君に会いに行こう。
これから主人公のSAN値も削っていきますよ。
白いワンピースの裾をさばきながら神社へと歩いていく。ただ歩いているわけではなくて、空間を折りたたんでいるから倍以上の速度が出る。
山にいる無職いうところの縮地法ってやつよ。これを使えば図書館までも20分で歩けるわけね。ま、20分って無意識になんとなく使ってた時だから意識してやればもっと縮むと思うけど。
この縮地法、私は重力と平行に、地球上なら上下方向に行うのが得意なの。坂道のほうが早いわけよ。ひゃっふー。
全身を液状にすればあの長いエレベーターも使わなくていいわけ。服や荷物も液状化できるみたいだし、さらに縮地法を使えば一瞬だわ。
ということで、また私以外のすべての時間を消し飛ばすわよ。
夜のジオフロントは当たり前だけど光が一筋もない。灰色くんが眠そうに鼻を鳴らしながら駆け寄ってきてくれたのがうれしかったわね。あーもふもふ。本当、お前暑くないの。
「灰色、神殿ってどのあたり?」
あっちです。オッケーよ。また縮地しますか。ホップステップアジャンタ石窟と。道中はただ動物が寝まくってるだけだからなんでもないわよ。
起きてきたのは灰色だけだったわ。夜行性の動物も強制的に昼行性になっているのかしらね?
だとしたらあの子は何なのかしら。今にして思うと灰色が奥さんの配下から私の配下に変わっていただけなのだけど、知らなかったからなんとなく不気味だったわ。
世の中の怖いものの五割くらいは知らないから怖いのよ。それを取り除いてまだ怖いものは命にかかわるものだけになるでしょうね。あまりロマンがあるとは言えない未来像だわ。
神殿は前に来た時とどこも変わらなかった。
時々気になるけどこの神殿って誰が掃除してるのかしら?今でも勝手にゴミをどっかに吸い込んで消化する機能がついているとしか思えないのよね。何だかんだ言って最奥部に何があるのか私も知らないし。
ああ、最奥部ね。おじいちゃんがいたのが最奥だと思っていたのだけど、実はもう一つ奥に部屋があるのよ。おじいちゃんに絶対入るな扉も開けるなって厳しく言われてるから開けたことはないけどね。
何なのかしらね、あの部屋。ちょっと中身が気になるわ。今度こっそり入ってみようかしら。やだ、また叱られちゃうわね。
閑話休題。
とにかく私は13段の階段を降りて、そこに芋虫を発見した。赤い部屋だったわ。壁も、テーブルも、椅子も、ソファも。
その中心に私の膝くらいの高さに斜めになって浮いている。もちろんおじいちゃんなんだけど、なんというのかしら、ひどく損なわれていて、蜘蛛の巣に絡めとられて蠢いている芋虫にしか見えなかったわ。
まず手足がない――それは聞いていた通りだから驚かなかったけれど、驚かないにしても思った以上にひどかった。
肩口からすっぱり、股からすっぱり四肢がないものだと思ったらちょっとそこから突き出ているのね。芋虫のイボ足みたいに。それが一つ一つ、無意識か意識してかわからないけど動いている。
夢の中で見るより年を取っていて、20代後半から30代に見えたわ。これが人間ならぶくぶく太るところだけど、ソレは偉丈夫からそのまま手足を切り落としたような格好だった。
腹が裂けていて、触手が床についているけれど、こっちは動かない。
鼻を削いでそのまま顎まで皮膚と肉を引きはがしたような顔。歯が何本か象牙のような形になって飛び出している。そこから上は比較的まともだったけど……。
眉毛は立派だし両目は開いていたけれど焦点が合っていないの。黒目1白目1。目元だけ、夢の世界で見るより人間に近いのはおかしかったわ。




