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Be called Fire boy  作者: タブル
第二章
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6/65

#5 ゴーストタイムⅠ

早めの第二部です。

……というか、第一部がプロローグ的要素のつもりでつくっていたので、当然と言えば当然ですが。

 きつい……

 今日もぷりりん(を観たい妹)のせいで、早起きする羽目になった。

 そもそもぷりりんというアニメが始まってからだ。俺がこんな時間に起きるようになったのは。

 ぶっちゃけ、だるい。

 普通にだるい、眠い、きつい。

 妹が天使に見えることは無くとも、悪魔に見えることはしばしばである。

 

 

 最近、美鈴は客用の和室を美鈴の部屋として手に入れたらしい。

 入口には貼り紙が一枚ある。

『男性侵入禁止』

 ……誰も好き好んで入ったりしねえよ。

 そのくせに俺の部屋にはズカズカ入ってきて勝手に雑誌読んでくつろいでたりする。

 はぁ、まったく。

 

「はぁ……」

 美鈴が俺の部屋で雑誌を読みながら、大きな溜め息をついた。

「どうしたんだよ」

「別に…。貴方には関係ないでしょ」

「いや、俺の部屋で大きな溜め息をつかれると迷惑だ」

「じゃあ、この部屋から出ていきなさいな」

「ここは俺の部屋だ‼」

 いつの間に立場が逆転してるんだよ!

 俺はしぶしぶ認めた。

 別に屈したわけではなく、面倒だっただけだ。

「そういや最近、俺の心を読まないのな。安心して会話できるよ」

「ふーん」

「なんだ? もう俺の心は飽きたのか?」

「へぇー」

「なあ、おい」

「ほぅ」

「……美鈴、死んでしまえ」

「うぅん」

 こいつ完全に熟読モードに入って、人の話なんて聞いてねえ‼

 

 お前って…

 こいつ、見た目は可愛いのに、何故こんなに性格が残念なんだ?

 

 

 無駄かもしれないが、俺は超能力取得に励んだ。

 

 

 そして今日。

 今日はなんとなく早起きした。

 本当になんとなく……だ。

 俺の第六感が反応したというか、なんというか。ヤバい! と感じて慌てて起きた感じだった。

「地震でも来んのかな」

 そう呟いてみる。

 まだ誰も起きてない時間。

 だから当然返事も無かった。

 

 テキトーに時間を潰し、美鈴に構わず早めに学校に向かう。

 朝だけの爽快感がある。何故だろうな。

 空気が冷んやりしてるからか?

 まだ寝起きで雑念が少ないからか?

 まあ、どちらでもいいが、気持ちいいことに変わりはないな。

 

 

 学校に着き、教室に向かう。時間だけは有り余るくらいだから寄り道してもよかったのだが、残念なことにアテもない。

 ガラッ

 教室の扉を開ける。ある女生徒がコチラを向いた。

 ……こんな時間から来る奴は来るんだな……

「おはよう。遠藤さん。今日は早いんですね。美鈴さんは一緒じゃないんですね」

 清宮……清宮さくら。

 俺のクラスメイトで生徒会長。

 誰にでも優しい生徒会長。

「ああ。まあな」

 そう言って俺は自分の席に着いた。

 生徒会の仕事で早めに来たのだろう。

 

