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59参考にするだけだから

 美しき少女と可愛らしい少女が腕を組んで歩く。

長い金髪の少女は女性でありながら、どこか男性的な雰囲気を感じる。

まっすぐに伸びた背。甘えてくる少女に優しく微笑む姿はまるで彼女を愛でる彼氏のようだ。


 甘える彼女はまるで猫のようである。

頭二つほど小さい彼女は金髪少女に甘えるように頭をくっつけると、ゴロゴロと喉でも鳴らしそう。

まるで磁石のようにつっくついた手は、きっと剥がそうにも剥がせないだろう。


 イヴと凛は、今まさにカップルの状態であった。


(これは小説の参考にするためだから)


 と理由をつけて甘えまくる。

 ただ自己満足に浸るためだけでなく、凛はその腕の感触、相手の表情や反応も見ていた。


「イーちゃんどこ行く?」


「ホテルでも行く?」



 勃ッ。



 凛のその真顔が一気に爆発する。

まるでマグマでも噴き出したような赤色と蒸気。


 ふざけたことをいうイヴに、凛は一瞬で様々なことを考えてしまう。


(ホ、ホテル!? え、あ、うお、マジ! 今日の下着なんだっけ!? あ、大丈夫、黒の可愛いやつだ!

高校生だけど入れるかな? 多分私服だし、カウンターは無人っていうしOKか!?

どっちがウケとタチだ!? たぶん、イーちゃんタチだろうな。

でも、イーちゃんがウケなのもいいな!

財布の中身は、よし、万札あるし大丈夫でしょ! よし、全て大丈夫だ!)


 全ての考えが終わるまでの時間。

 秒数にして2秒。

全ての状態が万全であるのを確認し終えると、凛はいつにもなくいじらしく視線を逸らす。


 恥ずかし気な表情、でも、腕を掴む指先は強く。


「うん……」


 弱弱しいけど、期待した返事。


「ははは、嘘だよ。さすがに高校生でホテルはダメだろ。それに小説内にエロいのはダメなんだろ」


 ケラケラ笑うイヴ。

超絶がっかりした気持ちに、凛の恥じらっていた顔はちょっとだけむくれる。


「イーちゃんの意地悪……」


「それに女同士ってどうするのか分からねーしな」


(分かったらいいのかな……?♡)


