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ブレイン・フィールド  作者: 小鳥遊彰吾
エピソード3
12/20

エピソード3-4

「ねぇ、聞いてもいい?」

「何をだ?」


 先の見えない追跡で沈黙はきつかったのか、はたまた聞きたい話題もあったせいかイリナは話かける。


「サン・オブ・バトルマスターが行方不明って噂だけど……、やっぱり本当なの?」

「ああ、じゃないと俺や他の四天王がバラバラで行動していることに説明つかないだろ?」


 隠すことなくあっけらかんと応える。イリナはクロードの後ろを歩いているので表情まではわからないが困っている様子ではない。


「じゃぁ、やっぱり」

「俺もよく知らねぇんだけど、『天空の回廊』ってのがこの世界にはあって、そこは選ばれた者しか入れないらしい」

「何それ?」


 聞いたことのない単語に疑問を持つ。だが応えようのないクロードはただ肩をすくめるだけだった。


「いったろ、よく知らないって。……でな、いくつかあるらしい入り口を見つけテストを受けたんだけど……突破できたのは1人だけ。いうまでもなく旦那だな。そのまま『天空の回廊』にいったんだけどそのまま帰ってこれないらしい」

「それで手分けして探してる? 入り口を」


 少し考え、ユックリ応える。


「……ランディとモエは多分今も探してるんじゃないかな?」

「…………」

「ニーナはどうかな? 別れた時より強くなって帰ったら悔しいから特訓をするようなことをいってたけど」


 さほど感心が無いような物言いに訝しがる。


「……あなたは?」

「俺かぁ? ……俺はニーナみたいに旦那に勝とうとか、ランディみたいに認められたいとか、モエみたいに好きだからいるってわけじゃないんだ。ただ、なんていうか……」


 振り向きイリナに微笑む。


「……?」


 わかりやすい人物だと見定めていたのだがこの表情の意味はわからない。


「ただな、アイツといればおもしろい戦闘には不自由しないからな」


 そのわりには不満というべき悲哀というべきかそんな表情を浮かべている。


「……積極的に探してないけど、彼が復帰したら元の鞘に戻る?」

「……多分、な」


 不意に気がつく。クロードはもしかして悟ってしまったのではないかと。


「サン・オブ・バトルマスターと戦って最強の座を奪おうという気はないの?」


 イリナの言葉に肩を振るわす。曇った表情を隠すように前を向き歩き始める。


「今のところな」


 現在の時点での実力差を考えると勝つことは不可能。レベルという概念がなく、基礎の身体能力が上がらないこのゲームでは強くなるには武器や防具を代えるか、使える特殊技能を手に入れるか、テクニックを磨くという3種類しかない。最強クラスの武器を持っている以上クロードにできることは2種類。


(自信が……ないの?)