 チラッと清宮が俺を見たのに気付いた。

 別に俺は彼女に用もないし、気付いてないフリをしているのがいい。

 なにせ俺は他の生徒から嫌われている。気持ち悪がられ、恐れられ、ときに憎まれたりもする。

 その理由となるものは全て俺が犯人ではない。誤解だ。

 だから生徒会長……というより他生徒全員と関わりたくない。俺のせいでその人に迷惑をかけたくないから…

 俺は当然のように机に突っ伏す。

 早起きしたから、ちょっと眠い。だんだん瞼が重くなってくる。

「ねえ、遠藤くん」

 声がした。

「ねえ、遠藤くんってば! 無視はいけないんじゃない?」

「うっせえなぁ、清宮。俺は今、熟睡中なんだ。起こさないでくれ。」

「熟睡してる人は普通喋れない」

「……寝言だ」

「じゃあ私は今、寝言と会話が成立してるんだ」

「そうだよ」

 テキトーに返事をして俺は黙る。

「ちょっと頼み事があるんだけど……。」

「他をあたってくれ」

「今、この教室は私と遠藤くん二人きりじゃない」

「そうだな」

 だんだん眠気が覚めてきた。

「聞いてくれたら、お昼ご飯奢ろうかなぁ」

 ガバッっと。

 一気に眠気が吹っ飛んだ。

「何でもいいのか?」

「学食にあるもの限定ね」

「よっしゃあ!」

 自分でも釣られているのは分かっている。

 それでもここは釣られておこう。

 なにせ昼飯代が浮くのだ。

 

 俺の家は母子家庭だ。

 昔……俺が小さい頃はある程度金持ちだったらしい。父さん母さん二人とも仲が良く、母さんにとっても幸せな日々だっただろう。

 しかしある日、詐欺まがいなものに引っかかり、俺たちの生活は一変した。

 引っかかる筈もない、単純なもの。けどいつの間にか引っかかっていた。

 それに気付いたのが早く、対処ができたので、手遅れにならずに済んだ。

 それから両親二人ともすごく頑張っていた。

 働いて、働いて、働いて。

 最初は泥だらけで働く父さんが汚くて大嫌いだった。

 けれど、俺たちのために働いている。頑張ってくれてるんだ。そう思うとなんとなくカッコよく、なんとなく誇らしく思えてくる。

 ……そう思えてきた頃だ。

 父さんが突然酒に溺れた。

 口も悪くなり、物を投げ、人に当たり……

 人が変わった。

 その後間も無く、父さんは蒸発してしまった。

 妹が産まれた頃。

 人が変わる理由は様々。しかし真相は本人にしか分からない。いや、本人にすら知り得ないことだってある。

 何があったのか分からない。

 父さんがどこに行ったのかも分からない。

 父さんが消えた。

 ただ……その事実だけが残った。

 

 掃除も洗濯も全て母さんがしていたが料理だけは父さんがやっていた。

 だから母さんは料理がほとんどできない。

 いつも俺は月の小遣いを貰い、昼飯代をやりくりしている。

 別に生活が苦しいわけではないが、そういうシステムになった。

 

「それで、頼み事って?」

「いや、たいしたことじゃないんだけど。このプリントの束」

 清宮は机の上のプリントを指差す。

 そして困ったようなトーンで言う。

「これ、返却されるプリントなんだけど、さすがに数が多いじゃない? 今の席順も出席番号と関係無いから、配るのも一苦労。だから並べてくれないかな」

「席順に、か?」

「ええ」

 昼飯代が浮くならお安い御用だ。

 

