碧玉を背に
さあ、これから……上げてこうかっ!そういうアニメいつだったか、ありましたよね。内容も題名もちょっと思い出せないけど、面白かったような気がします。
そして私はジオフロントを去った。そういえば、会うのは弓削を通してか、ドリームランドでか、特に言わなかったなあ。まずったかもしれない。
引き返そうか、と思ってやっぱりやめた。別に向こうで何とかするでしょ。
神社の境内には、巫女装束のおばちゃんが立っていた。忘草甘味。わが叔母だ。こちらを認めて、にやりと笑いかけてくる。
おばちゃん、と呼びかけて二の句を用意していなかったことに気付いた。何を言ったらいいの?
そもそもおばちゃんって、奥さんの触手細胞が植わってる、奥さんのほうの配下なんじゃないかな。話しかけてもいいことはないどころか、マイナスにしかならないんじゃないの?
「そんなこともないわさ」私の考えていたことをあっさりすっぱり否定して、おばちゃんは笑った。「私たちが従うのは神格の持ち主さね……主が変わるなら変わるでまた身の振りようもあるってものさ」
「どういうこと?」
「まさかまだわかってないのかい?そんなわけはなかろうと思うけどね」
本当は最初からわかってたわ。自分の配下が何を言っているかくらいは、あの時の私でも十分わかったもの。わかってはいたけれど、もう一度、どういうこと、と繰り返した。
にいっとおばちゃんの口が吊り上がる。
「たとえば……我らが偉大なご主人様は衣川依、あんたでもいいってことさね」
砂利を踏み荒らして数歩後じさり、逃げるように神社の参道を駆け下りた。風になりそう。月のきれいな夜だったわ。木の根っこに持ち上げられて、割れて浮いたコンクリートがぬらぬらと粘着質に光る。
地面を蹴り凹ませて、どう見ても人間じゃない速度で走っていたと思うけど、誰も何の反応もしなかったわ。
当り前よ。
だって、この参道、なぜか人が通っていないもの。行きもそうだったけどよくよく考えればおかしいわ。ここの神社はライトアップとか夜の営業もしてるから、参拝客なんて夜中にも来るの。
その関係で、参道をちょっと脇にそれたら高層ホテルがあるけど、これにも明かりは一つもない。黒い四角い棒みたいになってそびえている。
どこまでも、月の光とおばちゃんがくすくす笑う声が追いかけてくる。怖い、と思った。
この声はおばちゃんだけじゃない。私の耳には聞き分けられる。男の人もいるし、子供もいるし、お年寄りもいるわ。でもおばちゃんと同じなの。
彼らはきっと町中に。県外にだっているかもしれない。奥さんはたくさんの改造人間の配下を持っているんだ。
私は今、いろいろな部分が人間をやめているけれど……この数を一度に向けられたら、本当にさばききれるのかしら?
さばけるかもしれない、いけるかもしれないけれど、その想像は果てしなく嫌。もし私に害を加えないとしても、誰かに操られているのだとしても、いろんな人に敵視されるのは辛いわ。
その、配下のはずのおばちゃんが私に提案してきたのは、何のことかもうわかっている。わかりきったことだわ。わかっているけどそれを認めちゃダメでしょ?
長屋の前へたどり着いた。ただでさえ山の上で周りに家とか店がないから暗いのに、この夜は特に暗かった。きれいな月が出ているけど、それは私の家を照らさない。闇が深くて届かないのね。
昔家だった二階建ての一軒家なら届くのかな。
どう思う?
主人公のメイン目標が定まりましたね。




