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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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天上の果実

 主人公の待遇が良すぎる気がしてきた依代です。少女漫画風というか、あのふわふわきらきらした感じを出したいだけなのに、うーん。

 果肉はあまり繊維を感じなかった。甘く味付けした寒天の塊みたいな感じだ。もきゅもきゅと噛むたび、口の中に独特の味と汁気が広がる。

 あの食感はナタデココにも似てたわね……あら?ナタデココ知らないの?昔流行ったのよ、あれ。最近の子は知らないのね……軽くジェネレーションギャップだわ。

 一口目を飲み込んで、私ははっと空腹に気付いた。それ自体は珍しいことではなかったけど、問題は空腹の程度だ。かつてないほどの、空腹。空腹なんて言葉で表したくない、あれはもはや飢餓ね。

 全部の内臓がすっからかんになったみたいだ。ガスバーナーで焙られるような喉の渇きにも気づく。でも、それ以上に、それは置いといて。それがそれで、それにしても何ておいしいの……思考が一点に収縮してそこに縛られる。

 味覚はやがて飢餓感と混ざって、全身を支配する。意地汚いと思いつつも貪っていた。ぐじゅ、ぐじゅと果実を食う音が広い部屋に響く。

 あっという間に丸い果物を食べ尽くしていた。種はなかった。ヘタの根元にある繊維質もなかった。ただ満ち足りた感覚が足のつま先から頭のてっぺんまでを支配していた。

 満腹だ、と私の中枢は告げる。だが普段の私の食事量を考えるとこんなもので足りるはずはない。そもそも、供物があったって、こんな果物食べたことも見たこともない。

 ……と、今にしてみれば思うんだけどその時の私は何も思わなかった。恍惚とでも言うのか、何だか幸せな気分で、ぼうっと座っていた。

「おいしかったろう……ふふ、顎に垂れておるぞ」

 顎に垂れていた果汁を親指で拭い、壮二はその指を自分の口元へ持って行った。粘り気のあるそれを、もったいないとでも言うようにぺろりと舐めとる。滅多にない甘いものってことなんだろうか。

 どうして、果物は青かったのに、汁は真っ赤なのかしらね。

「気分はどうじゃ」

「んー……何だか眠いわ」

「人間は満腹になると、内臓に血が回って脳への血流が減少するそうじゃ。無理せずお休み」

 へえ。何で知ってるのよ……確かここまでは口に出したのだけど、それより先に眠気がラッシュを叩き込んできたもので、返答は聞けなかった。

 完全にノックアウトよ。私はヒョウの毛皮にぐったり頭を落として眠りこけた。 誰かの手が肩を撫でた気がしたけど、実際のところはわからないままだ。

 今も。


「……はへ?」

 目が醒めたら、自分の家のベッドに仰向けに横になっていた。ちょっと変な声が出たけれど、もちろん知ってる天井。安普請の長屋の事故物件なマイルーム。

 どうでもいいけど仰向けに横になるってちょっとおかしいわね。横になる、が寝るってことで、仰向けが寝るときの姿勢のことだから、別におかしなところはないのだけど……あの姿勢を横になると言うのは少し引っかかる。

 うまく言えないけどさ、横になるって言ったら、こう、肘枕でもしてどっちか片方の体側を下に向けて寝転がるような風に取らないかしら。そうじゃなくても横を向いて寝転がっていそう。

 うだうだどうでもいいことを考えながら身を起こす。いつも通りだ。面倒くさい女ここに極まれりって?いい度胸だわ。嫌いじゃないわよ、その感じ。

 目覚まし時計は午後3時を指していた。針がないから正しくは指してなんかいなくて、大きな文字で15時がはっきり表示されている。見やすい。デジタル仕様ってこれだからやめられないんだ。

 ぱきぽきと骨を鳴らしながら伸びをしたら我が家のシャーベットカラーなカーペットが目に入った。つい笑みがこぼれる。パッと見はどこにでもある毛足の短い絨毯だけど、黒く浮かび上がる人型の模様が斬新で好き。

 笑みの後を三歩開けて、欠伸がついてきた。

「うふぁ……」

 やっぱり眠いから布団に戻った。首元まで埋もれる。もふもふ。やっぱり布団はこうでなくっちゃ。人は寒さに追い立てられてじゃない、感触を楽しみたいから布団に入るんだ。と、ここで新たな違和感に気付いた。布団のことだ。

 臭いとか重いとかじゃない。さっき目覚めたとき、このふんわり感はなかった。

 どうして?今被ってみた時、すぐにふんわり感を味わえたのに?寝乱れた?私はそんなに寝相悪くない。だって毎朝、寝るときと同じふんわり感を覚えている。

 いや、自分で被ったからこそ、あのフワフワの感触があったのか?だとすれば他の誰かが私をここまで運んで寝かせて布団をかけた?

 ついで夢のように所々がぼやける赤いジオフロントを思い起こす。眠ってしまって、記憶が途絶えて、今ここにいる。服装も変わっている。パジャマである。ただ服が変わっているだけ?それって一大事でしょ。

 だって服を着せるには一旦、服を脱がせなきゃいけないじゃない。あと服を変えさせる理由もあるはずね。何かが付いていたとか、何とか、そのままだと都合が悪い何かがあったと考えるべきだろう。

 そのままだと都合が悪い何かって何か?わかるでしょう。わざわざ言わせないでちょうだい。清く正しい年齢無制限なんだから。

 でも一つ言えることは、私はその『何か』をパッと思いついた。まさか、壮二を疑いたくはないけれど……弓削の身の潔白も信じたいけれど、事実関係は明らかにしておくべきだろう。

 でもクトゥルフ神話につきものの、ドロドログチョグチョした感じも表現したいなあー。

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