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35青天の霹靂

 全然全然足りない。

 全部全部足りない。


 トイレの鏡とにらめっこをする千鶴。


 可愛くなりたい、綺麗でありたい。

可愛さも、綺麗さも何もかも足りていない。


 初めて抱いた感情から、千鶴は休み時間になるたびに鏡の前に立ってしまう。


『可愛いよ』


 思い出す。

鏡の向こうの女の子が頬を染める。

恥ずかしそうにした顔も――ぶさいくだなぁって思ってしまう。


 あの人は――六道イヴは可愛さも綺麗さも持っている。

比べるのはお門違いだと思えるほどに、あの人は。


 イヴは綺麗で可愛くてスタイルがよくて顔がよくて運動神経がよくて気が利いて初めてあった自分にも友達のように話してくれて

出会ったその日にあだ名をつけてくれてあだ名でよんでくれてスポーツ飲料を渡してくれて笑顔がすてきで

ちーちゃんと呼んでくれて。


 加速していくこの想いはなんなんだろう。


「あ、鈴木さん、どうしたの?」


 トイレにやってきた同級生が声をかける。


「あ、ちょっとね……あのさ、ちょっと相談したいんだけどいい?」


「鈴木さんが相談なんて珍しいね。どうしたの?」


「えっと……実はとある人のことが頭から離れなくて――

どうしてか分からないんだけど、ずっとその人のこと考えちゃうの」


 指をもじもじ。

 顔は照れ照れ。


「そんなの決まってるじゃない」


「え?」


「鈴木さん、恋してるんだよ」


 

 ピッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!



 雷神の一撃が、衝撃すぎる身を穿つ雷が、千鶴の身体を駆ける。


「こ、恋……?」


「だって、気になって仕方ないんでしょ? フフ、鈴木さんも恋するんだね」


 此れが――此れが――此れが――


(人を好きになったことなんて)


 好きになったことがないから、この感情に説明がつかなかった。


(今まで――)


 したことがないから、困惑する。

 したことがないから、答えが導き出せない。


(一度も――)


 したことがある人だから、言える。

 したことがある人だから、客観的に千鶴に答えを教えてくれた。


『可愛いよ』


 両手で胸を抑える。


(そんなわけ――あるわけない!!!!)


 だって、相手は女子。自分と同じ性。

 昨日知り合ったばかりの。


 否定すればするほどに、胸の鼓動は早くなる。

 否定しているのに、脳裏にはイヴのことばかり浮かんでしまう。

目が、耳が、脳が、手が、肌が。


 恋(イヴ)を自覚(おぼえて)いる。



◇ ◇ ◇



 匿名でネットに答えを求めてみても、帰ってきた答えは同じであった。

同級生に言われた通りに、その答えは。


 恋。


(そんなわけない! そんなわけない! そんなわけない!)


 自分の気持ちを確かめたくなる。

ときめいてなんかいない! 恋なんてしているわけがない! あんなやつ好きなわけがない!


 だから、千鶴は放課後の校門で待った。

自分の気持ちを否定していた。同級生に言われても、ネットで言われても、千鶴はそれが答えだと思えないし、思いたくなかった。


 過ぎ去っていく生徒たちを見る。

黒い頭と同じ制服たちが横を通り過ぎていく。


(まだかな……)


 またしても“もしも”な考えが浮かんでしまう。

もしかしたらもう帰っているかもしれない。

もしかしたら早退しているかもしれない。

もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。



「雌豚あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」



 いきなり聞こえた大声にビクリと反応する。


「やーん♡ 凛なにもしないもん♡」


 綾香と凛だ。そして、その後ろには。


「うるせぇなぁ。ほら、さっさと帰ろ。で、今日はどこ寄る?」


「イヴは私と約束してたんだ!!!! 雌豚が勝手に首突っ込んでんじゃねぇよコラあああああああああああああ」


「約束ってさっき声かけただけじゃん♡ 凛は前から一緒にカラオケいこうって言ってたもんね♡」


「密室に二人きりとか舐めてんのかオラぁあああ!! それに私のカフェ寄り道が先だっつってんだろゴミクソおおおおおおお」



 キュ――。


 胸を掴む。

イヴの周りには二人の女子生徒。

どちらもすでにイヴと仲が良さそうで、黒いにゃんこパーカーを羽織った生徒のほうなど、甘えて腕を組んでいる。


(六道さん……)


 焦燥感、のようなものが胸を焦がす。


(そうだよね、六道さん綺麗だし可愛いもんね、あぁいった友達くらい……)


「お、ちーちゃんじゃん。また風紀委員?」


 かけられる声に、千鶴は嬉しくなってしまう。

 だって、またあだ名で呼んでくれたから。


「いえ、そうじゃなくて……人を待ってた、というか」


「あ、そうだったんだ」


「うん……」


(なんで……胸が痛むんだろ、なんで顔を直視できないんだろう)


「イーちゃん♡ 早くいこー♡」


「人の話聞いてんのかロリビッチ!!!」


「お前らうるせーよ。じゃ、また明日なちーちゃん。早く待ってる人くるといいな」


 イヴは二人を連れると、バス停のほうへと向かっていく。


 ぽつり。


 一滴、雨が落ちた。


(待ってる人は――もう来たよ)


 ぽつり。ぽつり。


 次第に大粒に、数を増やしていく雨粒。


(私――)


 ザァと振り出した雨。

生徒たちが傘を差す中、千鶴は一人傘も差さずに佇んでいた。


 歩き出す。


 また逢えるから。きっと明日も逢えるから。絶対に逢えるから。

まだ風紀向上ウィークは続く。まだまだ続いていく。


(また明日、逢おうね……イヴ、さん)



下から感想、ポイント、レビューが出来ます!!!!!!!!!!!!!!!


是非お願いいたします!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 恋と書いてイブと読め!!!素晴らしい!!! [一言] いきなり「雌豚ぁぁぁ」って叫ぶ綾香ヤバくない?そこ学校でしょ? 周りからどう思われてんのか気になるわ〜。
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