64青髪ぼっちんぐ
その少女は久しぶりの登校だった。
所謂ぼっち。
登校したところで誰と話すわけでもない。
登校したところで再会を喜ぶものもいない。
登校したところで、自分の居場所があるわけでもない。
(やっぱり学校なんか来たくない……)
休み時間。
少女は一人スマホをいじって過ごす。
別に気になる記事を読むわけでも、好きな芸能人を調べるわけでも、SNSでなにをつぶやくわけでもない。
チャイムがなって、スマホを閉じれば真っ暗な画面に陰湿な顔が映る。
よれよれのセミロングの青い髪。天然パーマ気質だが、大したケアもトリミングもしていたので、まるでお化けのよう。
生気の無い目はハイライトが消えて、まるでホラー映画のお化け役のように思える。
「ほらー授業始めるから席つけよー」
次の教科を受け持つ先生が入ってくると、生徒たちはぞろぞろと席についていく。
「イーちゃんまた来るからね♡ 終わったらデートしよう♡」
「うぃー」
「凛さんそんなにしょっちゅうここに来なくていいよ。あんまり来てると出禁だよ」
「おかっぱに言ってないし♡ おかっぱにそんな権限ねーだろ♡」
きゃっきゃいう女子たちが、羨ましい。
あぁやってふざけあっているのが羨ましい。
黒のにゃんこパーカーを着ていた少女が手をふって教室を出ていく。
話しかけられていた金髪の少女が手をふり、もう一人のおかっぱの少女が中指を立てている。
(仲いいんだろうなぁ……)
いかにもな女子高生生活が、あの人たちは送れている。
なのに、同じ年の青髪の少女は同じ空間にいるはずなのに、まるで別世界にいる気がしていた。
「じゃぁ、ここ、小寺読んで」
「あ、ぁ……ひゃい……」
いきなり名指しされて緊張して立ち上がる。
噛みまくりながら教科書を読む。
うまく読めないのが恥ずかしくて、余計に噛む。
クラスの視線と意識が集中しているようで、恥ずかしくなってしまう。
「……で……ある」
「はい、ありがとう。小寺は声がちっちぇぇなー。もっと元気だせよ」
「あ、……ぁい」
「さっそく元気ねーじゃねーか」
そんな教師のツッコミに、クラスから笑いの声が漏れる。
恥ずかしかった。
ただ教科書を読んだだけなのに、どうしてこんなことになるのか。
(やっぱり学校なんか来たくない。来たってなにもいいことない)
時間割を見れば、午前はこの教科と次に数学、3、4時間目に体育がある。
(体育は見学にして……それが終わったら帰ろう……)
「はぁ……」
もう帰ることを決めて、小寺美里は俯いてペンを走らせる。
とんとん。
ふいに肩を叩かれる。
「笑われても気にすんなよ。ちゃんと聞こえてたぜ」
「え?」
いきなり声をかけてきたのは――隣の席の金髪の少女、六道イヴだ。
こうやって声をかけられるなど、あることではない。
美里は緊張してどもった声をあげたが、もうイヴは授業に集中している。
(り、六道さんか。びっくりした……)
焦りながらイヴのことを見る。
この少女は――六道イヴは少し前まで美里と同じような立ち位置の人間であった。
クラスでも目立たず、道端の石ころのような存在。
クラスの隅で読書をしてどこの輪にも入らないような存在であった。
なのに。
(六道さん……変わったな……彼氏でも出来たのか)
カリカリとペンを走らせる姿は、まるで別人である。
長い髪はいつの間にか金色になって、長かったスカートは短くなると肉付きのよい太ももを曝け出している。
腕まくりしたシャツ、ボタンなんて第二ボタンまで開くと谷間が見えてしまいそうだ。
(高校デビューか……ふん、くだらない……)
横目にイヴを見る美里。
シャツの隙間からは夏の空のような青いブラがチラ見えしていた。
◇ ◇ ◇
「あ……あにょ……き、今日はちょっと……体調が……悪い、にょで……」
