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依代と神殺しの剣  作者: ありんこ
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お参り

 一応ホラーってことで売ってるけど、こんなゆるゆるでいいんでしょうか。でえと回になります。

 神社に向かうには、いったん心臓破りの坂を下りて、町の中心にある円錐形の山に向かう必要がある。お察しの通りこの山の上に神社があるのだ。

 山はそれほど高くないが、意外に立派な参道がついていて、お祭りのときなんかはここに屋台がいっぱい出て……そうそう、御神輿でも通ったわね。あの時はほんとに賑やかだったわ。今日は平日であることもあって大分静かなんだけど。

 でも、一部のお土産屋さんは開いているみたいね。こちらでは神社の名前を冠した饅頭が売られている。甘さ控えめのこしあんが求肥にぎっしり入った、女子には若きも老いたものも好むスイーツだ。もちもちの食感が人気だとか。

 甘い香りが私の鼻先まで漂ってきたが、顔をしかめて通り過ぎる。好きではない。好きなのは、火葬場の臭いや、腐った卵の臭い。フナムシが群れる漁船なんかも。あれらはたまらないくらい私の食欲を刺激する。

 それにしても饅頭多いな。公式アイテムだからか。

「ある意味非公式なのじゃがな。儂は許可を出しておらん」

「そうなの?」

「あまり旨そうに見えぬじゃろ?」

「……確かに」

 頑張って売ってるおじさんおばさんには悪いけど、ひとには好みがあるからね。仕方ないよね。

「むーん、平日って実感すると雀の涙ほどの罪悪感が沸いてきたりもするわねえ」

「なぜ?」

「だって今、この瞬間も皆は学校や会社に通ってストレスを浴び続けているのよね」

 隣を歩いているのは弓削じゃなくて壮二の方だ。弓削なら朝から乗っ取られている。乗っ取る時間の調整は壮二側でできるのかもしれない。

 ……私としてもその方が、いちいち疲れただの脚が痛いだの、文句を垂れられなくて済むからいいのだけど。

 あれ?だとしたら、弓削の存在ばれてない?べつにいいんだけど。どうせ返すらしいし。

「ぬし、どうでもよいことをいちいち気に病むのじゃのう。気にするようなことでもないではないか、さようなことは」

「そうだけど……うん、そうね」

 でも女性の悩みを「大したことじゃない」でぶった切る男性ってどうなんだろう。確かに大したことでもないけどさあ。雀の涙以上の罪悪感なんか覚えないしさあ。

 だがこれで私がもうちょっと面倒くさい性格してたら面倒くさかったと思うぞ。何がどう面倒くさかったかは知らんけど。

 ぼちぼち歩くと鳥居が見えて来た。大きな、灰色の石造りの鳥居だ。赤くないし金色の飾りもなければ屋根もない。花崗岩なのだろうか、表面がでこぼこに荒らされている。艶消し仕様かな?

 石と石の継ぎ目からは、赤く黒く線状に、溶けだしたのだろう金属か何かの色が染みついている。

 上の方に額が掛けられているが劣化が激しい、人の目ではどんな漢字が記されているのかも読み取れないだろう。私には見えるけど……この並びでなんて読むのかしらね?

 館羽篤……うう、暴走族に見えて来たのん。画数多すぎない?

「たてはたけうま。篤ではない、竹と馬じゃ」

「なにそれ、あなたの名前なの?」

「もちろん違うが……なぜそうなるのじゃ?」

 何でって、表札みたいなもんじゃないの、あれ。だってトリイって鳥型ロボットのことじゃなければヘブライ語で門ってことでしょ?表札だと思うんだけど。

「ヘブライ語……そうなのか……もしや離散したユダヤ人の一部が日本に?いや、そんな与太話は良いのだ。儂の名など人間には発音できぬよ。呼ばれることも読まれることもない、そんなところに書いてもどうにもならん。書かせるはずがあるまい。それは」

 むに、と壮二の指が私の頬に軽く刺さった。そのままむにむにと指が動く。頬の肉をはさんで歯と歯茎に指先を感じる。

 彼はどうやら指で押すと凹む私の顔を見て楽しんでいるらしかった。何が楽しいのかは知らない。壮二に触覚はないのだっけ。ちょっと乾燥気味のはずだけど、気にした様子がない。

 ていうか、日本にユダヤ人の一部が来ていたという説と、人間に発音できない名前を持つ神様と、どっちが与太話かしらね。一応ユダヤの方は鳥居とか、符号があったはずだ。

「それは、儂の姿を断片的に見た人間が、似ているものを片っ端から並べて書いたもの……を、さらに略したものじゃ。儂は世にあるすべてのものと似ていて、どれとも違う。下手に見ると狂気に陥る。混乱した結果じゃろうな。あ、もちろん本体じゃぞ」

「へえ……」

 本体の話だってことくらいすぐわかったけど何も言わない。おじいちゃんの話の腰を折っちゃダメだ。これ真理。テストに出ます。あれ、テストを受けることってこれからあったっけ?ないわね。じゃあいいか。何だって。

 壮二はずんずんと鳥居のど真ん中を通ってゆく。そこは神様の通り道だから通っちゃダメなんじゃないの、と呼びかけるが止まらない。何てやつだ。神を忘れた不信神者どもに鉄槌を。

 あ、そうか。あなた神様でしたね。そうですよね。でもちゃんと手は洗うんだ。両手と口を漱いで、ひしゃくの柄を次の人のために流す。おお、手慣れていらっしゃる。うがい手洗いにんにく卵黄みたいな感覚なのかしら。

 私は右端を歩いているけれど、何か?

 デートのシチュエーション、まさかの自宅……!

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