 イリナは驚愕する。今まで見た中で誰よりも強いプレイヤーの心が完全に折れていることに。イリナは少し躊躇逡巡。


「――――」


 決心が付いたのか小走りにクロードを追い越す。キュッと立ち止まり振り返る、大きく手を広げ極力笑顔で。


「肉体には限界はあるけど精神には限界がない、ってこの世界にピッタリだと思わない?」

「……はぁ?」


 イリナの行動と話題転換についていけないクロードは間の抜けた声を出す。


「今はまだ性能のいい身体を100%使い切れてないだけ。常識にとらわれず柔軟な思考を常にしていけば今よりモット、……うんモット強くなる。そう思いこみましょう」


 でもしない力コブをつくるポーズをしてみせる。明るさを失わないように。まったく理解できないクロードは首を傾げる。


「……思いこむ? 何でまた?」

「勝負は最後の最後まであきらめなかった方が、勝つことに貪欲に執念持っていた方が最終的に勝つ」

「まぁ正論の精神論だな」

「でも、今のあなたは他のプレイヤーには負けないけれどもサン・オブ・バトルマスターにだけは勝てないって思ってるでしょう?」

「そんなことは! ……」


 声を荒げたが的はずれではなかったのだろう。むしろ自分が心の内に閉じこめていた弱気を白日の下にさらされた、そんな感じだ。イリナから顔を背け黙り込む。


「ま、私がとやかくいうことじゃないんだけどね。……鋼のように硬い意志が必要なのよ、目的達成にはね。わたしはそう思ってるの」


 クルッと反転し跳ねるように進む。自分の信念だがあながち間違いではないと信じている。後ろ向きで得られるものなど何もないと。

 凛として佇むその背中にクロードは目を奪われる。


「……イリナ、お前って」


 初めて名前で呼ばれた、そう思った瞬間すでに見えかけていた山頂が音とともにまばゆい光が発生した。

 二人は顔を見合わせ、一つ頷いた後駆け出した。

 頂は整地されたかのように開けていた。四方には水晶の埋め込まれた石柱が立てられたいる。地面には血のように赤い魔法陣。その中心には異形と人影が1つづつ。赤こけた石でできた四メートルほどのゴーレムと赤い軍服を着た中肉中背だがガッチリとした肉付きの黒髪の男がいた。背には両手でないと扱えない大剣を背負っている。1人と1体は向き合っているもののゴーレムはピクリとも動かない。


「――――?」

「やっぱり普通のゴーレムじゃねぇか」


 気になる点・不審な点がありどう判断すべきが思い悩ませていりイリナにクロードは気楽にいう。確かに額や胸に見たことのない文様がある以外は一般的なゴーレムに見える。報告にあったとおり胸に傷があることから例のゴーレムであることは間違いがない。


「でもあいつは先客か?」


 共和国が今現在ゴーレム退治を依頼しているのはクロードだけ。もっとも他のノンプレイヤーから依頼されて追っているプレイヤーがいないとも言えない。管轄――この場合は国――が違えば同じような依頼が出されるケースは稀ではない。また依頼されていなくとも噂を聞いて戦いにきたプレイヤーがいても不思議ではない。


「どう……かな?」


 イリナは口に手をやり考える。腑に落ちないことが多数ある。判断に苦しむ。


「なら、聞いてみればどうだ?」


 クロードの提案にそれもそうかと頷く。仮に最悪の結果でもクロードがいる以上何とかなる。


「ねぇそこのあなた。何してるの?」


 もしも戦闘中であるのなら場違いな質問だがそれはないだろう。動かない戦闘があるはずがない。


「――――!」


 イリナの声に気がついて男は振り返る。一瞬、彼の形相が変わったことをイリナは見逃さなかった。それは自分を見てではなくクロードを見た時に起こったので彼との知り合いかとも思ったがクロードは眉一つ動かさない。クロードは有名人だから相手が一方的に知っているだけだろうとも考えられる。


「……見ての通りこれは俺の獲物だ。邪魔するな、とっとと失せろ!」


 ゴーレムに背を向けぶっきらぼうに言う。


(マジ?)


 イリナはもしやと思っていた彼の服装にも驚くがそれ以上に彼の行動の異常さに驚く。


「私はジャックリーン共和国大佐、対妖魔殲滅部隊司令官イリナ。そのゴーレムは共和国でずいぶん暴れたモンスターです。我が国で始末する義務があります」


 とまじめな口調で言い、クスッと笑う。


「とでも言わなきゃならないかなぁ? 帝国の将軍には」

「……ああ、言われてみれば帝国の軍服か」


 イリナの言葉にクロードは思いだし呟く。帝国の魔法兵団や機械兵団は赤い軍服を着ている。イリナは胸にある階級章から彼が将軍の地位であることを見抜く。

 眼前の男は顔色一つ変えない。


「あなたも知ってると思うけどこちらは『剣王』。共和国がそのゴーレムを退治するために依頼した。……まぁ私としてはどっちでもいいのよ。あなたが倒してくれてもね」

「お、おい、ちょい待て! 俺ここまできて出番なしかよ」


 文句をいうクロードを片手を上げ制する。


「クロードは黙ってて。……こちらちしては誰が倒そうと構わない。ただ私の目の前で倒してくれるならね」

「………………」


 男は答えない。腕を組み、値踏みするようにイリナを見る。


「倒せるというなら私たちは手を出さない。……でも倒せない、いえ倒すわけにはいかないと言うなら話は別。そのゴーレムを引き渡してもらう。たとえあなたと戦闘してでも」


 その言葉に男の鋭い眼光がいっそう怖くなる。

 組んだ手の指を何度も動かしようやく口を開く。


「……どうして、気づいた?」

 