 俺は清宮の隣に座り、作業を手伝う。

 しかし本当に多い。しかもくだらないプリントばかりだ。俺だったらゴミ箱行きのような。

 あえて溜めないとこんな溜まらない気が……

「ねえ、遠藤くん」

「なんだよ」

「最近、友達増えた? ほら、この間、言ってたじゃない?」

「ああ、そうだな。だけど、まだ綾乃一人だけだな」

「そんな遠藤くんに朗報! 今日は転校生がこのクラスに来るのよ。話してみたらどう? 不良遠藤に警戒する前に」

 ピシッと俺を指差す。

「遠藤くん、チャーンス!」

 …楽しそうだ。

 一つの束を分け終えて、二つ目の束に手を伸ばす。

「けど清宮、そう簡単じゃないと思うぞ。ほら、俺ってそんなに社交的じゃないし」

「でも私とこんなに話せてるじゃない。大丈夫よ」

「それはお前が社交的だから」

 社交的だから…

 自分で言っておきながらだが、正確には違う気がする。

 じゃあ、何なのか。そう訊かれると答えることはできないが……

 確かに清宮は俺から見ても、誰とでも話せて、自分の考えをぶつけることができ、人当たりがよく、完璧なんじゃないかとも思える。

 だけど、清宮と話したことがある人には分かる違和感……

 仲良くやってるはずなのに、距離感がある。

 心の距離。

 不思議な距離感。

 奇妙な距離感。

 曖昧な距離感。

 異様でありながら、実感できてしまう……距離感。

 清宮には、それがある。

 だから社交的とは断言し難い。行動そのものはアクティブな人物でも、内心が全くといっていいほど読み取れない。

 それは人を利用する一定の人間には安心を与えるのだろう。

 しかし、俺から言わせれば……不気味。

 その一言に尽きる。

 社交的じゃないのに社交的というか…

 まるで人間嫌いで社交的な人間のようだ。

 ……まず、俺らは人間と思われてるのかな?

「どうしたんですか? 遠藤くん。手が止まってるわ。そんな働きじゃあ、お昼は無いよ」

「ああ、悪りぃ」

 

 俺は作業を続けた。

 

 教室に入ってくる生徒が増えてきた頃には俺たちの仕事は終わっていた。

 これだけ話したんだ。清宮はもう友達と思っていいのかな。

 そんなことを考えながら、席につく。

 隣にはもう美鈴は来ていた。

 チャイムもそろそろ鳴りそうだ。

 ホームルームが始まる。

 

 

「美鈴、今日、転校生が来んだって」

「このクラスに?」

「ああ」

「それって本当? 突然じゃない。誰からの情報なのよ」

「清宮」

「じゃあ、正確ね」

 ホームルームの先生の話。

 それが終わると、先生は意味ありげに笑う。どうせ転校生のことだ。

「―――知っている人もいるかもしれないが、うちのクラスにまた新しい仲間だ。またうちのクラス……なんでだろうな」

 知るか。

 ほらっ、入って来いという先生と共に男子生徒が入ってきた。

 このクラスに入る生徒にしては普通……。いや、普通の生徒が普通であることこそが、普通か。

 ちょっと着崩しているが一応制服も着ているし、ちょっと童顔で、普通にいい奴そうだ。

 ……だけど、なんとなくバカそう。

「どんな奴だろうな」

「さあ。ま、このクラスに今、転入でしょ? (ロク)な奴じゃないに決まってるわ」

「どうだかな」

 転入生が皆の前に立つ。

 シンとしているが、微妙な空気。それもそうだろう。なにせ前回の転入生―――美鈴が色々やってくれたから。

 彼は話し始めた。

「初めまして。志村孝一といいます。前の学校ではクラスの中心、人気者で、喧嘩も強くて、まさに……英雄と言って過言ではありませんでした。へへっ、そんな僕だ。今は近くのマンションで一人暮らし。これからどうぞヨロシク」

 確定。

 ……すごく変な奴だった‼

 なるべく関わらないでおこう。

 俺は視線をそらし、なるべく近づかないように努めることにした。

 

 

 ―――放課後。

 部活動に所属している人達が各々の道具を持って移動を始める。

 教室にいる人間が少なくなっていく。

 さて、俺も帰るか。

「なあ、お前がこの学校で有名な遠藤?」

 後ろから誰かの声が聞こえる。

「おいって! 無視すんじゃねえよ!」

 振り向いてはいけない気がする……

 やっぱこういう時って無視に限るなぁ。

 ほんっと無視に限るぜ。無視貫くぜ。無視最高!

