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勇者がお手伝い  作者: こたつねこ
オフィスレディ、迷う
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オフィスレディ、地下迷宮で迷う

 気がついたら作ってしまったショートパンツモドキを穿いてアランさんに見せたら案の定、駄目だと言われた。どんだけ太腿が苦手なんだろう?

 上着の裾をひざ上まで下ろし、まだ色々言っているアランさんを上手く誤魔化して許してもらう。ひざに服が纏わりついて歩きにくいんだもの。

 

 昨日から思ってたけど、アランさんや隊長さんの口調が滑らかになっている気がする。隊長さんに西の山にある魔石洞窟へ行って、どんなものか見てくるように言われた。その時に双方の口調が変わっているのに気がついた。

 隊長さんの話では、これも勇者の力かも知れないと言う話だ。どうやら自動翻訳が私に備わったらしい。ふっふっふっ、これで多国籍同時通訳もバッチリね!

 

 ……地球に帰れたらの話だけれど。それに力が残ってたらね。

 

 魔石の洞窟にはアランさんとカールさん? 昨日会った碧眼の人と、他にそれぞれ十人ずつの計二十三人、それを四台の馬車で分けて行くらしいです。この中で女性は私一人で心配してたんだけど、全員集まったところでアランさんが、

 

「トウカは勇者として呼ばれた可能性がある。皆もよろしく頼む」


 って言ったら、皆がこっちを見てぶつぶつ呟いてた。

 

「あれで!? 蛮族の女だと思ってた……」

「破廉恥な勇者だ、でも背が低いし、子供じゃないのか?」

「隊長が見つけた時は、下着だけだったらしいぞ」


 むっきー!! 私は思わずアランさんを睨んだ。もう少し上手に言ってよ!


 私が睨んでることも気付かずにアランさんは難しい顔をしてた。それでも馬車の中では私に気を使ってか、端の方に座らせてくれ、そのままアランさんが私の隣に座ってくれた。

 

 馬車なんて言うものだから、もっとガタガタに揺れるものだと思っていたら、何かスプリングが効いてるみたいで揺れが少なかった。よく見れば道もそのままの地面を走っている訳ではなくて、ちゃんと整地されているみたい。

 洞窟まで一日以上掛かるなんて聞いてたから、お尻の心配してたんだけど、これなら大丈夫だよね。それでも私が居るからかな? 山の手前で早めに野営の準備をするみたい。

 

 西に見える山は標高がどれくらいか分からないけど、思ったより高くなかった。北に見える雪を被った山脈の方が遥かに高そう。アランさんに聞いたところ、どうもあの山全部が昔の勇者さんが作った火山らしい。一部だけじゃないのね。

 

 野営をしてる皆さんの中で、私一人仕事が無い。アランさんは野営を慣れる事とどんなものか見ておけ、なんて言ってたけど、手持ち無汰沙にあちこちと見て回った。そういえば、食事が気になった。どうやって料理しているんだろ?

 炊事している所にお邪魔して、係りの人の作業をじっくりと見せてもらった。パンは保存が効くから、持って来た物を軽く焼いてるだけで終わり。スープはハムとかベーコン? と野菜を細かく刻んだ物をそのままお湯に入れてた。

 味付けに塩と、よく分からない香辛料を入れてた。味見をしてないから、経験による目分量なんだね。香辛料はなんですか? と聞いて見ると、この国の南側で取れる木の実や薬草を乾燥させた物をすり潰した物だと教えてくれた。

 

 もしかすると、いつかは私も炊事する事もあるかも知れないから、よく見て覚えておこう。食事時に、他の人からベーコンみたいなものとか果物を分けてもらえたのは嬉しかった。子供じゃないんだけどなぁ。まあ、いいか。



  ●〇●〇●〇●〇



 翌朝、早目に出発するらしく、日がまだ顔を出していない内に皆が起きて来た。私も一人だけテントを使わせてもらってたけど、物音で起きれた。まだテントから出ない今の内に自分で出した水で体を拭いておいた。

 うーん? そういえば私はお風呂とか作れるのだろうか? 今度アランさんに相談してみよう。みんなもお風呂に入れたら嬉しいよね?

