61花火したくね?
汗ばんだイヴの胸元。
汗にテカる谷間には粒状の汗がいくつも出来ている。
熱さに第三ボタンまで開けて、シャツをパタパタさせる。
もう夏が近い。
まだセミこそ鳴かないが、今朝コンビニに寄ったときには花火がもう顔を出していたのを覚えている。
(もう夏なんだなぁ)
庭の縁側でアイスを食みながら思う。
閑古鳥が鳴く自宅。ここ最近は誰かしらといるから、休日に誰もいないと少しばかり寂しいなんて思ってしまう。
昨日も凛と一緒にいた。
(凛どうしってかなぁ……)
もう凛の気持ちは知っている。
知っていて、昨日は逢っていた。
小説のためという言い訳を理由に、二人でイチャイチャしまくった。
けれど、去り際の凛は。
(……うーん)
昨日会ったばかりでまた声をかけるのはよしたほうがいいのだろうか。
下手に声をかければ、気を引いてしまうだろう。
でも、初めてみたあの凛は、とても乙女で、とても可愛くて、とても心に引っかかる。
(考えてても仕方ねーか。送っちゃお)
先ず凛に送る。
『今日花火しない?』
次に綾香。
その次に千鶴。
真っ先に返事があったのは、凛からだ。
『行きたい。他には誰か来るの?』
綾香と千鶴にも連絡した旨を伝える。
『わかった。すぐ行く』
◇ ◇ ◇
「お邪魔します」
「おう、入んな」
しかし、一番最初にきたのは千鶴であった。
「凛さんと綾香さんも来るんでしょ? みんなの分のアイス買ってきたから、集まったら食べよう」
「おー、ありがとな。冷凍庫いれとくわ」
千鶴を部屋に案内すると千鶴からコンビ二袋を受け取り、バタバタと下へかけていく。
丁度下に行ったタイミングでインターホンがなると、下からはぎゃぁぎゃぁとした喚き声が聞こえてくる。
「お邪魔します!!!!!!!!」
「ちょっと、凛さん!!!!! 私が先に入るから!!!」
「どっちでもいいでしょ!!!! はい♡ イーちゃん♡ これ花火買ってきたから♡」
「うわー、ありがと。あとで金払うわ」
「金じゃなくて身体で払ってくれてもいーんだよ♡」
「身体で払えばいいのね。OK,凛さんちょっと脱ぎな」
「おかっぱに言ってねーよ♡」
役者がそろったと思ったら急に騒がしくなってきた。
またドタドタと階段をあがる音がして、綾香と凛が顔を出す。
「あ、ちーちゃん先にきてたんだ。早いね♡」
「凛さん、綾香さん、こんにちは」
「さてさて、イヴが下にいるうちに……えぇとタンスはどこかな」
「いきなり何しようとしてんだおかっぱ♡ ぶっとばすぞ♡」
「ほう、今の私をぶっとばせるほどの実力が凛さんにはあるのかな?」
「お、イキりおかっぱか?♡ 凛ちゃんを舐めんなよ♡」
(この二人は仲がいいんだなぁ……)
にらみ合う凛と綾香の背後には、竜と虎が浮かんでいるように見える。
しかし、そんな二人を見て千鶴は仲がいいのだろうなと感じてしまう。
友達とはいえないが、なんというか悪友というか、ソウルメイトというか。
そんな二人のやりとりを見ながら、千鶴はふとベッドのほうを見てしまう。
(イヴのベッド……)
想い出に、千鶴は頬を染める。
一対一でお泊まりしたときの日。
あの日は千鶴らしからずたくさん甘えて、ちょっとだけ勇気を出して一緒にお風呂に入って。
お風呂からあがると、二人で一緒のベッドに入って――。
「ちーちゃん、どうして赤くなってるの?♡」
想い出にふける千鶴の顔の前に、凛の顔が迫っていた。
「え、いえ、なんでもないの!」
「ベッドのほう見ながら顔赤くするなんて……」
「ちょっと、千鶴さん、詳しく聞かせてもらおうか?」
凛の隣に綾香も正座する。
二人の視線が『白状しろ』と訴えてくるが、千鶴はとてもとても何をしたかなんて言えない。
というか、緊張しすぎて何も出来なかった。
ゆえに何かをした、なんていうのは言えるわけがない。
「ほ、本当に何もないよ?」
「本当に? サシでお泊まりしたとき何もなかったの?♡」
「千鶴さん、素直におなり」
「なにも無かったよ、何も。ベッドでは……」
「「ベッドでは!?!?!??!!?」」
言葉のあや。だが、二人がそれを見逃すはずもない。
「へぇー! ちーちゃん意外と積極的だったの? ねぇ、凛になにしたか教えて? おん?」
「私も聞きたいなぁ。千鶴さん。ねぇ、何かあったの? 何か孕むようなことでもあったの???」
「孕むだなんて、そんな」
真っ赤になった頬を両手で抑える。
何もなかった。でも、想像すると真っ赤になってしまう。
「千鶴さん、お泊まりで何したの? ナニしたの?」
「凛も聞きたいなぁ♡ なにしたの? なにかあったの? ねぇねぇねぇねぇねぇええええええええええええええ!!!!」
「本当に何もないってば!」
思わず大きくなる声。
凛と綾香は大声に気おされて真顔になる。
それほどまで否定した事実なのか――。つまり、本当になにもなかったということなのだろう。
「そっか、そっか♡」
「千鶴さんごめんね、問い詰めて」
「いえ、いいの……大声出してごめんね」
「気にしないで千鶴さん。さてじゃー次は」
ゴゴゴゴゴゴ――。
綾香が不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。
「この綾香さんを問い詰めていいよ。フフ……私は何も包み隠さないからね。全てを言ってあげるよ……」
(こいつ……なんだこの不敵な笑みは。自ら問い詰められにきただと!?)
(綾香さん……イヴと何かあったのかな?)
「フフ、実はね、私……フフ……いや、実は……えぇ、色々、まぁ」
いやらしい言い方の綾香に、二人の視線が向く。
「わたくし……イヴとお風呂に入りましてね……お風呂にはいって……フフ」
不敵な顔が笑う。
不敵な笑顔に、真顔が刺さる。
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