「お前ってさぁ、あれなんだってな。嫌な奴を突き落したり、犯罪組織の仲間で」

「それは全部誤解だ!」

 ……無視貫けなかった。

「え、じゃあ、この学校で不良どもを血祭りに上げたってのも?」

「ちげーよ! んなことするか! できねえよ!」

 そもそも、どういう経緯で出来上がってんだよ、その噂。

「とにかく俺はそんな遠藤と組みたいって言ってんだ」

「たぶん目の前の遠藤は『そんな遠藤』じゃないぞ」

 ああ……、この変な転校生の志村と話してしまった……。

「君、なんか失礼なことを考えてない?」

「気のせいだろ」

 投げやりに答える。

「なあ遠藤。自分の今の学校での立場とか分かってんだろ?」

 志村はふっと周りを目配せした。

 俺も見てみる。

 まだ教室にいる生徒が、かなり遠巻きにこちらを見ている。

 それも深刻そうな顔で。

 ……ん?

 ……美鈴が面白そうな顔で見てやがる。

「分かるか、遠藤」

「何がだよ」

「説明するまでもないと思ったんだけどな。今この状況は他人から見たら『強くて勇敢な転校生が悪の生徒―――遠藤真人に挑みに行ってる』という状況なんだぜ」

「『弱くてビビりな転校生が遠藤真人に絡まれている』の間違いじゃないのか」

「誰が弱くてビビりだ、コルァァ!!」

「こらこら、その発言そのものが弱そうな奴のセリフだぞ」

 今度が俺が周りを見る。

 志村も周りを見た。

「ほら、笑われているぞ。志村。」

「100パーあんたのせいっすよね!」

 はぁぁと志村は大きな息を吐く。

「とにかく遠藤、僕はお前と組みたいんだ。僕とお前が組んだら最強だと思うんだ」

「芸人として?」

「この学校での生徒間の地位とかの話だよ!」

「俺は興味ない。一人でやってろ。そしてのたれ死ね」

「あんた、むちゃくちゃ鬼っすね!」

 なかなか折れないな。めんどくさい。

「わかったわかった。組んでやるよ。そのかわり、お前は俺の下僕な」

「なんて不平等条約……。認められるか!」

 どうやってこいつを追い払おうか……

「なんか僕、トイレに行きたくなってきたよ。遠藤、話もまだ終わってないし、ついて来いよ。ほらっ、連れションって友情の証だろ? 一緒に来たらお前もきっと―――」

「もしそうだとしても、お前と俺の間に友情は生まれない。残念だったな。じゃあな」

 志村に向かって手を振る。

 ああ、なんて面倒な奴だったんだ……

「―――って、ちょっと! 話を勝手に片付けないでくれます?」

「あん?」

「だーかーらー! 行くぞ!」

 志村が俺の腕をつかんでいる。

 反抗するのも面倒だな……

 しぶしぶだが、ついていくことにする。

 もう一度周りを見渡す。まだ美鈴がいた。

 憐みの視線……としか形容できない目で、こちらを見ている。

 あっ、手を振ってきた。あいつ、自分が巻き込まれる前に逃げる気だ。間違いない。

「おいっ! 志村! あそこの女の子! あいつは―――」

「そんなのどうでもいいって!」

 さらに美鈴と反対方向へ引っ張られていく。

 くそっ、覚えてろよ、美鈴!

 

 結局、トイレに引き込まれてしまった。

 さて、どうしようか。

「そういや遠藤。お前ってあだ名とかあんの?」

 志村が便器に向かったまま尋ねる。

「なんだよ、突然」

「あだ名だよ、あだな。ニックネーム」

「いや分かるけど」

「何かねーの?」

 あだ名……

 考えてみれば、付けた覚えはあっても、付けられた覚えはないな。

 なんつーか、俺と縁がない気がする。

「無いな。好きなように呼んでいい」

「へぇ。じゃあ、遠藤だから……えんどう……えんどう豆……豆……マメ太郎って呼んでいい?」

「……殺すぞ」

「だって、好きなように呼べって言ったじゃないか」

「前言撤回。常識の範囲内で好きなように呼べ」

「なんだよ、めんどくさいな」

 どっちがだ。

 

