ヘアピンをもらって、一緒に買い物をしてしまって。
(何か……否定すればするほど、ラノベのチョロインみたいだな……)
否定すればするほど、自分が落ちやすいヒロインだと思えてしまう。
だが、ひねくれた心がそれすら否定する。
(いやいやいや、リアルの私はヒロインじゃねーしな。モブ以下だしな……)
時刻は1時を過ぎている。
さすがにもう寝ないとまずいだろうと、美里はゲームをログアウトした。
ベッドに入りこみ、明日を想う。
(明日……プロテイン買ってかなきゃな……)
◇ ◇ ◇
いつも通りの時間に起きてしまった。
そう、引きこもっているときのいつもの時間に。
目覚ましなどかける習慣のない美里は、朝起きるとスマホの時間を見て血の気が引いていく。
時刻は――7時54分。
(ち、遅刻する……!!!)
慌ててベッドから飛び起きて制服に着替える。
朝食など食べる暇もないので、とりあえずの格好に着替えると美里はダッシュで家を出ていく。
運よくバスにはすぐ乗れたが、それでも学校まではまだかかる。
恐らくは一限目に入ったくらいについてしまう。
(あぁー! もう! なんでこうなるんだ! あ……)
バスのガラスに映った顔を見る。
ヘアピンが、無い。
(ヘアピン……おいてきちゃった……)
飽きるほどにみたいつもの顔。
しかし、今日はその顔をみると余計にげんなりしてしまう。
せっかくイヴに逢うのだ。せっかくもらったヘアピンをつけれくればよかったのにと思う。
もうバスは出発しているし、戻ることなんて出来ない。
(あーもうもうもうもうもう!!!!)
ただでさえぐしゃぐしゃな髪を掻きむしる。
ぼっさぼさのぐっしゃぐしゃになった髪は、まるでB級ホラー映画のお化け役だ。
やっとの思いで学校につくと、やはりすでに授業は開始されていた。
すでに皆が席について授業を受けている最中に教室には入るのは、美里には勇気が必要である。
恐る恐る扉を開いて教室内へと入る。
「ぉ、ぉぁよう……ご、ござます……」
「おはようございます。ってあなた随分遅れてきたわね。もう授業始まってるでしょ」
「す、すみません……」
「全く。次はちゃんと来なさい」
「ぁ、ぁい……」
隠れた前髪で教室内を見れば、全ての視線が美里に刺さっている。
胸が苦しい。これほど注目されるなんて、今まではなかった。
もうそれだけで脂汗が浮かぶし、どうしてか足が震えてしまう。
(なんでこんな思いして学校にこなきゃいけないんだ……もうやだ)
席のほうへと歩く。
ズテンッ。
震えた足のせいで何もないところで転んでしまう。
「ぁ、ぃ、ぃてて……」
また注目が集まっている気がして、美里のライフはもうすでにマイナスである。
(帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい……)
ガタン。
「おはよ、美里。大丈夫か?」
「ぁ、り、六道……しゃん」
立ち上がったイヴが美里に手を差し出す。
前髪に隠れた大きくて潤んだ瞳が、イヴへとくぎ付けになる。
差し出された手を掴み、立ち上がると席へと腰を下ろす。
「ぁ、ぁり……まと……」
いつも小さい声だが、余計に小さい声で話す。
恥ずかしさはマックスだし、居た堪れなさは限界を突破している。
「あれ持ってきたからさ、あとで渡すな」
と、イヴもひそひそ。
「あ……」
そこで思い出す。
プロテインを買うのを忘れた。
「ぁ……ぁ……ぁの……」
「こらー六道、小寺。私語話さない」
「うぃーす」
「ご、ごめんな……しゃい……」
教師に怒られてさらにしょげる美里。
しかし、イヴのほうを見ればニシシと笑って美里を見ている。
やっと授業が終わると、イヴは持ってきて来たエコバッグごと美里に手渡した。
ずっしり重いそれは相当な数が入っていることだろう。
「ぁ、ぁりがとう……」
「いいって。お袋の部屋も片せたし」
受け取りながら、美里は視線を合わせることが出来なかった。
もらってしまったのに、約束したのに、美里は遅刻したせいでコンビニによることなどすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ぁ、ぁのね……そ、そにょ……」
