ゆめの中へ
やっと書けました。ここまで長かった……一人称視点は情報をフル公開できないからストレスですな。
私はてくてくとあてもなく歩き始めた。
少し状況を整理しておくべきね。夢の中にしては感覚がリアルすぎる。なんでも思い通りになるわけじゃないから明晰夢とも言い難いし、となればどこか別の場所と考えるのが常道でしょうね。確かに寝たはずだけど、そっちはあとで考えればいいわ。
何よりここには、似た状況で、前にも来たことがある。違うのは寝具と寝た場所くらいかしらね。だとしたら前の時に得た情報が使えるわ。歩くことにより発生する振動が脳を心地よく刺激して、頭が回る。
前の時出会ったあのぐちゃっとしたものはここを何と言っていたっけ?
幻と紙一重の場所ですが、まぎれもない現実ですよ。そう言っていたはずだ。ならこの現実感にも説明がつく。ほかに連想ゲームみたいにいくつか記憶を引っ張り出す。
八月には地獄の蓋が開く。夢と現の狭間が薄くなる。地球本来の神々は旧支配者が一か所に集めて保護している。
何だかコズミックホラーの小説みたいなのよね。作家の脳に何らかの電波が届いているとしか思えない。
――もし、小説に書かれてあることが、全部とは言わない。半分くらい事実だったとしたら?
私は思わず足を止めた。考え事のせいではない。地面に割れ目があってそこから進めなくなったのでもない。このくらいの距離で疲れるわけでもない。
ただ、見たのだ。
「まさか……いえ」
距離がありすぎて、人工衛星並みになった視力をもってしても遠く、はかなく霞む尖塔の群れ。その辺りで飛び回る黒い大きな鳥のようなもの。
活字の間には、よく見た風景。
「ここは、間違いなくドリームランドだわ……」
その瞬間目が覚めて、鳴り響く目覚まし時計を止めて、私は再び目を閉じた。ドリームランドからおじいちゃんに接触できるかもしれない。もう一度目を開けると、あの白い場所――ドリームランドだ。
ある程度、恣意的に行き来ができるみたいね。コツがわかったからか、服装と姿は例の現実に近いものとなっている。あー、でもここも一応現実なのね。覚醒世界に近いもの、でどうよ?
触手は問題なく動く。行動にも特に制限はないし、音の壁は余裕で超える。覚醒世界に近いも何も、全く同じだわ。世界旅行し放題だって?まさかあ。パスポート持ってないから不正入国者になっちゃうわよう。
さて、ここからどういう風に移動したものかしら?歩けばって、さっき音の壁を超えたでしょう?それでまったく最初の位置から移動している感じがないの。お城も近づきも遠ざかりもしない。
何か別の方法で移動したほうがよさそうね。
とりあえず私個人としてはおじいちゃんの近くに出ればバンバンジー、いや万々歳なのだけど、居場所がいまいちわからない。おじいちゃんとも実質初対面になるし……どうしたものか。
とりあえず、知っている場所に飛びたいわね。たとえば……私の家とか。そういえばここは私の家じゃないもんね。一度帰ろう。じっと念じたら、霧の向こうにぽつんと家が現れた。一歩近づいて、止まる。
違う、これは私の家じゃなくてお父さんとお母さんの家だ。私の家はこれじゃない。私が住んでいるのは山の上の安普請の長屋だろう。近くにトンネルがあって、壁が薄くて、裏手にドクダミが生えている。
ここまで詳細にイメージすると、ごうごうと腹の底に響くような音がして、風景ごとがらりと変わった。
ただ白かっただけの空は夕暮れのような夜空のような不思議なグラデーションになっている。星はないが、そんなに暗くは感じない。建物や地面の色が昼間と同じだからだ。
道はアスファルトで、目の前に長屋がある。視線をずらせばでかい家。犬はどこにいるのかな。
自分の家の扉に手をかけてみた。鍵がかかっていたようだが、問題なく開く。音もなく開いたのが不気味といえば不気味だ。自分の家なんだからお邪魔しますも何も言うことはない。
内部には特に変わったところはない。いつもの部屋のにおいとは違うような気がしないでもないけどそのくらいね。慣れ親しんだ覚醒世界とは似て非なる場所なのだし、想定内だわ。
土間で靴を脱ぎ、私はキッチンに入った。武器になりそうなものを探しておくためだ。容赦なくくすぐられて深淵に引きずり込まれるのはごめんだわ。えーと包丁包丁。なぜ包丁を刺している箱に定規が刺さっているのかしら……。
何が出てくるかわからないから、万能包丁を手に取った。奥の寝室には何もないと思うが、キッチンが包丁の代わりに定規が刺さっていたりコンロの代わりに人の顔が浮かび上がっていたりの状態だったので、念のため確認しに行く。
リビングはいつも通りだ。違うのはテレビに大音量で砂嵐が流れ続けているくらいか。画面に触れたら別の世界に連れていかれそうだ。なんか、昔そんな漫画があったわよね。よーし触らない方向で。