「さて、教室に帰ってきた。友人遠藤よ。トイレまでの旅を終えた僕らはもう友達だ! 仲間だ!」

 一人で何か言っている。

 ……帰ろう。

 おれはバッグを持って教室を後にする。

 じゃあな、志村。きっと、お前にもいい友達ができるさ。

 ああ、教室の中から「え、ちょっと待てよ」という声が聞こえてきた気がする。 

 ううん、幻聴だよな。うん。幻聴だ。

「おい、待てって。なんで一人で勝手に自然な流れのように帰ろうとしてるんだよ」

「なんなんだよ、幻聴発生機器本体」

「は? 遠藤、何の事だかさっぱりなんだけど」

 じゃあ、これでどうだ!

 こいつの馬鹿さ加減にかけよう。

「わかった、わかった。けどな、志村。突然だが俺は、対人関係において対等とか平等とかってあり得ないんじゃないかって思っているんだ。対等なんてありえない。だから上下関係が存在して、そこの秩序が守られるんだ。」

「……どういうこと」

「だからな、教室にしたってそうだ。教師がいるから生徒がいる。そして生徒がいてこその教師なんだ。生徒ってのはな、まだまだ大人に対して未熟なんだよ。だからいろんなことを学ぶ必要がある。けどそれだけの状況ではまだただの『ガキ』でしかないんだ。『生徒』という存在であるには、その未熟である何かを、未熟ではない大人から教わっている状況じゃないといけないんだ。分かるな?」

「ああ、当たり前だろ、そりゃ」

 もうひと押し。

「教師という立場だってそうだ。生徒という存在がいてこその教師なんだ。教師という者の存在意義自体が、『学校で勉強を教え、生徒を導く者』だからな。もし生徒という存在がいなかったら、教師はどこにいたって、どんなにそれが優れた人でも、ただの『大人』でしかないんだ。この相互関係は理解できるか?」

「ああ、なんとか」

 なんとかって、おい。こいつは馬鹿か?

 ……いや、おそらく馬鹿だ。アホな子だ。

「でな、こういう相互関係は教室だけじゃなく、たくさんの場に存在するんだ。会社の上下関係、家族内の上下関係、教室内での人間関係もそう、そう考えると子供たちの人間関係でさえもそうだ。そして、食物連鎖もその一つと言えるだろう」

「まじかよ……」

 はは……志村。

 ここ、驚くトコじゃねえよ。

「この上下関係は、上の者が下の者を支配するんだ。下の者は、必ず上の者の下なんだよ。そうして秩序が保たれるんだ。この意味、分かるよな」

「ああ。僕くらいになると、生まれた時からそのくらい知ってるね」

 嘘つけ。

「話は長くなったが、だから対人関係に対等なんて無いと思うんだ。」

「そうだね。僕も産まれる前からそう思ってたよ」

 嘘つけ。

「だろ? だから俺たちの関係もしっかりとした上下関係が必要だ」

「そうか。そうだよな」

「だから今日からお前は俺の奴隷だ!」

 志村に向かって、拳を縦に突き出し、親指を上にあげる。俺の最大の笑みで。

「おう! 今日からお前に尽くすぜ! ってなんで僕が奴隷なんだよ⁈」

「ちっ、気付いたか」

「気付くよっ!」

 

 再び教室に戻る。

「じゃあ、志村、あるゲームして決めるってのはどうだ?」

 日が傾く。

 俺ももう帰りたい所だ。

「げえむ?」

「ああ、ちょっとした対決だ。これで上下関係を決めよう」

「ああ、望むところだ!」

 おっ、志村の顔が明らかに変わった。

 乗り気だ、こいつ。

「ルールは簡単。この学校には強くてゴツいラグビー部がいる。先にそいつらの所に乗り込み、実力でその場から追い払えたら、そいつの勝ち。当然勝った方が上だ。簡単だろ?」

