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パーム   作者: 吉田 椿
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第2章 遭遇

面倒なことになっちまったな。

鷲崎はため息をつく。

「鷲崎さん。ため息なんかついてないで、早く乗ってください。」

「ああ、わかってる。」

投げやりにドアを閉めた。

これから俺たちが向かうのは、一昨日異常現象が起こった小さな街だ。

警視庁の本部から車で4時間もかかるらしい。

その間に、俺は若本総監に渡された資料に目を落としていた。

「鷲崎さん。俺たちは一体何を調べるんですか?」

信号が赤に変わる。

「これから行くとこは、街が陥没しちまったらいぞ。」

資料に書いてあることを凝縮すれば、大体こんな情報しかない。

「陥没ったって、それをどう調べろと。そんなこと、人ができるわけでもないですし、人ができなければ犯人なんて出てきませんし。自然現象だったら、俺ら以外に適任者が居るはずですよね?」

信号が青に変わり、神崎は思い切りアクセルを踏み込んだ。

神崎は気持ちを表に出しやすい。

こいつの良いところでもあり、弱点でもある。

「うおっと。お前、警察が安全運転しなくてどうする。」

「すみません。でも、、、」

神崎の気持ちはわからんでもない。

今までは、追うものがはっきりとしていたから迷う事も戸惑う事も少なかった。

「まぁ、神崎。調べることがないわけじゃなさそうだ。」

「はい?」

「被害者がとてつもなく少ねぇ。」

またしてもアクセルを思い切り踏み込む。





気づけば日も落ちかける頃、2人は目的地へ着いた。

「鷲崎さん、これ、、、。」

神崎は言葉を失う。

こんな光景は、映画の中でくらいしか見たことがない。

街がまるまる5メートルほど埋まっているのだ。

「こりゃ、異常過ぎんだろ。」

俺だってそれなりに刑事を続けて来た。

目ん玉飛び出るような現場や、内臓が口から出るような現場は数え切れないほど見てきた。

だが、これは度を超えている。

「鷲崎刑事、神崎刑事、お疲れ様です。」

ハリのある声だ。

「自分、この街の交番に勤務しています。後藤です。」

若いな、見たところまだ勤務2年目くらいの若造かな。

歴も浅いのに、勤務先がこんなになるなんてご愁傷様だ。

「お疲れ。出迎えありがとう。気の毒だったな。」

「これだけのことです。被害も多かったのでしょう。」

被害は多いはずだ。

でも、なんかこの警官の態度を見ていると納得いかねぇ。

どうしてこうもケロッとしているんだ。

「はい、そりゃ建物が崩れたり水道管が破裂したりで大変でした。けど、被害と言ってもそんなもので、死者はほぼゼロなんですよ!」

「「なにっ⁉︎」」

そんなわけねぇだろ。

いくら最近は技術が進歩したからといって、瞬間移動ができるわけでもないし、超ハイテクマシーンで瓦礫を軽々と受け止められるわけでもない。

なのになぜ、死者がいないのか。

「ほぼって、どれくらいの死者が?」

「色々と確認はとりましたが、死者はゼロです。街の名簿も確認しましたが、行方不明者もいません。多少、避難の際にかすり傷を負った程度です。街のみんな、気づいた時には街の外にいたらしくて。」