 まだ値踏みが続いている、イリナはそう直感した。


「……あいつ何いってんだ?」


 囁くように聞いてくるクロードはとりあえず無視することに決めた。確実にいま自分は彼と戦っている、それもひどく高度な頭脳戦だ。


「そうねぇ。いろいろあるんだけど……。第一にその軍服に似合わない剣を持ってることはまぁいいんだけど……」


 人差し指で自分の頬を軽く叩く。


「獲物って言うわりに剣を抜いてない人の言うことはちょっと信じれないかなぁ? 第二にモンスター相手に無防備に背中見せてるのもいかがなものかと。第三に……」


 指の動きを止めニッと笑う。


「帝国の『放浪の軍師』のいうことを素直に聞くのは敵対国の軍人としては失格かと」

「『放浪の軍師』? こいつがか?」


 称号ではないもののその異色の異名はクロードも知っていたらしい。イリナはこっくりと頷き、


「そうよ。基本的に帝国軍は自国を離れる時は戦争時のみ。例外として諜報活動等に出る場合もあるけどその際は帝国の衣装を脱いで身分を隠して行動する。それがいままでの一般例。だけど最近例外が現れた。それが彼ね。理由までは知らないけど帝国の軍服を着たまま1人で堂々と行動しているって。共和国にきたってコトはまだ報告がないけど、同盟国にはよく出没しているという報告があがってる。今や帝国の要、オズという名の軍師という存在が」


 黙って聞いていたオズはコックリと頷く。


「たいしたものだ。共和国売り出し中の参謀っていう噂もあながち誇張でもないな。状況分析能力はずば抜けてる。正直驚いたよ」


 先ほどの強面はイリナを騙す演技だったのだろう。その必要がないと判断すると気さくに語り出す。イリナはやや感慨深げに呟く。


「それはどうも。私も帝国に知られるくらいの知名度になったのか」

「中の上いや中の中ってとこかな。それでも変わり種だから記憶していた。……似たような立場なんだ、わかるだろう?」


 思い当たるフシはある。戦えない以上使うのは頭。情報は武器。


「まぁその辺のことはおいときましょう。では本題。一体あなたは何をしているの?」


 しばしの黙考。クロードをチラッと見て眉をひそめるが決断せざるを得ない。


「まぁいいか、教えてやるよ。以前他の場所でこいつに襲われた。倒してもよかったんだが手持ちに敵を意のままに操るアイテムがあってな、……せっかくだから使ってみた。成功率が低いんだがうまくいっていまやコイツは俺のしもべみたいなもんだ」


 額と胸の文様がそのアイテムだろうかとイリナは分析する。


「っでお前たちは知らないだろうが、ここは特殊な魔法陣なんだ。ある条件を満たすことで中心においたアイテムを強化できるって代物だ。今このゴーレムは俺のアイテムとして登録されているんでな、強くしてやろうと」


 『ある条件』が非常に気になった。ここは共和国の管轄で使用方法不明の魔法陣があることは知っていた。オズのいうとおりの場所なら非常に有効につかえる。何とか聞き出す方法がないかと考えをめぐらせている時にふと大事なことを思い出す。


「……! じゃぁさっきの光は!」

「ご名答。もう終わった。パワー、スピード、強度、どれをとっても並じゃない。……それこそ剣王も戦ったという古代巨人兵器にも匹敵するだろうよ」

「なるほど、だいたい話はわかった」


 クロードが一歩前に出て胸を張る。もっと早くわかってくれとつっこみを入れたかったがとりあえず黙っておく。


「だけど匹敵ってのは言い過ぎだろう。アレの攻撃力は並じゃなかった」

「確かに攻撃力では圧倒的に劣る。でも圧倒的に勝るスピードで小回りのきく分おもしろいと思わないか? それに俺がフォローするんだ、劣らないよ。何せ強化前でも俺が操っただけでケンカ売ってきたいくつかのパーティーをアッサリと全滅させたんだから」


 愉快なのか顔に笑みがこぼれる。それは今までの戦闘を思い出してか、これからのことを想像してかはイマイチ判断がつきにくい。


「どうだっていいさ。楽しませてくれればな」


 クロードは抜刀しつつイリナに訊ねる。


「ゴーレムと……あの軍師も一緒に殺せばいいのか?」

「最終的にはね。でもちょっと時間ちょうだい」


 クロードの返事を待たずにオズに話しかける。


「……あなた目的は何? ゴーレムはただの戦闘の道具なの?」


 何の根拠もないただの直感。オズはなんとなく普通のプレイヤーと違う気がした。


「……勘がいいねぇ」


 オズは軽く拍手し始める。


「褒美に教えてあげようか。俺の野望を。ゴーレムは戦闘にも使うよ、もちろん。でもそれは手始め。最終的にこの世界に一大勢力をつくろうと思っている」

「――――!」


 目を白黒させる2人に構うことなくオズは続ける。


「それもきわめて純粋な悪の!」

「……な、なんでそんなことを?」


 何とか声を絞り出すイリナにオズはその言葉を待ってたと鼻をならす。


「視野を広くしてみろ! 例外はあるが基本的にこの世界、プレイヤーが正義の味方でそれに倒されるのが悪役がノンプレイヤー。ゲームだから仕方ないというかもしれないが、不公平だと思わないか? ノンプレイヤーというだけで虐げられるのは?」