 やっぱりちょっと期待が膨らむ。


「で、どこ行く? 参考にするんだから凛が行きたいところ決めていいよ」


「うーん、そうだなぁ♡ デートっぽいところ……デートっぽいところって何があると思う?」


「そうだなぁ。映画とか、カフェとか。あとは水族館、動物園とかは定番じゃないか?」


「でも、この辺には水族館も動物園もないしね。うーんさっきカフェから出たばかりだし」


「そしたら映画じゃね?」


 映画、というのを聞いて凛は思い出す。

以前、イヴは千鶴と二人で映画を見に行っていた。

たまたまそんなイヴを発見した凛は綾香とともに二人を尾行していた。


 イヴと二人で映画を見た、という点においては千鶴が勝っている。

凛には二人で映画を見た経験はない。

 対抗心がメラメラ燃えていく。


「じゃー映画にしよ♡」


「じゃ、少し移動しなきゃだな」


 来た道を引き返し、イヴと凛は電車へと乗り込む。


 もし、カップルが電車に乗ったらな、どういうった行動をするだろう。

凛は考えながらイヴを見つめる。

吊革に捕まったイヴは何を思っているのか、窓の向こうをぼんやりと眺めている。


 ぎゅ。


 そんなイヴに抱き着いてみる。

きっとカップルだったら、これが本当のデートだったら。

逢いたい人にやっと逢えた状態だったら。


「着くまでこうしていてもいい?」


 見上げて尋ねる凛に、イヴは微笑みながら頭を撫でる。


「いいよ」


 客目も憚らず、凛は顔を押し付ける。

歩いたせいか、イヴの身体はちょっぴり汗ばんでいる。

でも、そんな匂いだって愛おしい。いくらでも嗅いでいられる。

汗と柔軟剤と、イヴの匂い。

凄く刺激的なのに、凄く安心してしまう匂い。


「このままイーちゃん持って帰りたいなぁ♡」


「きっと世の中のカップルもそんな風に思ってんだろうな。でも、バイバイがあるから余計に愛おしさも募るもんだ」


「そうかなぁ。凛だったら……付き合ったらずっと一緒にいたいって思うっちゃうな、きっと」


「甘えん坊だもんな」


「うん。甘えるの好き―。いっぱい甘えていっぱいなでなでしてもらって、いっぱいぎゅーってしたい。

いつだって一緒にいたいし、いつだってその人のこと感じたい」


 きっと、その言葉は凛の本音なのだろうなとイヴは思う。

口にしている凛の顔は、いつものようにふざけてはいない。

そこにあるのは完全に恋する乙女の表情である。



『凛ね、今ちゅーした人のことが好きなの。恋愛対象として』



 前に凛が泊まったときのことを思い出す。

凛はイヴにキスをすると、そんな告白をしていた。

ただその先に『付き合って』だとかそんなことまでは言いださなかったが、きっと気持ちはあのときから変わらないのだろう。


 変わらないどころか、きっとそれ以上の。


 抱き着いてくる少女はきっと今、世界で一番乙女だから。


「イーちゃんはカップルだったら――どう思う?」


「そう、だな……」


 もし凛とカップルだったらどうなるだろうと思う。

でも、こうやって甘えてくる凛のことをそのままにしておくだろう。

甘えたいだけ甘えさせる。甘いたいだけ甘えさせて、でも、あんまり『好き』だとか『愛してる』は言わない気がする。


「甘えさせるかな。好きなだけ」


 イヴの答えに、凛は微笑む。


「じゃぁ、好きなだけ甘えさせて。好きなだけ甘えたいから」


 抱きしめる腕がイヴを求める。

ぎゅっと抱きしめてくれば、イヴも頭を撫でる。


 電車はそろそろ目的地へとたどり着きそうだ。




◇ ◇ ◇




 目的の駅へとたどり着くと、組んでいた腕をほどいた。

代わりに繋いだ手のひらは、全ての指先が絡み合って恋人繋ぎをしている。


 凛の手よりも、イヴの手はいくらから大きい。

そして日頃トレーニングに励んでいるイヴの手の平は、女性なのに女性らしくない。


「イーちゃんの手って、男らしいね」


「それ褒めてんの?」


「うん。褒めてるよ。凄く綺麗なのに、ちょっとだけ男の人っぽいの。

凛、イーちゃんの手好き」


 その手で、色んな所を触れてくれればいいのに。


 なんて。


 凛は思ってしまう。


 握った手を見つめれば、どうしてかその手を噛みつきたくなってしまう。

あの指先を、手のひらを、手首を。

この歯で甘噛みしたい。


 駅の最寄りビルの最上階に映画館はある。

チケットを買って、二人してパンフレットなんか買って。


(このパンフレットは想い出になるだろうな)


 前かがみになってグッズを見ているイヴを横目に見る。

長い髪の束が垂れさがって、指先で耳にかける。

その指先が、髪が、愛おしい。


(カッコよくて、綺麗で、可愛くて……そりゃ、凛以外だって惚れちゃうよね)


 なんて思う。

でも、だからって自分が引き下がろうなんて思わない。

綾香がいようと、千鶴がいようと、誰がいようとも。


 この気持ちは止める事なんて出来ないんだから。


 開場のアナウンスがなって、また恋人繋ぎをしてスクリーン場へと入っていく。

イチャついているのを見られたくなくて、凛は一番後ろの席を指定していた。

意識してかしてないのか、イヴは自然と階段の後ろを歩いてくれる。


 席に座って暗くなるのを待つ。幸い、両隣にもその先にも人はいない。


「イーちゃん」


「どうした?」


「あのね」


「うん?」


「あくまで参考にしたいだけだから。参考にしたいだけだからさ」


「うん」


「凛好きっていうから、イーちゃんも好きって言って欲しい」


 なんでか、凛は泣きそうになる。

 なんでか、イヴはその視線を細める。


「いいよ」


 優しく撫でてくれるイヴが、心に痛い。


「好き」


「私も好きだよ」


「大好き」


「私も大好きだよ」


「愛してる」


「私も愛してるよ」


 これは小説のためだから。

参考にするために聞いているだけなのに、どうして涙が零れるんだろう。


 暗くなっていくのが嬉しかった。

だって今の顔は、きっと涙でぶちゃいくになっているだろうから。


 物語の姫と騎士は、どんな表情をするんだろう。

きっと、今の二人とは違う表情なのだろう。


 イヴの腕を抱きしめながら、映画を見た。

凛の瞳には映画が見えてるはずなのに、映画の内容が入ってこない。

代わりにイヴの腕の感覚だけ、ゆびさきの感覚だけが確か。


「ねぇ、イーちゃん」


「どした」


 周りに聞こえぬよう、小さく言う。


「指、噛んでもいい?」


「指? 痛くするなよ」


「ありがと」



 かぷ。



 指先を噛む。

イヴの中指を口に含む。

舌でその指先の輪郭をなぞる。


「凛、くすぐったい」


「や。もっとしたい。痛くなかったらいいんでしょ?」


 くすぐったいというか、イヴはちょっとだけ複雑な感情だった。

しかし、良いといってしまった手前、引き下がることなんてイヴはしない。

きっと、凛だって、それは分かっていて聞いている。


「やりすぎるなよ」


「うん」


 やりすぎると分かっていて、釘をさす。


 かぷ。


 かぷ。


 かぷ。


 かぷ。


 かぷ。


 どれだけ指先を舐めても、どれだけ手のひらを噛んでも、どれだけ手首を噛んでも。


(全然全然足りないの。全部全部食べちゃいたい。イーちゃんのこと全部食べちゃいたい)


「……ッ」


「あ、ごめん……痛かった?」


「ちょっとだけ」


「もう止めるね。ごめんね」


「大丈夫だよ」


 その大丈夫はどういうニュアンスなのか。

 まだ続けてもいいという大丈夫。

 痛くはないという意味での大丈夫。


 でも。


 止まらない。



 かぷ。


 かぷ。


 かぷ。


 かぷ。


 この歯から、この唾液から、この舌先から。

好きな気持ちが伝わればいいのにと思う。

この感情がイヴの血に混ざって心臓まで届けば、脳まで届けば、心まで届けばいいのにと思う。

イヴの全部が凛色に染まって、凛のことだけ考えてくれればいいのにと思う。


 それだけ好きだから。

 それだけ夢中だから。

 それだけ止まらないから。


 きっと映画の1時間半もすぐに終わっちゃうんだろうと凛は思う。

だから、暗い今だから出来ることをしたい。

カップルならきっとするだろうと思うことをしたい。


 だって、これは小説のためだから。


「ねぇ、イーちゃん。もう一つしたいことがあるの?」


「なんだ?」


「ちゅーして。イーちゃんのほうから、凛の唇奪ってほしい」


 これは小説のためだから。


(凛……)


 小説のため、なんていうのは言い訳だって分かっている。


「お願い」


「分かった……後悔するなよ」


「後悔なんてしないもん。絶対しないもん」


 乙女の目が涙に潤んでいた。



下から感想、ポイント、レビューが出来ます!!!!!!!!!!!!!!!




是非お願いいたします!!!!!!!!!!!!!!!!!!




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