 

 今朝も炊事している所を見させてもらった。パンは昨日と同じ様に焼いて、スープは昨日の残りである。そういえばと聞いてみたら、水は樽に入れて馬車に積んでいるらしい。私の水は出せる量が分からないけど、使えるかな?

 

 食事が終わり、後片付けが済んで、それぞれの馬車に乗って出発する。馬車の中でアランさんにお風呂の事を聞いてみる。

 

「アランさんや他の皆さんはお風呂とか、どうしているんですか?」

「風呂? あー、砦での勤務中は体を拭くだけかな? 休暇の者が町へ行って、湯船を使わせてもらうか、もう少し暖かい時期なら川で水浴びも出来るんだが」


 うへー、いきなり乙女のピンチだよ! このままだと私まで汗臭くなっちゃう。

 

「あのー、ちょっと試してみたい事があるんですけど、今度見てもらえませんか? 湯船を作ってみようと思うんです」


 湯船を作ると言う私の発言に、アランさんを初め、馬車に乗っている人たちが私を見て何言っているんだ、コイツ? みたいな表情になってる。

 

「なるほど、トウカ、君が湯船を作れるとしよう。確かにあの牢での出来事を見れば作れるかも知れない、いや作れるだろう。でもね、その湯船を満たすお湯はどうするんだい?」


 おお、顔は笑っているけど、ちょっと怖い。アランさんは私の正面からがしっと肩を掴んで訥々と優しく言い聞かせるみたいになっている。

 

「あ、あの、試すだけです。いきなり湯船を作ろうとしませんよ。初めは桶を作って、その中にお湯を入れてみます」

「うん? あー、じゃあ、ちょっと……、おいっ! そこにある手洗い桶貸してくれ! うん、じゃあトウカ、この中に試してみてくれ」


 アランさんは馬車の中にあった桶を取ってもらい、私に寄越して試してみろと言う。そうだよね、桶で試せば良かったんだ。最初から大きなお風呂作ってどうするの! ちょっと恥ずかしくなりながらも、桶を借りてそれに念ずる。

 

 えーと? 人肌よりちょっとだけ熱いお湯よ、出ろー、出ろー。

 

 ……とぽとぽとぽ……

 

 おお? 出てる出てる。いい感じの量が溜まったら、また止まれと念じて、お湯が出るのを止めた。手を突っ込んでみると、好みの温度よりちょっと熱いかな? って感じの四十一度くらい?

 そしてアランさんに、はいっ! って渡す。どうかな?

 

「──すごい、すごいけど何かもったいない。何て勇者の力の無駄遣いだ」


 アランさんの一言は心に突き刺さるよ。



  ●〇●〇●〇●〇



 お風呂の件は今度ゆっくり考える事になり、今は魔石の洞窟入る事にアランさんは集中するらしい。真剣な顔で洞窟に入る前の注意事項を隊員の皆さんに訓告している。荷物の分散、係りの者を決め、照明、武器のチェックをしてる。

 私も見様見真似で武器のチェックをしてる。よく分からないけど。アランさんは私に洞窟に入る時は自分の後ろに居て、とりあえず雰囲気だけ感じておけばいいと言っていた。長針弓の引金固定具は絶対取らないようにと注意された。

 

 洞窟には四人ずつ固まって入るみたい。洞窟には枝分かれした坑道がいくつもあり、それぞれの道を別々に行くらしい。私はアランさんと三番目に入る。一緒に入る人によろしくお願いしますと言って頭を下げた。

 他の二人はぽかんとしてたけど、すぐに笑顔になって任せておけと力強い返事をしてくれた。みんな頼もしいね!

 

 一組目、二組目が中に入り、私たちも先頭の人がランタン? に似た温度を感じない光を出す照明器具を持ち、次の人とアランさんが腰のナイフに手を添えて付いて行く。私もあわてて付いて行き、腰のナイフをそっと触る。

 

 先を進むといくつかの曲がり角があり、遅れないように光を目印に進んで行く。そして何回目かの角を曲がった時に、光が少し遠くに見えた。怒られると思いながらその光に向かって早足で進むとちょっと様子が違う事に気付いた。。


 ──目印にした光は、壁の中で光っている石だった。今は何で壁の石が光っているのだとか、どうでもいい。

 

「……ここはどこ? みなさんどこにいったの?」




 

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