21カラオケボックス
密室、暗い部屋、薄明かり――カラオケボックス。
女子高生三人がいるのは駅地下のカラオケボックスである。
「ドリンク頼むね、何がいい?」
「俺ホットミルク」
「私ウーロン茶」
「はーい♡」
室内の受話器からフロントに連絡をいれる凛。
気が利くアピールはかかさない。
しかし、綾香も負けてはいられない。
L字型の席の隅にイヴを座らせると、綾香はその隣に腰掛ける。これで凛は入る隙が無い。
(糞豚ロリータが)
(クソ……もう隣は座れない……膝の上もトイレの可能性がある……)
仕方なく少し距離を置いて綾香の隣に腰をかける。
勝利顔の綾香に、凛は爪を噛む。
「何歌おうかなー♪ カラオケとか久しぶりだ」
さっそくリモコンをいじるイヴ。
三人のうち唯一イヴだけが純粋にカラオケを楽しんでいる。
さっさと選曲すると、イヴはマイクを片手に立ち上がる。
「~♪~♪~♪」
(これは貴重すぎる機会ッ! きっとイヴなら……)
スマホを構える綾香。するとイヴは笑顔でピースを送る。
しかし、撮っていたのは写真ではない。動画である。
「え、動画? やだ、恥ずかしいんだけど!」
照れるイヴ。ご馳走様な綾香。
(クソ……このままじゃおかっぱのペース……どうする!)
凛としてはとりあえず、この席の位置をどうにかしたい。
なんとか隣に座ることが出来れば挽回することは出来る。
二人を見ればイヴは恥ずかしそうにしながらも歌を歌い、綾香は涎を垂らしながら動画を撮り続けている。
(……待てよ)
ふと考える。
綾香は座ったままだらしない顔で動かない。
立ち上がったイヴはご機嫌で歌っている。
動かすならば、イヴを動かすべき。
そして――そうするには――……
少々過激かもしれないが、このタイミングならと凛もスマホのカメラを起動させる。
綾香とは違い、よりローアングルに構えるとその画面にはひらり揺れるスカート。
「ちょ! 凛どこ撮ってんだよ!」
「スカート♡」
「中見えるだろ! しかも動画かそれ!」
「うん、動画だよ♡」
「ちょっと! 映すな映すな」
「や♡」
スカートを抑えるイヴをなおも凛は撮り続ける。
さすがにそこはダメとイヴは場所の移動を始める。
(このクソロリータ!)
(良し!!)
イヴは移動すると入口のほうへと場所を変えた。
すかさず凛は綾香を端に寄せる。
(やりやがった!)
(よし、私のターン!)
歌い終わったイヴは凛の隣へと腰を下ろす。
「凛、さっきの動画消せよな」
「えー、消さなきゃだめぇ? 別にパンツは映ってないよ。見てみて」
そういって動画を再生させる。
イヴもその動画を確かめようと身体を凛に寄せる。
くっついた二人の視線はスマホにくぎ付け。顔は近く、肩は触れ合っている。
「あー、確かに暗くてよくわかんねーな」
「でしょぉ♡ 消さなきゃダメ?」
「んー、まぁそれなら」
(おいおいおいおいおいおいおいおいおい消せよ糞豚! パンツは映ってなくてもイヴの生足映ってんだろうがあああああああああああ)
このまま二人ばかりいい雰囲気にさせてはいけない。
ある種の使命感のようなものを帯びると、綾香はテーブルの下をくぐりイヴの隣へと場所を変えた。
これで席は凛、イヴ、綾香の順である。
凛と差をつけるには一歩踏み出さなければならない。
綾香は覚悟を決めると豪快にイヴの膝の上に頭を乗せた。
(綾香の呼吸、一ノ型、膝枕ッッッ!)
(こいつ! イーちゃんの膝を!)
