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63花火

 夕方、そろそろ日が傾いては来たがまだ花火をするというには暗さが足りない。


 プゥンと音がなって、綾香の前を蚊が通り過ぎていく。

蚊がどこに行くのだろうとみていれば、蚊はソファで座っているイヴのうなじへと止まった。

暑さから長い髪をポニーテールにすると、イヴのうなじは丸見えである。


(あー私も蚊になりてぇ)


 蚊になればあぁやって空を飛んでイヴの元へと行ける。

丸出しになって汗ばむうなじへと止まることが出来る。


(イヴの首に噛みついて、血を飲んで……)


「ウフフフ♪」


「綾香ちゃん、顔がキモイよ♡」


「今ちょっと蚊になる妄想をしてて」


「ちょっと何言ってるかわかんないな♡」



「いや、わかりでしょう――凛さんなら」


 そういって綾香はイヴの首元を指さす。

血を吸ってぷっくりとしたお腹の蚊がうなじに止まっている。


 ばちん。


「ん? なに?」


 凛に首を叩かれたイヴが問う。


「うなじに蚊がいたよ♡」


「ほんと? あー結構血吸ってんな」


 凛の手のひらには潰れた蚊とイヴの血。

凛はちょっぴりその血を舐めたい衝動を抑えて、ティッシュで拭った。


「もう蚊の季節なんだぁ」


「そうだね♡ あ、イーちゃん、ちょっとうなじいい?」


「ん?」


 かぷり。


 うなじに噛みつく凛。

刺された部分を舌が這う。


「消毒消毒♡」


「消毒になんの? それ?」


「ちょっと凛さん代わって、私も消毒するから」


 唇をたこのように尖らせた綾香が目を光らせて迫る。

消毒というよりも、その綾香の口は蚊のように血を吸ってしまいそうである。


「いや、いいよ。凛ももういいよ」


「あぁん♡ イーちゃんの血おいちい♡」


「私にも吸わせて。イヴの血を飲ませて」


「綾香、お前結構やばい発言してない?」


「凛さんがやって!!!! 何故私がやっちゃだめなの!!!!!!!」


「じゃぁ、凛でやれよ」


「「やだ」」


「お前ら変なところで気があってるよね」



◇ ◇ ◇



 千鶴の作った夕食を食べおわると、もう外の暗さもほどよくなっている。

これなら花火をしてもいいくらいだろう。


「そろそろ花火しよーぜ」


 凛が買ってきていた花火と、あらかじめ用意していた花火を持って庭に出る。

すでに庭には水の溜められたバケツが二つ。そして蚊取り線香も置いてあり、火をつければ夏らしい香りが漂う。


「花火ってなんかいいよな。夏って感じがしてさ」


「そうだね♡」


 子供みたいな表情で花火の袋を開けるイヴ。

凛は隣でニコニコしていて、綾香はそんなイヴの写真をとっていて、千鶴は縁側で微笑んでいる。


「でもさー、こんな仲良し4人組が出来るって思わなかったな」


「凛も仲良くなれて嬉しーよ♡(他二人いらんけど♡)」


「私もイヴと仲良くなれて良かったよ(凛さんも千鶴さんもいらんけど)」


「そうだね。私なんかクラス違うのにこうやっていれて嬉しい(二人とも仲良くなれたし)」


 花火に火をつける。

シュウウという音と共に、黄色い火花が舞い散っていく。


「ほら、お前らもやろーぜ」


「あ、じゃぁ私写真とってあげるね」


 火をつける凛と綾香。それらの様子を写真に撮る千鶴。


 また一つ想い出が増えていく。

こんな花火みたいなキラキラした想い出がこれからも増えればいいなぁとイヴは思う。

出来れば、楽しくて、みんなが仲良くできて、皆が笑いあえれば。なんて。


「ちーちゃんも花火やんな。今度は俺が撮るから」


「ありがとう」


 イヴが撮影係を申し出ると、代わりに千鶴が花火を持つ。

 

 シャッターを切る。


 綾香と凛がお互いに向かって花火を向けようとしている様子。

 そんな二人を微笑ましくみる千鶴。


 何回も、何回もシャッターを切った。

切り取られるその一瞬一瞬が、宝物に思える。

 前世があるからこそ分かる、この時間の素晴らしさがそこにある。


(前世のときはこんな風に花火なんてしたことなかったなぁ……)


(こうやって学生のときに純粋に楽しめたことなんて……何があったかな?)