「何、見学したいの? しょうがないわね」
「へ、へへ……す、すみません……」
体育教師に断りをいれて今日の体育は見学させてもらうことにした。
体育館の隅にちょこんと座りながら、バレーをするクラスメイトたちをただぼんやりと見つめる。
(早く終わらないかな……13時までに家に帰れば……イベントに間に合うな……)
体育座りをしながら、美里はもう帰ったら何をしようか考える。
今考えているのはオンラインゲームのイベントのことである。
元々引きこもりがちの美里は、学校に来ていないときはほぼほぼ自宅の自室でオンラインゲームに励んでいる。
頭の中では、すでに今日はゲームで何をしよう、あれをしようという考えばかりが浮かんでいた。
ピピ――――……
ホイッスルがなって意識をコートに向ける。
一人の少女がその場に倒れると、複数の女子と教師が駆け付けている。
「大丈夫、六道?」
「あー、大丈夫っす。でもちょっと足痛いんで休んでていいっすか」
「えぇ。もしあんまり痛かったら保健室行きなさい」
「うぃっす」
片足を引きずるようにして、六道イヴがコートから外れる。
「あたたた……着地失敗したわ」
何も迷うことなく、イヴはそんな声をかけながら美里に笑いかけた。
美里の隣に腰を下ろすと、足を延ばしながら肩を並べる。
「だ、だいじょ……うぶ?」
「平気平気。すぐ治るから」
「そ、そっか……」
イヴと美里は喋ったことなどほぼない。
以前オリエンテーションで一緒のグループになるからと、連絡先を交換はしたが、それ以来のやりとりはなかった。
そもそもこうやってリアルで話すことなどほぼない美里である。
(な、何話せばいいんだ……っていうか、保健室行けよ! 気まずいじゃんか!)
「お前さ」
「あ、あい……」
「小寺だよな。ほら、オリエンテーションに来なかった」
「あ、あぁ、う、うん」
「あれからずっと学校来てなかっただろ」
「え、あ、そ、そう、だね……(いきなり陰キャいじりしてくんじゃねーよ!)」
「楽しみにしてたのにさー。お前らとも仲良くなれるかもって思ってたのに」
「い、いや、でも、六道さん……ほ、ほかにも仲いい人……い、いるじゃん?」
「あの時はいなかったよ。今は綾香とか凛とかちーちゃんいるけど」
「へ、へぇ(友達いる自慢してんじゃねーよ! 高校デビューが!)」
話しかけられれば、話かけられるほど、美里は小さくなっていく気分だ。
ネットの中での会話ならばいくらでもできる。
しかし、こういったリアルでの会話は奥手である。
ましてやイヴは――美里とは正反対の存在、対極に位置するもの。
陰キャと陽キャ。
日陰者と日向を歩くモノ。
可愛い子とぶさいくな子。
「やっぱ保健室いくわ。美里も一緒きてくんね?」
「え?(なんで私も行かなきゃならねーんだよ! っていうか、いきなり下の名前で呼んでんじゃねーぞ!)」
「せんせー、やっぱ保健室行くわ! 美里も一緒に行くから!」
大声をあげると教師も了承して、イヴを送り出す。
「じゃ、行こうぜ」
「え、あ、わ、わたしも?」
「怪我人なんだから一緒いってくれよ。な?」
「う、うん(カースト上位だからって私を奴隷か召使だと思ってんのか!!! これだからクソ陽キャは!!1)」
「ちょっと肩貸して」
「あ、あい……」
イヴの腕が美里の肩にかけられる。
(クソっ……なんで私が……)
近づくことで分かる、汗の臭いとほのかないい匂い。
悪い気は――しない。
「悪いな」
「へ、へへ。いいよ……(よくねーよ! クソが! デカい乳しやがって! 揉むぞ!!!)」
肩を組んだ二人が廊下をのんびりと行く。
「美里はさ、なんで学校こないの?」
「え、えーと……(いきなり何でそんなこと聞いてんだよ!!! ナニ、良い人アピールでもしたいの?)」