「綾香が甘えてくるなんて珍しいな。どした」
「んーん、別に。ほら、前園さん早く選びなよ。私ちょっと熱いから休んでるよ」
無理やりにしてもらった膝枕。だがそれは功をなす。
イヴは膝の上に乗せられたおかっぱ頭を撫で始める。
さらさらとした髪の上を、イヴの繊細な指が通り抜けていく。
(おかっぱテメェ……)
ニヤリ。
顔を傾けると綾香はその鼻をイヴの腹部にこすりつけた。
スーハー、スーハ―。
ピキッと青筋が浮かぶ。
膝枕をしてもらうだけでなく、鼻を腹部に充てることで綾香は直接イヴの香りを楽しんでいる。
(おかっぱあああああああああああああああああああああ)
「イヴのお腹すっっっっごく気持ちがいい」
「そうか? でも、最近絞りすぎたからもう少し脂肪つけないとなんだよな」
「そんなことないよ。最高に気持ちがいいもん♪」
先の図書室での当てつけ。
凛は今頃とてつもなく悔しがっているのだろうなと思いながら、綾香は顔をイヴの腹に押し付けた。
(そうか……綾香ちゃん、本気なのね。本気で殺されにきたのね。いいわせいぜい今を楽しんで)
一度身を引く。しかし、それは次へと布石。
凛は選曲すると短めの曲を歌い終える。
「はい、じゃー次は綾香ちゃんの番だよ」
「えー、私まだ……」
「……図書室で本も読まないで、カラオケで歌わないの? 綾香ちゃん何しにここに来てるの?」
カチンとくるものいい。しかし、ここで歌えば膝枕が終わる。
「綾香も歌えよ、せっかくだしさ! 俺も綾香の歌聞いてみたい!」
薄暗い部屋を眩しくさせるようなイヴの笑顔が向く。
さすがにイヴに言われては仕方ないと、綾香はたじたじとしてリモコンをいじる。
(くそ、私の膝枕が……)
もう綾香が膝に乗れないよう、今度は凛が膝の上に頭を置く。
「イーちゃん撫でてぇ♡ ぎゅーしてぇ♡」
イントロが始まる。
仕方なくマイクは握るものの、その視線は画面ではなく二人のほうへ向けられている。
早く歌など終われと思いながら歌う。
そうしている間にも凛は仔猫のごとくゴロゴロとイヴに甘え、イヴも甘やかしている。
(くそくそくそくそ! 次はどうする!? 次はイヴの番……どう動く!?)
されたことは返す。倍返しだ!
凛も綾香と同じように、次の行動を予想する。
イヴは先ほど立ち上がって歌っていた。ということは次も立ちながら歌う可能性が高い。
つまり甘えられる時間はあとあっても2分弱程度。
綾香が膝枕をしてもらっているとき、その顔は腹部に埋もれると匂いを堪能していた。
負けられない。ライバルに負けるわけにはいかないと、凛は攻めに転じた。
それもいったように、倍返しにしてだ。
運ばれてきたホットミルクにイヴが口をつける。
「イーちゃん、一口頂戴♡」
「ん、いいよ」
「ありがとう♡」
しかし、凛は身体を起こすとマグカップのほうなど見やしない。
見たのはイヴの顔である。
その唇にほんのり残った乳白色。
かぷ。
イヴの口を甘噛みした。
「え、なんで噛んだの?」
「今一口もらうって言ったでしょ♡」
「普通にコップの飲めよ」
「こっちのが甘くておいしそうだったんだもん♡」
曲が、終わった。
口を食まれてもイヴは動揺することなく、次の曲を入れようとリモコンを操作する。
(前園……今、おま……何を??????)
信じられない目つきをする綾香。
凛は舌を出すと、ゆっくりといやらしく自分の唇を舐めている。
(綾香ちゃぁん、あなたには出来ないでしょうねぇ、出来ないよねぇ!)
(どうすれば……どうすれば!!!)
「よーし、じゃ、俺の番だな!」
マイクを手に、イヴが立ち上がる。
中盤は凛が勝利。
恐らく、次が最後の戦いになる。
恍惚とする凛、青ざめる綾香。
元気いっぱい歌いだすイヴ。
カラオケボックスは熱くて熱くて仕方なかった。