「……だからあなたがプレイヤーを代表して悪役となる?」

「俺は平等主義者でな。俺が悪の組織を作り、勝ち続ければ自称正義の味方どもは俺を退治しようとわんさかやってくる。結果としてノンプレイヤーのやられる率が減る」

「色んなプレイヤーがいるもんだ。……何が楽しいんだか」


 半分はイリナに向けたといわんがばかりのクロードはあきれ顔だ。


「楽しいさ。正義対悪ってのが一番わかりやすい対立の構図だろ? 考えただけでもワクワクする。世界を牛耳る黒幕って存在に」


 その言葉に胡散臭そうな目でイリナを見る。


「1日に2回も似たような話を聞くとは思わなかったぞ」

「――うっ。……似てはいるけど私のほうが崇高よ!」

「興味ないものから見たら五十歩百歩」


 本心だが案外的を射ている。言葉に窮するイリナだがオズはその会話の内容に興味を示す。


「ほう。あんたも黒幕になりたいのか? ……場合によっては手を組んでやってもいいぞ」


 興味深げに見られるがイリナの答えは決まっている。


「2つの対立だと強い方が勝ってそれでおしまい。たとえ正義対悪をプレイヤー対ノンプレイヤーにしたところで一緒。アッサリとバランスが崩れると思わない? それよりは世界を3つに分けてその一つを支配し、世界を操った方が楽しいと思わない?」


 オズはアゴを触りながらイリナの言葉を吟味する。


「……三竦み、か。なるほどな」

「――おお」


 クロードはぽんと手を打つ。どうやらイリナの説明よりもオズの一言のほうがわかりやすかったらしい。イリナは少々不満だったがクロードはとりあえず無視。


「そういうこと。私の意図をアッサリ理解できたことは褒めれるけど、世界を牛耳ろうという人間が二分化で思考を止めているような人はイマイチよ、私と組むのはね」

「残念だ。交渉決裂か」


 言葉で言うが顔はまったく残念そうではない。初めから予想していたが社交辞令で言った、ただそれだけのこと。人に笑われるくらいの大きな夢を叶えようと真剣に考えている人間が会ったばかりの正体不明な人間の言葉を聞くはずがない。


「そういうこと。ハイ、クロード。お願いね」


 出番よと背中をポンと押す。今までさんざんないがしろにされてきた気がするので少々不満が残る。が、戦いを望んだのはクロード自身だ。ハァと息を吐き、


「……ったく勝手な女だ、まぁいいけどさぁ」


 ゴーレムを上から下まで眺めながら、刀身に触る。


「覚悟決めろや! 『魔力剣』」


 刀身は青白い光を帯びる。APを消費することが破壊力を増す特殊技能の発動。硬いと予想されるゴーレム対策だ。


「――せい!」


 かけ声とともに走り出す。オズは慌てることなく後ろに引きゴーレムと入れ替わり指示を出す。


「エッ?」


 甲高い金属音が辺りに響く。

 それはクロードの攻撃成功の音ではない。ゴーレムは妙に太い二の腕で剣を受け止める。太さがあるということ単純に考えて堅いということだろう。

 クロードの攻撃は傷一つ与えていない。クロードが今までの経験上「自分の攻撃力+妖刀ムラサメの攻撃力+魔力剣のボーナス」があれば通常のゴーレムなら両断できる一撃だったのだが。


