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Be called Fire boy  作者: タブル
序章
5/65

#4 惰性の道

 さてと。

 何か忘れている。

 ……というわけではないんだけど。

 聞いた時からずっと頭の片隅にあったのだが、なにせドタバタしてて聞くに聞けなかった。

 

 ───超能力の手に入れ方だ。

 

 だいたい祈るってなんだよ、祈るって。

 そんなんで出来たら苦労しねぇよ!

 

「だから本来なら苦労しないんだってば‼」

 らしいけど。

 

 

 今日は土曜日。

 今日からまた土曜日曜と休みだ。

 休みだからといって、何か予定があるわけではない。それは幸せなはずなのだが、俺には友達が殆どいない。

 だから特に予定も作れず、超能力入手にあてることにした。

 

 

 そして俺は今、ある坂道を登っている。

 木に囲まれ、この時期にも草が生い茂る妙な場所だ。ここは山の麓辺りか。

 家からチャリで30分ほどの所だろう。そんな場所まで俺達は歩いて来た。

 何故こんな所まで美鈴に連れて来られたのか、俺にはさっぱり分からない。

「美鈴……、どこまで行くんだよ」

「もうすぐよ」

 もうすぐって……

 お前、最初っからもうすぐって言ってるじゃないか。美鈴のもうすぐってのは徒歩1時間以上でも使用可能なのかよ。

 ずっと歩いてて疲れてきた。

「なあー、美鈴ー」

「まったく、うるさいわね。喋る元気があるならもっと早く歩きなさい」

 そう言って更に美鈴の歩くペースは早くなる。

 なんで美鈴は疲れないんだ。

 

「くだらないことをウダウダ考えて、楽しくないことばかりしながら歩くから疲れるのよ、バカね」

 森は更に深くなっていく。

「じゃあ、美鈴は歩いてる間、何を今考えてるんだよ」

「とっても楽しいことよ」

 なんだ、それ。

「だから、どんな?」

「分からない? ちょっと当ててみなさいな」

「いやいや、無理だろ。お前じゃあるまいし……」

「そうやって何事にも退屈な方向へまっすぐ進んでいくから、つまらないのよ。そのくらい猿でも分かるわ」

 じゃあ俺は猿以下ってか?

「せめて猿レベルにしといてくれ。それで、お前は何を考えてんだろうな。 新必殺技とか?」

「子供か!」

「次の世代とこれからの日本の在り方について」

「なんでそんなこと考えないといけないわけ⁈」

「うーん……。じゃあ、次の政権はどこが握るかとか、」

「あたしを政治家か評論家や批評家みたいに言わないで‼ そんなこと考えてて、どうやって楽しいなれるのよ⁉」

 もっともだ。

「はぁ、真人、頭が固過ぎなんじゃない?」

「そんなことねえよ! ただ、美鈴が楽しくなるようなことなんて何も思いつかないんだよ‼」

 だってそうだろ。

 この状況からまず意味不明なのに、そこで楽しそうにしている女の子の考えていることを当てろだなんて。

 そんなことをできるアブノーマルな男子なんてこの世にいたらお目にかかりたいくらいだ!

 

 それから二十分ほど歩いた。

 一体どこまでいくんだ?

 そう思っていた頃、目の前に小さい祠が見えてきた。本当に小さくて、ボロボロ。

 ある意味でどこにでもありそうだ。

 やっと着いた、と言わんばかりに美鈴が早足になる。

 そこにトコトコと美鈴が走り寄り、俺に向かい手を振る。

 行けばいいのか?

 

 俺も祠の前に立った。

「なあ、これは一体……」

「着いたわね。……さあ、早速だけど、祈って」

 はあ?

「すまん、意味が分か」

「分かりなさい!」

 無茶だ!

「もう少し説明を頼むよ。たとえ世界のあらゆることを知っている俺といえど、コレは流石に分からん」

「コラコラ、さらっと自分をモノ知りキャラにしない! 説明も何も、ここで『超能力を使えるようになりたい』って強く祈ったら、使えるようになるのよ」

 やっぱ意味が分からない。

 どうしてこんなことになっているんだ?

 確かに超能力を手に入れたいと言った。別に美鈴に直接、お前達を守るためなんて言ってはいないが、薄々気づいてはいるだろうな。

 いや、美鈴なら俺が無力だから身を護るために能力を欲しがっていると思っているのかもしれない。

 もしかしたら、もっと酷い設定も……

 あったりして欲しくねぇな。

「なにウダウダやってんのよ。さっさと祈りなさい! 簡単じゃない! 目を閉じ、両手を合わせ、『炎系の超能力を使えるようになりたい』って心から祈るだけよ?」

「本当にそれだけか?」

「それだけって?」

 美鈴も疲れてきたようで、近くの石段に座り込んだ。

 そのままこっちに視線を向けることもせずケータイを開き、圏外であることを知ると、肩を落とし溜息をついた。

「魂や余命の一部やを代償にしたり、」

「しないわよ」

 また溜息をつく。

「そんなに信じれないわけ?」

「だって超能力だろ。使いようによっては世界がゴチャゴチャになるぜ。そんな代物をこんな簡単に手に入れてしまえるなんて普通思わないぞ」

「そうならないようにするため、私達の組織があるの」

 へぇ。

 組織の存在意義って、そこんとこなんだ。

 

 俺は祈り始めた。

 ―――超能力が欲しい。欲しい。欲しい。お願いします。お願いします。お願いします。

 近くで座っている美鈴が微笑む。

「どれだけ純粋に欲することが出来るかがポイントよ」

 純粋に……? どういうことだよ、それ。

 まあ、いいか。

 そうして俺は祈り続けた。

 

 

 …………。

「そろそろいいか?」

「そうね。これくらいで効果あるかしら」

 美鈴が怠そうに立ち上がる。

「じゃあ、はい、 使ってみなさいな。貴方の超能力!」

 はい?