「ん?」
「プ、プロテイン……買うの……わ、わすれ……ちゃいました……」
しょんぼり、しているのは美里だ。
「あーいいっていいって。いつでもいいからさ。それより今日も逢えてよかったよ」
「ぃ、ぃひひ……」
「今日は終わりまでいるのか?」
「ど、どうしよう……」
出来ることならばもう目的は達成したし、美里としては帰りたい気持ちだ。
朝から盛大に遅刻をかましてしまったし、教室内で転んでしまって、もう美里のメンタルのコップは今にも溢れそうだ。
「……」
「か、帰ろう、かにゃ……午前中、お、終わったら……」
もらうだけもらって帰るのも気が引けるが、美里としてはもうこの場にはいたくない。
常に視線が向けられている気がする。笑い声がすれば自分のことが笑われている気がする。
そんな空間に、いたくはない。
「美里さ」
「ぇ、な、にゃに……」
イヴの目が笑っていない。
もしかしたら怒られるのかもしれないと思い、美里は身を縮めると顔を直視できない。
「俺も一緒に帰っちゃおうかな。どう?」
「ぇ……」
「だから、一緒に抜け出すかって。今日は綾香いねーし、凛もちーちゃんも予定あるみたいだからさ」
「で、でも……」
この空間にはいたくない。
だが、そこにイヴがついてくるというのは――。まだ、ちょっと。
「ご、ごめんね……」
「そっか。じゃー、今度は一緒に帰ろうぜ」
「ぅ、ぅん……ご、ごめんね」
結局美里は午前中の授業を終えると家へと帰っていった。
学校にきただけで、心が破裂しそうだった。
遅刻はする、転んで注目は浴びる。そして何より。
(一緒に……帰ればよかったのかな……?)
でも、自分としてはまだイヴとは友達とは言えない気がしていた。
声はかけてくれるが、お互いのことを知らない。
知っていることなんて――たかが知れている。
(こんな引きこもり陰キャと友達になんて……いや、何考えてるんだ。あんなカースト上位と友達になれるわけないだろ。はぁ)
改めて考えてみて凹む。
きっとあれは哀れみから、弱者を護っている自分に酔っている。
きっと、そうだ。イヴもきっとそういう奴だと決めつける。
ピロン。
『みーちゃん、気を付けて帰れよー』
何気ない言葉が送られている。
送信者は勿論イヴである。
「み、みーちゃん……」
ネトゲ内でも呼ばれている愛称。
その愛称をイヴはいきなり口にしている。
何故、と考えたところで答えはないが、何故かそうなっている。
『みーちゃんって私?』
『そりゃそうだろ。みーちゃんに送ってんだから』
『初めて言われたから……』
『そうなん。美里もいいけど、みーちゃんのほうがらしいかなって』
『そっか、でも、ちょっと恥ずかしい』
『何で?』
『だって、いや、なんでもないです』
『ダチなんだからあだ名のほうがいいだろ。私のことはなんでもいいからねー』
ダチ。
友達と書いてダチ、ということだろう。
ダチ。
友達。
フレンド。
「友達……」
「もう友達なんだ……本当に友達なの? そうなの?」
バスに揺られつぶやく。
確証が得たくて、本当にそう思ってくれているのか確かめたくて、美里は思いのままにラインを送ってしまう。
『六道さんは私のこと友達と思ってくれているの?』
『そりゃそうだろ』
当たり前のことのような返事。
わざわざ聞くまでもなかったのにとでも言うような返信。
「友達……なんだ」
どうしてか分からないけれど、美里はスマホを持つ手が震えてしまう。
だって。
(友達なんて……)
ネトゲのことを思い出す。あの世界には、ネットの世界には友達といえる人がたくさんいる。
たくさんいるのに、現実の世界では――。
『友達ってさ……何をすればいいの?』
送信。
『えーなんだろ。とりあえず今度メシでも食おうぜ』
感想が!!!!!!!!!!!!!!!
ほちいです!!!!!!!!!!
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