47処女懐胎
綾香は――綾香はもう自分には勝てる術がないのではないかと痛感していた。
凛はともかく、新たにあらわれたライバルのその存在感はいきなり現れたと思ったら、次の瞬間には二人を大きく引き離している。
正統派美少女。
ここまで、ここまで大きな存在かと綾香は絶望する。
イヴは運動神経がいい。千鶴も運動神経がいい。
共通点。
二人ともが美しい、二人ともが可愛い。
共通点。
二人ともが、綾香よりでかい(カップ的な意味で)。
共通点(含凛)。
そして、その態度や行動。
綾香も凛もそのイヴに対する熱意は劫火となると、目に見えるものを全て灰塵へと変えてしまう。
それほどの暴走。それほどの熱意。
なのに、どうだろうか、千鶴のあのまさにヒロインらしい振る舞いは。
今日だってそうだ。
凛がソファでゲームをしているとき、綾香が嫉妬に狂っているとき。
千鶴は何をしていた? 千鶴はどう動いた?
動かなかった。
凛がゲームを持ってきてイヴと一緒にしているときのこと。
綾香は自分も混ざりたくて、その輪の中へと入っていった。
凛に少しでも負けたくなくて、イヴに付きっきりだった。
なのに。
千鶴は――そんな二人のねちっこい取り合いに参加していなかった。
まるでそれが千鶴の役割であるように、千鶴はイヴのために手料理を作っていた。
あの味は、確かなものだった。
とても女子高生とは思えないほどに、完成された味だった。
何故。
答えはすぐに分かる。
イヴのためだからだ。
愛する人のため、好きな相手に少しでも美味しく食べてもらえるように、千鶴はアウェイであるキッチンで自分の腕を振るった。
凛も綾香も争っていた。
争っている間、千鶴はきっとただイヴを想って、イヴの好きな料理を作っていた。
どうやったら勝てる。
どうやったら千鶴に追いつける。
どうやったらそのメインの座を奪えるのか。
もう、綾香には手段なんて選ぶ暇さえもない。
何故ならバカなことをしている間にも、この恋愛レースで千鶴はまっすぐに駆けて行っているのだから。
(もう、私に出来ることは――一つしかない)
ゾンビと化した綾香は、その肌に生気を取り戻していくと、やさしく自分のお腹をさすった。
(私が勝つには。私が凛さんを――千鶴さんを追い越すにはこれしかない!!!)
覚悟を決める。
「イヴ、凛さん、私ね」
「ん?」
「どした♡(この空気、またイカれたこと言いそう)」
二人の視線が綾香を向く。
綾香は出来る限りの慈悲深い顔をすると、また、おなかを摩った。
(勝つにはもう、これしかない。私が勝つには――規制事実を作るしかない!!!!!)
既成事実。
そう、それが綾香の最終手段にて最大の手。
(このおなかには――このおなかにはイヴとの愛の結晶がある!!!!!!!!!!!!!!!)
*08コイバナ参照
そう、これこそが愛!
これこそが二人を引き離す最終手段!
「あのね、イヴ……」
もじもじ、チラチラ。
「?」
「私……おめでたみたいなの」
「!?」
(またおかっぱがなんか言いだした♡)
その空気は――
綾香が意を決して口にしたその言葉で流れる空気――
それは。
((コイツ何を言ってるんだ???))
である。
イヴは考える。
綾香が孕んでいるなど知らなかった。というか彼氏がいたのか、結婚するのか、綾香がそんなことになっていたのかという疑問。
凛も考える。
きっと綾香は千鶴出現によって脳みそがとろけて、みそ汁になってしまったんだなと思う。
考えることなんか出来なくて、もう完全にイカれた綾香はきっとお薬を処方しても治らない存在だと感じる。
「だからね、イヴ」
「お、おん……」
「私たち、結婚するの」
(私たちって誰だ!??!??!?!!?!?!?? 相手誰だよ!!!!!!!!!!!!!!!!)