「そんな馬鹿な。」

ビックリしすぎて腰が抜けるわ。

「日も落ちてきましたし、捜査は明日からにしますか?」

いや、ここにはおそらく何もない。

「神崎!帰るぞ!」

鷲崎は素早く車に乗り込んだ。

「え、鷲崎さん!ああ、後藤さんありがとうございました。ちょっと鷲崎さん?」

「あの!捜査はなさらないんですか⁉︎

鷲崎刑事!」

慌てる後藤を背に、車は再び走り出す。

神崎は相変わらず俺についてきてくれる。

普通の刑事ならこうも簡単に車は出してはくれない。

神崎が運転しながら、呆れたように聞く。

「鷲崎さん、一体なにを思いついたんですか?」

「あぁ?別になにも思いついてねぇよ。」

「はぁ?現場見なきゃわからないって言ったのは鷲崎さんですよ。」

「現場は見たじゃねえか。」

「あんなの見たうちに入りませんよ!」

内ポケットからタバコを出す。

「吸うなら降りてください。」

神崎はドアの鍵をあける。

いま車は時速65キロで走行中。

「バカ、いま降りたら事件解決前に俺死んじゃうよ⁉︎全く、お前そーいうとこあるよな。」

まったく、神崎は昔の女と同じこと言いやがる。

「で、どうなんです?」

「なにが。」

「何がじゃないですよ。優雅にタバコを吸うくらいなんですから、この後のプラン。考たんでしょ?」

「とりあえず、本部に戻る。」

「それからー?」

「今後について考える。」

「だはー。」

神崎がアクセルを踏み込む。


後1時間くらいで本部に着くだろうか。

うーん。考えれば考えるほどわからない。

普通に考えて、誰も予測しないことが不意に起こったんだ。

死者はもっと出るはず。

なのに街自体にしか被害はなく、街の人は生き延びた。

誰か、事前にこの事が起きることを知っていたのか。

いや待て、知っていたとしてもあれだけの大人数を短時間で別の場所に移動するのは、ほぼ不可能だ。

色々な仮説が俺の頭の中で踊りだす。

知恵熱でも出てんじゃないか?なんて思っていた時。

「鷲崎さん、あそこ。見てください」

言われた方を見た。

「なんだあれ。めちゃくちゃでかい雲だな。しかもきみが悪い。」

「鷲崎さん、行ってみませんか?」

こいつ、このただでかい雲を異常現象とでも思っているのか?

「お前に任せる。」

「了解です。巨大雲に向かって全速前進!」

車は巨大雲がの方へと目的地を変えた。


雲に近づくにつれ、気温が下がってきて雷も鳴り始めた。

「これはただの嵐なんじゃねぇの?最近よく起こる、なんだっけ、ほら、ゴリラ豪雨とかさ。」

「ゲリラ豪雨ですよ。にしては、雲の動きが少なすぎません?」

話していると次第に、道路の脇に人がちらほらと見え始めた。

「すみません、一体この先で何が起きているんですか?」

神崎が車を止め、道路傍にいる老人に聞いた。

「それがわしにもよう分からんのだ。気づいた時には、街から離れたこんなところにいたのだよ。」

「気づいた時には?、、、。」

あの警官の言葉が重なった。

(気づいた時には街の外にいたらしくて。)

俺は神崎を押しのけて窓に飛び出した。

「おい、爺さん。街はここからどれくらいかかる⁉︎」

「車じゃったらもうすぐや。」

「ありがとう!神崎、急げ。」

「は、はい!」

これはきっと、あの街と同じ事が起きている。

きっといま、街では何かが起きているはず。

「鷲崎さん、面白くなってきましたね。」

「あぁ。」

街に近づくにつれ、雨が強くなっていく。

街が見えてきたところで、車が動かせないくらいの雨の強さになっていた。

まるでバケツをひっくり返したような。

いや、それ以上。

ダムがあふれ出たような雨だった。

車から飛び降り街へと走った。

街には誰もいない。

ただ、水が弾ける音だけが響き渡っている。

「鷲崎さん、これ長居は無理です!俺らが流されてしまう!」

「わかった!すぐに切り上げよう!」

これだけの会話も、全力で叫ばなければ聞こえないほどだった。

雨が降り注ぐ街を歩いていると、何かが浮かんでいた。

そこはちょうど坂の下で、水がたまり海のようになっていた。

「神崎!ちょっとこい!」

神崎と2人で浮かんでいるものを引き上げた。

「鷲崎さん、これ、、、。」

「大きなお土産ができたな。」

浮かんでいたものは、成人男性の死体だった。

前の街では死者が出なかったのにここでは出る。

なんか、おかしな話だ。

「神崎、車に戻るぞ!」

「はい!」

死体をもって元の道を引き返し始めたその時。


ザザーーゴーン


水が叩きつけられる音。

嫌な予感。

2人顔を見合わせ後ろを振り返ると、街に溜まった大量の水が巨大な壁となりこちらに迫ってきた。

もういまにもその壁は崩れ落ちそう。

もう間に合わない。

巨大な水の壁は、津波のように俺たちに襲いかかってきた。

「「う"ああぁぁぁぁぁぁぁ」」

俺、死んだ。

そう思った。

目をつむり、今までの事を鮮明に思い出す。

これが走馬灯か。

あぁ、あの時タバコ吸えばよかった。

そう思った時。

バチャ。

可愛らしい、子供の水遊びのような音。

「え。」

目を開ければ壁は消えていた。

軽く水がかかったくらいだった。

気づけば雨も止んでいる。

「鷲崎さん。生きてますか。」

「神崎、俺、生きてるよ。」

生存確認終了。

何だったんだあれは。

水がどんどん消えてゆく。

一体どこへ消えていくんだ。

ちょうど坂の下が見えた時、黒づくめの人が立っていた。

まるで水の中から出てきたように。

「君!大丈夫かい?」

黒づくめの人はこちらをちらりと横目で見た後、つられていた糸が切れたようにその場に倒れこんだ。

神崎が駆け寄る。

これで大きなお土産が2つになった。


雨はすっかり止み、綺麗なお月様が空には昇り始めた。

街の人は、こりゃ参ったとぼやきながら街へと戻ってくる。

いやいや、こりゃ参ったと言えるだけありがたいよと言ってやりたいぐらいだ。

俺と神崎は人目に触れないうちに、大きなお土産2つを車に積み込み本部へと向かった。


一体、なぜこの男だけ死んだのだろう。

なぜ、あんなところに人がいたのか。

なぜ俺は、これで終わりなんて思ってしまったのか。


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