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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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中、または虎より猛し

 その頃正妻は。

 あなたが悪いんだ。私というものがありながら、あんな小娘に年甲斐もなく入れ込んで。あんな幼い子に下着など買い与えて、一体何をしようというの?

 あの子をダミーの依代にしたのは私とはいえ、ここまで夫が異常とは思わなかった。かわいそうな子。ダミーの依代だけならまだよかったのに、邪神に見初められてしまうなんて。

 昨夜は夢の中で連れ歩かれて、何をされたのかしら。さぞかし怖かったでしょうね。あそこは卑しいものが多い。どんな目で見られていたか想像に難くないわ。

 せめて、人じゃない部分を封じてあげましょうね。封印さえ解けなければ多分、普通の女子高生に戻れるはずだから。

 天井から吊り下がる夫には手足がない。せめて人の姿に固定してあげたかったのだけど、外からじゃうまくいかないものね。あちこちおかしなことになっていて、まるで現代アート。失敗だけど、これはこれで美しいからよしとしましょう。

 見開かれた真っ黒な両目は曇っていて、知性などどこにも見えない。久々に若い子と遊べて楽しかった?話しかけても返事はない。

 当たり前ね。耳は聞こえないし、声帯も潰してあるんだから。危なくないように、人間を滅ぼさないように。

 楽しかったでしょう。依代の足でぐりぐりと下腹部を踏みつける。私の本体は何十年動かしてないかしら。正直いらないのよね、外にも出られないし。

 絶えずよだれを垂れ流す半開きの口がわずかに反応した。濁りきった両の眼からやにを溶かし込んだ涙がこぼれ出す。後で拭いてあげるから辛抱なさい。今はそれよりこっちよ。

 楽しかったのよね。だから、こうなってるんでしょう。全く節操のない……欲求不満?なら私が相手してあげるじゃない。そっと足を離す。

 私じゃなきゃ、愛想なんかとっくの昔に尽かせてるとこよ。感謝しなさい。すがりなさい。祈りなさい。崇めなさい。あなたの神は私。そうでしょう?

 しばらくドリームランドへも依代へも逃がさないわよ?逃げられないで、ここでじっと罰を受けなさい。何もない、という罰をずっと受けなさい。

 でもずっとだとさすがに壊れちゃうか。ただでさえ危ないもんね。じゃ、封じてからもうすぐ二百万年経つのだし、当面は二百日目標で。あ、駄目か。十月には島根に行ってもらわなきゃだから。

 ふふ……今度は完全に心を折れるかしら?ずっとこんな風にしているのもさすがに罪悪感よ。だって夫なのだし、いい加減私に服従してくれればいいのに、どうしてこうも頑固なの。諦めなさいよ。

 ああ、わかったわかった。あの子ね?あの子が助けに来てくれるかもしれないなんてくだらないことを考えてるのね。ありえないに決まってるじゃない。

 人間が私たちの、それも一番弱い存在にすら太刀打ちできたことがあったかしら?手も足も出ずにゴミくずみたいに死ぬだけよ。あなたには手も足もないけどね。わかってるくせに。

 いいえ、逆に朗報かもしれないわね。わかっていても、もう可能性はそれしか残っていないのね?頼るしかないのね。ということは、その希望を絶った今、あなたは私の前にひざを折るしかないのよね?

 どうせまた、思考を放棄して結論に辿り着かないようにしているんでしょう。わかりきったことから目をそらしているんでしょう?でもここって本当に何にもないから考えでもしないとやってられないでしょ。

 今度はいつまでもつのかしら。壊れた時のあなたは本当に綺麗なのよ。すぐに直っちゃうみたいだけど。

 さっさと絶望しちゃいなさい。簡単じゃない。何に手間取っているの?

 最初から、私にはあなたしかいなくて、あなたにも私しかいないでしょう?他の選択肢はないの。でもそれでいいの。

 ずっとそうだったじゃない。これからもそうあればそれでいいじゃない。何が不満なの?封じてるとはいえちゃんとお世話はしてあげてるじゃない。

 故郷であなたの妻になったとき。この星に来たとき。幸せだったわ。それも二度も。幸せすぎて怖いくらい。ええ、怖かったの。

 だから、せっかく手に入れた幸せが逃げないように捕まえることにした。手足を落として、耳も鼻も利かないようにして、声を奪ってしまえば、もう逃げないでしょう。

 依代なんて思いついたときはどうしようかと思ったけど、何もあれを使ったって封印されてるあなたにはこの地域から外を見ることなんてできないわけだし問題ない。外を見るだけ見たって何にもならないんだから。

 ああ、幸せ。幸せよ。ずっとこの幸せが続くことだけを願っているわ、あなた。ずっとこのままここにいたいくらいよ。

 でも、この依代の家に戻らなくちゃ。夏祭りの日とはいえ、もうすぐ門限だわ。不審な行動をさせれば、過敏になっているあなたのアンテナにすぐ捕まってしまう。脱出の契機になってしまうわ。

 さようなら、また来るからね。

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