震えて眠れ
まだ由香ちゃん喋ります。そろそろ依ちゃんが恋しくなってきました?
『私は私だ。まだ私は自分の意識を保っている。』
嘘だって言った。ありったけの声で叫んだつもりが、消えそうな小さな声だった。
何よ、じゃああの時……私が怒鳴ったとき、電話の向こうでは依が一人で困ってたの?わけわかんないって言葉通りの意味だったの?そんなのってないよ。だってもうどうしようもないじゃん……。
ううん、まだ何とかなるかもしれない。まだ半年も経ってないんだ。もしかしたらまだ、依は依かもしれない。連れ戻すんだ。
メモを握りしめて、心に誓う。でもどうやって連れ戻そう?依が今いるのは隣町ってことは間違いない。でもそれ以外はまるで見当がつかない。
人に聞くとしても、おばさんはあの調子だし、もし知ってても聞き出せそうにない。
他に知ってそうな人は、あの時きた白ずくめの大人たちくらい。あの焦点の合わない目、もう二度と会いたくないって思ってたけど、仕方ない。どうにかして会いに行かなきゃ。
隣町の神社に行けばいるかな?白ずくめさんたち。
「きっと後悔するさね」
いた。ここは社務所だ。結構あっさり見つかるもんだ。今いるのは女のひとで、白ずくめじゃなく巫女さんみたいな恰好をしている。
「みたい、じゃなくて巫女さ。……あんた依の友達って言ったね?会うのはよしな。お互いに傷つくだけさね」
だけ?そんなことやってみなきゃわかんないじゃん。その言い方にムカッとして言い返した。
「とっくにわかってることなのさ。あんたにも分かってるはずさね」
「でも依なんでしょ?バケモノに操られてるとかじゃ、ないんでしょ」
「だからよくないのさ。あの子はもう、」巫女さんは小さな声でつぶやいたけど、諦めたみたいだった。「住所は教えるよ。行くかどうかは親御さんと話し合いな」
顔をしかめた。パパとママに言ったりなんかしたら反対されるに決まってるじゃん。
「絶対?」
「絶対さ。ほれ、とっとと帰んな」
もちろんパパにもママにも話す気はなかった。だってそうじゃん、これは私たちの問題で、親が出張ってくるようなことじゃないもん。
「駄目よ」
「駄目だからな」
なのに、何で神社からうちに電話がかかってくるわけ?ていうか何でうちは氏子でもないのに連絡先を把握してるんだ。ひどすぎる。これじゃ依がかわいそうだ。まるで生贄じゃん。
両親の総攻撃でも折れなかった私は、とうとう夏休みの間中外出禁止を言い渡された。部屋に一人こもって、ベッドの上から天井を見てるだけ。
行きたいのに行けないもどかしさで眠れない、とかなら格好もついたんだけど、気が付いたら寝てたみたい。不思議な夢を見たよ。