「チィィ!」


 そのまま連続で攻め立てると思いきや一気に後ろに跳びのく。『ジャンプシューズ』の効果で滞空時間が長い。


「さすがは剣王。たいていのプレイヤーはムキになって攻撃を続けるのでアッサリとカウンターで始末したんだが」


 動きが鈍いと判断し手数で攻める。戦術としては間違ってはいない。だがきかない攻撃を繰り返しても生まれるのはスキだけ。今まで派遣した傭兵もそうして負けたのだろう。


「なら、『超加速!』」


 着地と同時に特殊技能発動。スピードを上げることで盾と変わらない腕を避け、比較的脆そうなところ――胸の傷――を狙おうとする。


「無駄なことを……まぁやってみな」


 オズの言葉にクロードは地を蹴り高速異動を始める。ジグザグに動いたりフェイントを入れているのでイリナにはすでに把握できていない。

 しかしオズの顔には不安の色は見えない。じっくりとクロードの残像に目をやる。


「ゴーレム! 左手を横になぎ払え!」


 オズの命令にゴーレムの目が光る。同時に命令通りに左腕を動かす。音とともに発生した風がイリナまで届き背筋が寒くなる。あの質量の威力は想像したくない。


「――? クロード?」


 高速移動時中で姿が見えないのかと思ったのだが、足音すら聞こえない。もしやと思い大声を出す。


「なんだよ」


 イリナよりさらに後方から声がする。いつの間にと振り返り、驚く。膝をついているがダメージを負った様子はない。

 だが表情は明らかにおかしい。戦うことを楽しみにしていた男の顔に浮かぶは驚愕。


「て、てめぇ、何者だ!」


 動揺を隠す余裕すらないのか興奮めいた声を出す。


「落ち着いて! いったいどうしたのよ?」


 クロードはニヤニヤとしているオズを凝視し、さらに苦々しく思い奥歯を強く噛みしめる。駆け寄ってくるイリナにどうにか言葉を紡ぐ。


「あいつ、さっきほぼ完璧なタイミングでカウンターの指示だしやがった」

「エッ?」


 それがどれほどのことか理解しがたかった。

 『超加速』がカウンターに弱いことは先の戦闘で知ったがおいそれとカウンターできるものではない。それが『超加速』の扱いになれた剣王相手だというとなおのことだ。

 戦闘に置いて同等とまで行かなくともかなりの実力がいるはずなのだが。


「あのまま剣王が攻撃してきたら一撃で勝負がついていただろうよ。このゴーレムの攻撃力にあのスピードでのカウンターなら一回死んでもお釣りがくるだろうさ。いいアイテムを持ってるとはいえさすがは四天王。噂に違わぬ判断力だ」


 オズの嘲笑がヤケにさわるが彼の自信も頷ける。並以上のゴーレムを、称号持ちクラスのプレイヤーを見切る能力がある者が操るというのならかなり厄介なコトになる。


(古代巨人型兵器にも匹敵か)


 有名な逸話を思い出す。あのときには最強のパーティー5人がかりで倒したという。いまこの場にはそのときの1人とイリナのみ。


(仕方ないか)


 イリナは大きく息を吸い、人さし指をゴーレムに向ける。


「ジオ・スパーク!」

「ま、待て!」


 本来なら呪文を詠唱しなければならない魔法。敵が事前にゴーレムであるということがわかっていたので念のためにと必殺技登録をしておいたので魔法名のみで発動する。

 イリナの指先から発生した紫色の稲妻は一条の閃光となってゴーレムに向かいほとばしる。光がゴーレムに触れると荊のように全身を縛り出す。

 イリナの持つ雷系の魔法では一番威力がある魔法。電撃のダメージと麻痺の追加効果を与えられる。必殺技登録をしている上にゴーレムの弱点は雷系の攻撃。効かないはずがない、本来なら。


「頭はキレても戦闘は素人か」


 オズは慌てた様子もなく腕組みをして2人を見る。怪訝に思うイリナにクロードは呟くように説明する。


「……ゴーレムの額にある文様はな『雷の護符』っていってな、雷の属性攻撃を遮断するレアアイテムだ」

「ウソ?」


 信じられずにゴーレムを見る。ゴーレムは顔の前で腕を十字に組み、勢いよくのばすことで身体に巻き付いた雷をはじき飛ばす。


「……そんな」

「雷が弱点ってわかってるんだ。狙われるってこともな。その対策にココにきたのさ。この魔方陣はアイテムの融合ができるのさ」


 2つのものをまじわらすことによって強化させる。オズはゴーレムと雷の護符を融合させ、属性による弱点を消滅させたのだ。


「っで、どうする? 打つ手はあるのか? ……逃げるっていうなら見逃してやってもいいぞ」


 挑発めいていう。今現在双方ともダメージはほとんど無し。けれども敵は自ら攻撃をしかけていない。こちらは攻撃を2,3度しかけてすべて防がれた。この差は大きい。


(まさかこんな展開になるとは)


