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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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出会う

 さっ戻るか。身をひるがえして来た道を逆にたどる。暗いところに目が慣れているのか、今度は懐中電灯のお世話にはならなかった。微妙な傾斜の坂道はそのまま。

 でかい犬にはまた吠えられた。やめてえ。怖いよう。石垣は相変わらず斜めで、トカゲがいないのが唯一異なる点だった。どこかへ行ったのだろう。

 長屋の前に、見慣れない誰かが立っていた。いや、私は越して来たばかりなのだ、見慣れないのは当たり前か。むしろ見慣れないのは私の方である。ここの住人だろう。私は声をかけてみることにした。

「あの、私ここの『ホ』に引っ越してきた衣川依って言います。今日からよろしくお願いしま……え?」

 そうして頭を下げて、初めて相手の顔を見たのだ。

 相手は男だった。私と同級生だろう。細いというよりひょろい。なんか薄い。頼りないというより吹けば飛ぶ。顔についても不細工ともいわないが美形には月と太陽ぐらいの隔たりがあると思う。

 だがどうしてか、なんとなく見たことがあるような顔をしているように見えた。

「え……うん、俺も今日ここの『ニ』に引っ越してきたユゲ壮二っていうんだ。よろしくな」

 下の名前の壮二と言うのは聞き取れた。上がわからない。何て言っただろう?

「ゆげ?」

「弓を削るで弓削。ええと……より、だっけ?」

「にんべんに衣で依よ。よろしくね」

 にんべんに衣……。弓削は自分の手のひらに指で書いて、それから得心したように頷いた。

「ああ、依代の依か」

 ぴくっと背筋が震える。その言葉。もしかして。私の表情に出ていたのか、それが弓削に伝わったらしい。苦々しい顔をされる。

「お前も、あのあとシカトにあったのか」

「うん、まあ。友達もハバネロ対応極まりなかったよ」

「あーそれはなかったわー俺友達いないもん」

 寂しいやつだな。それから私たちはいろいろなことを話した。もう通わない学校のこと、もういない友達のこと、もう会うことのない両親のこと。

 いちいち自分が何を言ったか、相手が何を言ったかもよくわからないままだったが、お互いに欠け落ちていたものが戻ってきたような気分だった。笑った。それから少し泣いた。なぜか相手が理系なのをよく覚えている。

 友人がいない人間は必ず自殺するとかいう謎理論、まったく信じてなかったけど本当かもしれない。鼻で笑って済まなかった。反省は一切していないがな。ははっ!はははっ!ははははっ!はははははっ!ははははははっ!

 家に戻ると私は時間も何も考えず、しかもカーペットの上で爆睡した。疲れていたのだ。カーペット?あ……これ……下……。寝ちゃ……でも……もう、眠……おやすみ……。

 夢は見なかった。起きたら夕暮れ。精神的な疲労とでもいうようなものがあると言えばあるのだろうが、いくら何でも不規則に眠りすぎだ。しかもカーペットの上なんて。

 腰が痛い。ベッドで寝ればよかったのだが、残念ながらベッドはまだマットレスを敷いていない。愛しのマットレス様はビニール袋に入って転がっているわよん。

 こんなふうで、私、生活習慣がおかしくなってやしないだろうか。高校はちゃんと通えるのかな?朝起きられないと遅刻し放題だ。

 カーペットをはがしてみる勇気はなかった。時には臭いものに蓋をする判断だって必要だ。さーて荷物を整理しますか。絨毯の下事案なんて知らないよっ。

 叔母はああもエキセントリックな人格だが、家具の趣味だけはまともだったようだ。それか、私の趣味を理解しているほうかもしれないけど、なかなかいい部屋になったじゃないか。上出来上出来。

 あとはフローリングのげふんげふんがげふんげふんだが、気にしなければどうということはない!そうだ、本屋に行こう。何か買って読めば気分が変わるかもしれん!

 私は再び、家から一歩踏み出した。

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