綾香の想い伝わらず。
「えっと、綾香ちゃん♡ イーちゃん混乱してるみたいだし、ちょっと頭冷やそう♡」
「私、産むから。絶対に産むから!」
「妄想妊娠してるんだよ、綾香ちゃんは♡ ちょっと落ち着こう♡ ね♡」
「違うの!!!!!!! 私のお腹にはイヴの子がいるの!!!!!! 私妊娠したの!!!!!!!!!」
「俺の子!?!?!?!?!? え、いや、俺女だけど!?!?!?!?!?」
思わずイヴも声が大きくなってしまう。
一瞬そんなことがあったかとか、前世のときあったものを確認しようとしたが、どちらもないものである。
なら何故綾香がそんなことを言いだすのか、イヴは混乱に混乱を極めた。
「そうよ! イヴの子よ!!!!!」
「女同士で子供できないだろ!? 綾香なにいってんの!?!?!?!?」
「綾香ちゃん落ち着け♡ イーちゃん困ってんだろ♡」
「いやよ! 私は産むから!!!! イヴと結婚してイヴの子供産むからあああああああああああああああ!!!!!」
(ダメだこいつ♡ 早くなんとかしないと♡)
こんなこともあるだろうと、凛は予想していた。
前回はピンク色を持ってきていたクレイジーおばか綾香である。
きっと今回も暴走するのはわかりきっていたこと。
凛は笑顔でバッグを漁ると、あれでもないこれでもないと中身を漁る。
「あ、あった♡」
取り出したもの――。
それは小型記憶除去装置である。ペン型のライトになっており、スイッチを押すと先端から光が溢れる仕様だ。
発射された光を目にしたものの記憶を失わせることが出来る、まさに夢の道具である。
さらに凛はサングラスを二つ取り出すと、一つを自分に、一つをイヴにかけさせる。
「なにこのサングラス?」
「いいからちょっとつけていて♡」
何故か凛は黒いスーツに着替えている。
「何よ! そんなものだして!!!!! 私は何されても産むって決めたの!!!!!!!!!!!!!!!!!
凛さんも千鶴さんも私の邪魔しないで!!!!!!!!!!!!!」
カメレオンのように左右非対称に動く目、涎を垂れ流し絶叫する姿。
それはもう人のそれではない。発狂の果てをみてしまった綾香の亡骸である。
「はーい、綾香ちゃん、この光みてねー♡」
「私はあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!1」
ピカッ。
イヴの部屋に青白い光が閃光する。
「あ、あれ……私……な、何してたんだっけ?」
「何、今の光、凛なにしたの?」
サングラスを外しイヴは聞いた。
「あは♡ ちょっとだけ綾香ちゃんの記憶を消したの♡」
「私の記憶? え、私今まで何を……」
「なんでもないよ♡ 綾香ちゃんはもう大丈夫だから♡ 今日は疲れたでしょう? そろそろおねんねしましょうねー♡」
いいながらイヴのベッドへと綾香を寝かしつける凛。
「あれ、ここ……イヴの部屋? 私、どうしてここに?」
「いいからいいから♡ イーちゃん子守唄うたってあげて♡」
「え? 子守唄? 俺が?」
「いいからいいから♡」
凛に背中を押されるまま、イヴは綾香の元へいくと子守唄を歌い始める。
(どうして私ここに……でも――イヴのベッドでイヴに子守唄を歌ってもらえるなんて。幸せだなぁ)
効果はすぐに表れる。
イヴの香りに包まれながら、イヴの歌を耳にしながら、綾香はやがて深い眠りの底へと落ちていく。
やがて寝息をたてる綾香。
「寝ちゃった」
「よしよし♡ これで一件落着♡」
「てかさ、凛さっきのなんだったの? あの光は――」
ピカッ。
「うふふふ♡」
「ん……? あれ、凛。綾香も……あれ、俺何してたんだっけ?」
目の前の凛は黒いスーツにサングラス姿。
そしてイヴのベッドには何故か綾香が寝ている。
記憶を探ってみるが、どうにも記憶が見当たらない。
最期にある記憶は、千鶴とバイバイしたところまでだ。
「何もないよ♡ それよりイーちゃん、ゲームしよ♡」
「う、うん……(なんだかぼんやりする……まぁいいか)」
渡されたコントローラを手にするイヴ。
ゲームを起動させる凛。
(うふふふふ♡ うふふふふ♡)
「あ、クソ、やっぱ凛つえーなー」
「それほどでもないよ♡」
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