二十面相には桁が足りない
そのあと色々と話を聞いて、少なくとも相手が予想通りここにある神社の神らしいことはわかった。予想通りなんて言っても、読んでいた小説から連想しただけだが、予想したのはしたんだからそれでいいだろう。
首に埋め込まれたのは神社にある本体の一部だそうだ。
あら、それだと私に死亡フラグ!
「いや、それはない。もともと依代システムはヒトに宿って社会にまぎれるためのものだ、寿命分は何の問題もなく生きられる」
冷蔵庫の保冷剤を額に当てながら壮二は語った。シンクロ率が低いと痛覚や触覚がないらしいが、腫れると面倒くさいそうだ。12パーセントって低いのね。
「あらそう……ここまでの話を整理すると、私に奥さんの方が入る予定だったわけ?」
なお、場所は私の家に移している。自分の部屋に男の子を招き入れるのは初めてだが、これは男の子でいいのか?
「そ、じゃな」壮二神は虚ろな目で頷いた。
「何……気にするな、前にもあったのじゃ。ぬしに入ると見せかけて、別な娘を依代にしたのじゃろう。前にもあったことじゃ……前にもあったんじゃ……」
大丈夫?そっと震えている背中をさする。尻に敷かれていたのか。家出も繰り返されていたらしいな。恐妻家って神にもあるのか。
「いっそ別れちゃえばいいのに」
「……ぬし、もしも人類が今滅びて、女一人、他に多少性格悪いが良い男が一人生き残っておったら他に選ぶか?」
「選ばないわね。恋愛感情がなくとも、少なくとも一緒に生活するわね」
「そして愛着が湧く……それも異国となれば尚更じゃ。理解しておるよ、己がどういう状態なのかは。だがもうあれを一人置き去ることもできぬ」
異国。聞く限り爺臭いが流暢な日本語をしゃべっているようだが、本当はどこの出身なんだろう。中国とか?とりあえずおフランスとかそういう感じじゃないよね。
「いや、外宇宙じゃ。地球ができる少し前ばかりに、消えてしもうた。ゆえに、似た環境であったここへ住み着いたのだが……まあ少々思ったのと違ったな。あまりに生き物が脆すぎて地中に潜ったはいいが、出て来ようものならこの辺一帯砂漠になるから出ることもできなくなった」
斜め上か。へえ、だが何て名状しがたきものどもを信仰してるんだこの街。お出ましになったらおしまいだ。今、一気にSAN値がピンチになったぞ。
「えーじゃあ、土地神、みたいな?」
「少し違うな。それは地球本来の神じゃ。儂は外から来ておる……まあ、居直り強盗だのう。土地を奪いそのまま居座ることまもなく200万年じゃ」
「200万年前って人類居るの?」
「おらんかったから、人類が来るまで不便はあったが草木に宿っていた。人が来てからはほっといたら勝手に信仰されるようになったから便利に使っておるよ」
さっきから衝撃的なことを聞かされているようだが、脳だけが別の場所に置き去られたようで響いてこない。感情がわかない。不思議に冷静だ。冷徹ですらあるかもしれない。
壮二の方には弓削のことは何も言わない方がいいだろう。彼がまだいるにしても、いないにしても。だってまだいるって言ったって、それで壮二が出ていくわけはないだろう。
「元の土地神さんはどこに行ったの?」
「さあ、な。一応旧支配者とか名乗るやつらが一か所に集めて保護しているそうだが、ここを治めていたものはそれを拒否して逃げたという」
「保護?何で?」
「知るか。あんな奴ら何考えてるかわからん。ただ地球の神々を保護しなければという使命感に燃えているがなぜかは知らん……後任に儂のような居直り強盗をつけたいらしく、あれこれちょっかいを出してくる。儂は妻とここで暮らせればそれでよいのに」
勝手なことばっかり言いやがって、ぶーぶーと愚痴を垂れてくる。お疲れ様ですとしか言いようがない。
それにしてもさっきから外宇宙から飛来しただの旧支配者だの、アメリカはプロヴァンス州発信の新感覚ホラー小説か何かか?
にわかには信じがたいとはよく言うが、信じるしかない証拠がここまでそろっていても信じられないものなんだな。
いや、逆に考えるんだ。元からわけのわからないものたちがいて、そいつらの出す電波のようなものを受け取ってしまった人がいたんだと考えてみよう。うんうんこれならわかる。
「さて……儂は家に戻るが、妻の方から何か言ってきおったら頼むぞ」
「あー、はい。りょうかいであります」
引き受けはしたが、はて、旧支配者をあんな奴ら呼ばわりしちゃうひとの同属で妻は人間を仲介に使うのだろうか?ラブクラフト翁によれば旧支配者はおろかその眷属にも人間は歯が立たなかったと思うぞ?
でもって神々の方でも人間なんか鉛筆の先っぽについた消しゴムのカスくらいにしか思ってなかったと思うのだが、翻って私は?鉛筆の先っぽについた消しゴムのカスに伝言なんか頼むか?
頼まないよな?それどころか考えもしないよなそんなこと。
つまりだ。壮二には悪いが彼の嫁さんは私に接触することもないだろうということだ。
「……あ」
カーペット、こんな模様だったかしら?何だか人のようにも見えるなあ。気にしないほうがいいだろうな。さて、リアル闇の住人に触れたところで屍食教典儀を読み直してみよう!何かわかるかも!
――わからん!