 思い出しても、これほどまでに純粋に楽しめた記憶はない。


(この輝かしい時間は一瞬。きっとそのうち高校を卒業して、大学なり専門なりに行って……社会人になって)


 時間の流れが速いことをイヴは知っている。

それは前世で一度経験したから。一度人生をある程度歩んできたから。

学生時代は長いように思えるが、一瞬で終わってしまう。

この楽しい今は、気付けば過去になって戻れなくなってしまう。


 だから、イヴは楽しみたいと思う。

二度と戻れない今を精一杯楽しみたいと思う。

大人になったとき、『俺の女子高生時代は最高に楽しかった』と笑顔で言えるようになりたい。


「イヴ、なんか切なそうな顔してない?」


 花火を持った綾香が問いかける。


「いや、なんかセンチメンタルな気分になっちまった」


「どうして?」


「いや……今こうやって楽しいと思えるのは一瞬で、みんなあっという間に大人になっちまうんだろうなって」


「……そうかもしれないね」


「だから、今のうちに色々と楽しみたいって思ってさ」


「そうだね、今のうちにいっぱい遊ぼうよ。いっぱい想い出作ろうよ」


「あぁたくさん想い出つくらなきゃな」


「それにさ。私思うんだけど……」


 イヴの隣に腰掛ける。

目の前の花火は細やかな火花を放っている。いくつもの小さな光が流れ星のようだ。


「?」


「私たち、きっと大人になってもこうやっているんじゃないかな。私ばかだから先のことは分からないけど……

凛さんも、千鶴さんも、もちろんイヴも。なんだかんだ繋がっている気がするんだ」


 おばかな綾香が、珍しくそんなことを真剣にいうものだから少しばかり笑ってしまう。

でも、綾香の目は本当にそう思っていると感じられる。

切なき願いが込められた眼差し。花火を見る目は、とても澄んでいる。


「わ、珍しくおかっぱが青春っぽいこと言ってる。らしくないぞ♡」


 反対側に凛が腰掛けながら言った。


「いいじゃん! そんくらい青春の1ページを刻もうとしただけじゃんか!」


「うふふ♡ 綾香ちゃんもそんなこというんだね♡」


「でもさ、いつまでも仲良く入れたらいいね」


 綾香の隣に千鶴が腰掛ける。

凛、イヴ、綾香、千鶴が並んで花火を見つめる。


「そうだ、四人で全員集合の写真撮ろうよ! ほら、よってよって」


 千鶴が内部カメラを起動させると、全員が身を寄せ合う。

消えそうな花火を手に、それぞれがカメラを見つめる。


「撮るよー」


 カシャ。


 カシャ。


 カシャ。


 撮れた写真を見れば、花火は火力が弱くなっている。

綾香の顔はぶれているし、凛なんかイヴの頬に思い切り頬をくっつけている。

ピースをしたイヴと千鶴。四人全員の時間が、カメラの中に納まっている。


「これも想い出だね。みんなに送っておくね」


「ありがと。そうだ、この四人でグループライン作ろうぜ」


「えー、おかっぱもいるのかよー」


「えー、ロリビッチもいるのかよー」


「じゃ、さっそく皆招待しとくね。そこに写真も載せておくね」


 ちゃっちゃとスマホを操作し、グループラインを作る千鶴。

出来上がったグループにそれぞれが招待を受ける。


 りく、凛、あやか、鈴木千鶴。

それぞれのライン名が参加される。


「ずっと仲良くいれればいいな。ずっと。ずっとさ」


「少なくとも凛はいるよ♡」


「凛さんは消えるかもしれないけど、私はいるから大丈夫だよ!」


「うん。私もずっと皆と居たいな」



◇ ◇ ◇




『今日はありがとー』りく



凛『今日は楽しかったよ♡ 写真ありがとね、ちーちゃん♡』



鈴木千鶴『こちらこそ楽しかったよ(女の子の絵文字)これから夏休みだし、いっぱい想い出増やそうね』



あやか『夏休み旅行しよ』



『あー旅行いきてぇな。夏休みいこうか』りく



凛『いこ。泊まりでいこ』



あやか『うちママが別荘持ってるよ』



『まじ?』りく



鈴木千鶴『綾香さんのお母さま凄いねw』



あやか『あ、でも別荘三人用なんだ。だから凛さんはいけないね。ごめんな』



凛『死ねおかっぱ♡♡♡』




 一度スマホを閉じ、綾香は一階のリビングへと向かった。


「ママー、ママ別荘持ってるっていってたよね?」


 割烹着姿のまま、テレビをみてくつろいでいた母に声をかける。


「あるわよ。なに、使いたいの?」


「夏休み、みんなで旅行したいなーなんて……」


「友達と? いいわよ、じゃー日付決まったら教えて。マイクに連絡しとくから」


「ありがとー」




 ピロン。




あやか『別荘いいってさ。夏休みはうちの別荘にいきましょう』




感想がほちいです!!!!!!


一言でもいいので!!!!!



是非下よりお願いいたしゃす!!!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 青春ですねぇ。
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