「ま、別にいいけどさ。こうやって話すのも初めてだよな、俺ら」
「う、うん(こちとら無理に話たくないんだよ!!!)」
「美里さ」
「あ、あい?」
「なんか雰囲気がお化けっぽいよな」
笑い。
急激に美里の表情が冷めていく。
やっぱり学校は自分の居場所ではない。
仲のいい友達なんていない。
来たってこうやって揶揄われるだけ。
授業に出たって笑いものにされるだけ。
何をしたって――。
その存在が変わることはない。
道端の。
石ころ。
以下。
「でもさ」
「?」
イヴの指先が前髪をかき上げる。
前髪のせいで隠れ気味だった目が現れる――髪がかかっていて分からなかったが、そこにはメイクなんて必要ないような大きな可愛らしい瞳がある。
ハイライトのかかった、大きな、大きな、可愛らしい瞳である。
「前髪あげると可愛いな。美里」
笑い。
軽く笑われて――美里は表情が赤くなる。
「か、かわいくなんて……ないから。わ、わたし、おばけ……みたい、でしょ。
じ、自分でもさ……わ、わか、ってんだ……はは……」
「そんなことないだろ」
「ぇ……」
「美里は絶対可愛いって。顔もいいし髪も綺麗だしさ。ケアすれば今以上に可愛くなる。絶対断言できる」
「は、はは……(な、何急に言いだしてんだよ……)」
保健室にたどり着くと、保健医にイヴを預けて美里は体育館へと戻った。
もう授業はすでに終わりを迎え、戻ったときには教師向かって挨拶をしていた。
「はぁ……」
なんだかとんでもない目にあった気がする。
やはり学校に来るのは疲れる。身体的にも精神的にも疲れてしまう。
美里は着替えるとそのまま職員室へと向かい、担任に赦しを得て下校することにした。
昼時。一人帰路へと向かう美里。
一度振り返ってみれば昼休みの校舎からは楽し気な声が聞こえてくる。
(やっぱり……ここは……)
居場所じゃないな。
踵を返す。
ピロン。
「ん?」
ラインの通知がなって、歩きながら確認する。
あまりみたことのない名前――『りく』という人物からのメッセージだ。
『さっきはありがとな。今度一緒にメシでもいこーぜ(女の子の絵文字)』
「りく……六道さん、かな」
履歴にはオリエンテーションに行かない旨を打ってあるから、やはり相手は六道イヴに間違いないだろう。
でも、いきなりご飯に――行ける勇気もないし、仲がいいわけでもない相手とは、何を話せばいいのかも分からない。
『考えときます』
なんて流行りアニメのスタンプを送る。
(あ、やべ……学校のやつにアニメのスタンプ送っちまった……)
一瞬どうしようかとドキドキする。
しかし、もうすでに既読はついている。
いよいよ終わってしまった気がする。相手は陽キャ。アニメなんかに馴染みはないだろう。
きっと学校では『あいつアニメのスタンプ使ってるwwwきもwww』とか言われるのではないだろうかと想像してしまう。
(あぁ……いよいよ終わったな……私の学生生活……)
もともと学校にはあまり行っていない。
どうせそれはこれからも変わらないこと。
(もういいや……さっさと帰ってネトゲしよ……)
ピロン。
送られてきたラインに、美里は目を見開く。
『了解しました!』
と送られてきたスタンプ。
芸能人でも、流行りのものでも、女の子らしいスタンプでもない。
「お、おぉう……」
思わずおかしな声が出てしまう。
間違いない。
間違えるはずもない。
送られてきたのは、美里が使ったものと同じアニメのスタンプであった。
感想が!!!!!!!!!!!! ほちいです!!!!!!!!!!
一言でも!!!!!!!!いいので!!!!!!!!!!1
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