予想と現実
お久しぶりです。三人称のありがたみを感じまくっております。難しいのだよ……一人称は。
「文化祭、どうだったの」
「何てことないぜ」弓削はちょっと楽しそうに答えたわ。微妙に腹が立つなあ。「卒業する三年生が歌って、リア充どもが出し物やって、それだけだぜ」
ふうん。楽しかったみたいね。私はその場を離れた。興味がなかったからじゃないわ。次の授業が移動教室なの。しかも女子は家庭科、男子は技術。それで、女子は調理実習。
一応行かなきゃ。いくら灰色をしているといっても、人生最後の経験はしておきたいものよ。
あら、家庭科室はどこだったかしら?今のじゃないわよ。だって校舎建て替えたじゃない。えーと……やっぱりよくわからないや。ま、どこでもいいのよ。あの時もわからなかったから。
校舎みたいな小さいものは細かすぎて見づらいのよね。家庭科室だけ探そうと思ったら頭から触手生えるわ。
周りの人に聞こうとしたけどやめたわ。彼らから返答があるわけないもの。リアルが充実しているこの青い春に好き好んで外なる神との交流を図る人間なんて普通いないのよ。
仕方ないから同じクラスの女子を後ろからそっと尾けたわ。
それにしても、中学生の時はこんなぼっちになるとは思ってもみなかったな。何か、気になる男子とか、彼氏とか、そういうキラキラしたものを妄想の中で高校生活に求めていた。
妄想の中で私は赤みがかったような、ピンクがかったようなキャラメルのふわふわした髪を顔の周りにまとわりつくいたずらな風にもてあそばれていて、背がもう少しあって、胸も発達して子供のような体形を脱していた。
潤いのある頬を桜色に染めて、目の中に星があった。胸元のリボンを緩めて、ブラウスのボタンは一つか二つ外していた。
不思議なもので、妄想に出てくる高校の制服ってブレザーなのよ。しかも、きちんとブレザーを着るんじゃなくて、ワンサイズ大きいカーディガンなの。どうしてかしらね。
現実の私は色素の薄い、量も薄い髪をそのくせ重たく顔の周りに広げていて、いたずらな風なんかなくて、背は一センチも伸びなくて、胸はうすっぺたいまま腰が少し張ったようなかろうじて少女とわかる子供体形。
頬の一番高いところは少しかさついて、粉を噴いていて、目は薄暗い。ていうかうちの制服セーラー服なんですけど。
しかも現実には気になる男子も彼氏もないまま父親の何万倍何億倍も年上のジィサンの愛人なんだから世話はないわね。
もう年も取らないし、たぶん子供も産まないし、そもそも親子、家族という概念自体あるかどうか怪しい暗い闇の底で永劫の時を生きてんだか死んでんだかわからないものになって過ごすのね。
依「好きでこんなことになったんじゃないやい」