「これから何かするんじゃないのか?」

 はて、何が? とでも言いたそうな顔をしている。

「超能力を使えばいいのよ、ド馬鹿」

「だからそのために……。……もしかして、もう使えるのか?」

「ええ、勿論よ。実感ないの?」

 ない。全くない。

「ふぅん。まあ、無くても使えるとは思うけど……。試しにさ、指先に神経を集中させてみて。こう、ぐっと、全身のパワーを指先の一点に集中させるイメージね」

 右腕を前に突き出す。そして人差し指だけ伸ばし、力を込める。

 出てこない。

 もっと力んでみる。

 火なんて出てこない。

 深呼吸、そしてもう一度パワーを‼

 ……うぅん、何も起きない。

「何やってるのよ。早く何かしてみて」

「今、やってる!」

「真人、やる気ないの? サッと能力の片鱗くらい出しなさい。それによって訓練の仕様もあるのに、それじゃ全然駄目よ? 連立方程式を解く以前に九九を覚えていない中学生と何ら変わりないわ」

「中学生が九九を覚えていないって、俺、そこまで深刻なのか⁈」

「どうでもいいから、早く!」

 言ったのはお前だろ……

 

 

 俺達は諦めて家に帰る。

 1時間ほど色んな方法を試していたが、全くもって何も起こらないのだ。

 もしかしたら美鈴の様な見た目に見えない能力なのではないか?

 とも思ったが、そうでもないらしい。

 

 様々なコトを試したが効果ゼロ。

 それから出た結論は、俺の気持ちが足りない!

 という身も蓋もないような答えだった。

 

 俺も美鈴も肩を落として帰る。

 長かった行きの道のりが、更に長く感じる。

 とぼとぼ二人で歩く。

 美鈴と出会って二日くらいは、男と女、二人で歩くなんて想像もつかない話で、正直最初は違和感以外何も感じなかったんだが。

 今の、この無駄足かもしれなかった山登りという状況は、どうしても美鈴がいないと想像もつかない。

 というか、美鈴無しで自然にこの悪状況はあり得て欲しくない!

 

 ……そういえば、

「美鈴の超能力って、祈ったらすんなり出てきたのか?」

「あ、あたし? あたしは生まれつき超能力者よ」

「生まれつき⁉」

「ええ」

 まあ、厄介な奴もいるモノだ。母親もさぞ困ったものだろう。なにせ隠し事ができない子供ができてしまったのだから。

「大変だったんだなぁ」

「貴方、あたしのこれまでの苦労が分かるの?」

「いや、親、大変だったんだろうなって」

「なんで親なのよ! この場合、あたしでしょ⁉」

 自分で言ってるじゃないか。

「だから、あたしは生まれつき使えたから、使えないって人の感覚がよく分からないの。貴方には上手く協力できそうにないわ」

「お前が俺に何か協力できたことあったか?」

「あら、今日は真人、よくボケるのね」

「……はは、笑顔で怒るな……」

 表情が笑顔のまま固まってる。

 ガチで恐ぇよ!

 

「とにかく、超能力は存在を認識し、認め、利用したい! そうなった時に使えるの。一般人が超能力を見ることは普通は無いから、認識もせず、超能力者は増えないの。たとえ見たとしても常識的に超能力とは認めない。それで殆どの人はアウト。けど、真人は認識し認めてるじゃない。後は利用したいって思うだけよ」

「じゃあ、美鈴は産まれた時から超能力の存在を知ってて、しかもその存在を認めていたってのか?」

「そういうことになるわね」

 なるのか。

 何故か得意げな顔の美鈴。

「あたしは珍しいパターンだけどね。貴方みたいな凡人、いえ、愚民が超能力を得たかったら、あたしの言うことに従うことね」

「言い直すな!」

 

 

  美鈴がふと、太陽を見上げていた。

 その美鈴を見る。

 ここまで歩いたのに無駄だった。頑張ってるのにうまく能力が手に入らない。

 俺も美鈴も疲れている。

 そのはずなのに、美鈴は笑顔で空を見ていた。

「お前、本当にポジティブなんだな」

「貴方がネガティブなだけ。失敗は大成功の元なのよ! 知らないの?」

「いや、知らないこともないけどさ。失敗が成功の元になることはあるが、その成功が大成功になるなんて限らないぞ」

「まず、失敗が成功の元になるかどうかから怪しいじゃない? 『失敗は成功のもと』なんて所詮気休めや自己満の元よ! けどね、それなのに『成功のもと』なんて言い切れるなら、どうせだから『大成功のもと』にしておきましょうよ! バカ」

 大成功のもと……ね。

 こいつのポジティブは、大きなネガティブから来てるのかもな。

 大きな不幸というか。災難というか。厄介というか。苦労というか。苦痛というか。

 やっぱり、幸せじゃない、つまり『不幸さ』がしっくりくる。

 

 

 俺は美鈴の言うとおりで、どうしようもない馬鹿野郎だ。

 あっ、愚かではない。

 だから愚民じゃねえぞ。

 

 でも、馬鹿でも、美鈴に苦労はかけたくない。

 素直にそう思えた。

 

 ……美鈴に催眠でもかけられたか?

 俺。


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