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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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かなたの夢に行き倒れ

 迷子になるだけの話です。

「ぐへっ」

 潰れたカエルのような悲鳴を上げて固い地面に落ちた。骨が折れている。胸、腹、あー右足もか。すぐ治るようなものだけど、私だって痛みを感じるのよ。ぶーぶー文句を垂れながら周囲を見回した。

 暗い。ひやりとした夜の空気が辺りを支配している。確かに外だけど、行った先で落ちるなんて、ずいぶん雑な通路だわ。責任者を出せ!

 霧が立ち込めているとはいっても私の目なら見えてるんだからね。そこにいるんでしょう。私帰りたいわ、どうしたらいいかしらと話しかけてみた。

 どうして話しかけたかって、そりゃあそのひとたちが集まっていた外なる神の皆さんと同じ古墳時代ルックスだったからよ。同じだと思ったの。

 まさか、地球本来の、日本本来の神々とは思わなかった。

 霧が晴れてゆく。私を囲む全員が白い布で顔を隠しているのを見て、違和感を覚えた。それに、外なる神の皆さんみたいな、和やかで一種絶望的な空気を感じない。

 何かひそひそ話している。女の人も男の人も、完全武装ね。頭から白い布を被って、顔はほとんど目しか見えないの。

 そうか、チャドルね。ムスリムなのね。日本の神々はイスラームに改宗したのね。でも目と手以外見せちゃいけないのは女の人よ。男の人は違ったと思うわ。さすがに地理的に遠いから間違って伝わった部分があるようね。

 それでもかたくなに古墳時代ルックスのままなのは、私たち日本人のことを慮ってのことかしら?そうよね、さすがに突然イスラームなひとがいっぱい来て我らは日本の神であるとか言い出したら一部のご老人は腰じゃなくて心臓の拍動が抜けちゃうわ。

 だからできるだけ日本チックな要素を残すために完全武装なのね。こっちに聞こえてこないような小さな声で話しているけど、単に私の耳が遠いだけでしょうね。

――そんなわけがあるか。

 ありえない。そもそも神道ってものがまず宗教なのよ。宗教であがめられてる神々が別の宗教の信者になるってそれがすでに疑わしいわ。私の耳だっていいどころの話ではない。顔を隠すっていうのがどういうときにすることか、フィクションでも現実でも知っている。

 こいつらは私を、っていうかあの通路から間違って落っこちてくるやつを何でもいいから殺しに来た。

「何だ、お前は」

 近づいてきた男性、なぜか現代語だったわ。よくよく考えてみりゃ神様のほうでだって2000年は経っているわけだから、言語だって変化するわよね。

「臭うが奴らではないな……シンシか」

 漢字を当てたら神使、かしら?神使……うーん。ちょっと思い当たらない。まずおばさんたちは触手を植え付けた触手人間よ。魚兄さんはインスマウスだわ。

 広義でいうと含まれそうではあるけど、あれは眷属だと思うの。言葉自体も聞かないし、微妙よね。わからないから何も言わないで突っ立っていたら、まあいい、と私を蹴飛ばした。

 なんでやねん。

 少し離れた地面に激突して転がる。初対面で蹴飛ばされるのは初めてね。しかも……ありえない、こいつ、蹴ったの顔だぞ。

 細いし胸も尻もないからあれだけど美人でもないけど少なくとも男みたいな顔だけはしてないつもりなんだけど。ずいぶん男女平等に造詣が深いと見えるわ。

 砕けた顎をくっつける。次は別の人に襟首をつかまれて投げられた。

 よくわからないけどどうやら私は標的にされてしまったらしい。本命は旧支配者だったけどまあ眷属に違いないみたいだしこいつでもいっかみたいなノリかしら。

 いつもは高いけど今回は特売のパック98円の卵が売り切れちゃったからって隣のいつも134円のやっすい卵を買っていく主婦みたいなマネしやがって……。

 腹立たしいけど相手は神様。相手にせずさっさと逃げてしまうのが得策だわ。

 犯人は……お前らだッ!

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