 不利なのはどう考えても自分たち。どうにか対策を練ろうとするが混乱しているのは自分でもわかる。親指を噛み、痛みで頭をハッキリとさせようとするが何も浮かばない。


「ざけんな! これで終わりと思うな!」


 さっきまでとうってかわって覇気のある形相でほえるクロード。立ち上がり刀を構える。


「何か手があるの?」


 小声で訊ねる。戦闘は門外漢なイリナとしては専門家に頼らざるほかない。そんなイリナにクロードは優しく微笑む。


「常識にとらわれず柔軟の思考……だったけ? それをやってみるさ。最後まであきらめずにな」


 そういってゴーレムに走り出す。

 他ならぬ自分の言葉を胸にかけ出すクロードの背中を見ていつの間にか弱気になっていた自分を恥じる。


(もっと強靱な魂にならなきゃ)


 反省は後回しにし今できることを考える。

 ゴーレムに回り込みながら攻撃をしては離れる、というヒットアンドアウェでスキを探すクロード。指示を与え攻撃を防ぎつつもカウンターを狙うオズ。見るモノが見れば思わずうなる高度な攻防。


(……まてよ)


 ゴーレムを操っているのはオズなのだから、オズを倒せばゴーレムは止まるのではないかと。


(問題は私が勝てるかどうかってことか)


 イリナは意を決する。勝つ必要はない。一瞬でも注意をそらせばクロードが意をくみ取ってくれるはずだと。イリナは腰のホルスターから銃を抜く。武器を使うのは久しぶりだが詠唱で気取られるよりはマシだと思う。

 オズを見る。クロードが動き回っているおかげでこちらから目は離れている。


(当然ね)


 剣王を相手にしているのに自分のような小物に注意してられない。イリナは両手で銃を構える。攻撃力は低いが頭や心臓などの急所にあたればクリティカルとなる。


「――――」


 トリガーにかけた指が震える、ゲームだと理解していても見た目が人間な相手を撃つのは後ろめたいものがある。――それでも、


――バーン!


 意を決して打つ。銃声が辺りをこだまする。ほとんど射撃の練習はしていなかったのだが土壇場での集中力がものをいったのか直撃コースをたどる。が、成果はなかった。


「……意外と目障りだな。……消すか」


 オズはイリナをまったく注目していなかった。それは間違いない。それなのに銃声が聞こえた瞬間、その場から消えた。音だけで判断し対処したのだ。

 怒鳴っているわけでもなく、鋭く睨まれているわけでもない。ただ剣に抜く動作に身体が震えた。ユックリをイリナに向かって歩いてくるだけであるのに死を想像した。

 イリナはようやく自分間違いに気がついた。

 眼前の男は『放浪の軍師』と呼ばれるで自分と似たタイプだと勝手に思いこんでいた。

 そんなことはない。オズという男の性質はクロードと同じく武闘派だ。ただ頭脳派もできる、それだけのこと。

『超加速』にカウンターを会わせようとした時点で気がつくべきだった。


「逃げろ、イリナ!」

「ゴーレム! クロードを俺に近寄せるな!」


 ほぼ同時に2人は叫ぶ。クロードの指示通り逃げようとも考えたが今の状況を見てやめる。いま確実にオズはイリナを見ている。ゴーレムは指示通りクロードを近寄せまいと攻撃を仕掛けているが先ほどまでの計算された動きではない。おそらくモンスター本来の動きだろう。ならばクロードなら倒せると判断した。結果を見れば最低限のことはできたと。


「へぇ、……素質はあるな。……がんばれよ」


 イリナの心を読んだかのように感心する。がそれも一瞬こと冷徹な瞳で剣を振り上げる。

ゲームといえども死の恐怖に一歩も動けないが反面満足感もあった。

 

 

 次に気がついた時にはイリナは共和国の病院にいた。

 一撃で死んだことになるが彼女の防御力を差し引いてもオズは強かった。クロードだから心配はいらないと思ったが捜索隊を組織している時に彼は面会に来た。

 あの後どうにかゴーレムは倒したがオズは取り逃したことと、これから探しに行くことを告げた。


「イリナと行動でして教わった。俺も鋼の魂を持つことにする。俺の目的達成のために。……イリナもがんばれよ」


 と照れくさそうに言って旅立った。

 見送りながら教わったのは自分も同じだと反省した。

 自分の魂は思ったほど強くなかった。力不足も痛感した。しかしそれは収穫ともいえる。不足を補う手段を考えればいいだけのことだ。やり直せないということはないのだから。

 ――私の夢。とてつもないかもしれないけど、絶対叶えてみせる!


エピソード3はコレで終了です。

次回エピソード4には最後の四天王の話になります。


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