「ら、楽勝さっ、ら…ラグビー部くらい……。ただ、ちょっと体調が……」

 ふふ、こいつ、ビビってる。

「あー、ごめんごめん。こんなの無理だよなー。だってラグビー部って全員デカくて強そうだもんな。そんな奴らを敵に回せる強者なんてこの世に存在しないよな。けどさー、一生で一度でいいから見てみたいなー。ラグビー部を倒せるくらいの勇者を。しかし、やっぱり無理な願いだったかぁ。そんな男の中の男……」

「はっ、安心しろ。男の中の男はここにいるじゃんか!」

 ああ、やっぱり、こいつ、馬鹿だ。

 乗せられやすすぎ。

「すげーよ、志村。色んな意味で」

「これからはもっとスゴくなるぜ」

 ああ、凄惨たる結果の先にスゴい志村が予想される。

「じゃあ、遠藤。先にラグビー部のトコへ行ってくるぜ」

 志村が背を向け走り出す。

 タタタタタタタタタタタタ…………。

 ドテッ。……タタタタタタ…………。

 行ってしまった。

 

 さて、俺は帰ろ。

 

 

 ―――だいぶ時間が経ったけど、あいつ生きてっかな。

 志村をラグビー部に派遣して、はや三十分。

 あの馬鹿のことだ。どうせ喧嘩を売って、袋にされてるに決まってる。

 それはそれで面白そうだ。

 仕方ない。見に行くか。

 

 夕暮れに向かう色の空。俺は歩く。学校に向けて。

 

 

 グラウンド。

 ラグビー部がベンチに集まっている。そのベンチの前で志村は横たわっている。

「おーい、志村ー。生きてるかー?」

 声をかける。……が志村の返事は無かった。

 …………合掌。

「あん?」

 ラグビー部の数人が俺の声に反応する。

「てめぇか? この雑魚と一緒にラグビー部を倒すとかほざいていた馬鹿は」

 少しやばいかも知れない。

「あ、ああ。俺はお前達の敵じゃない。少なくとも志村の味方じゃないぞ」

「じゃあ、なんなんだ」

「志村の……顔見知り?」

「はあ?」

 軽く笑われた。そりゃ、そうだろう。

 客観的に見れば、俺は、友達を助けに来たのにビビって自分の助かる様なことを言っているだけなのだから。

 だけど本当は違うんだ! 正直、志村なんてどうでもいいんだ!

 

 ラグビー部が志村を置いて、俺を取り囲む。

 志村が息を吹き返した。

 生きてたのか。

「あっ、遠藤…。助けに来てくれたのか。流石は僕の……友達だ」

 ああ、また誤解を招く言い方を。

 

 しかし話は思ってもみない方向に進んだ。

「え、お…お前が……あの遠藤か?」

「どの遠藤かは知らないが、俺は遠藤だ」

 ラグビー部がビビってる。

「ふっ…。俺はなんて……」

 俺を取り囲んでいた1人がそう呟いた。キャプテンだ。

「おい! お前ら! こいつには敵わない! 本物の遠藤だ! 今日はもう帰れ‼」

 キャプテンが叫んでいた。

 そして気がつけばグラウンドには俺と志村の二人だけ。

 

 俺の噂って一体……

 

 

「ありがとな、遠藤」

 ボコボコの顔で何か志村が言っている。

 帰り道。俺は志村に肩を貸している。

「なにが」

「助けに来てくれたんだろ?」

 逆。本当は笑ってやるために行ったんだが。

「お前、馬鹿だよな」

「へへっ」

 傷だらけなのに笑っていた。

 ラグビー部をどんな風に嗾けたら、そこまでやられるのだろうか。

「そうだな…。志村、お前はアホでアホ正直ってことにしといてやるよ」

 そう言っておく。

「よし、友情の証に、コンビニに寄っていくか!」

「なんで友情の証がコンビニなんだよ」

 やっぱ正真正銘アホだ。

 

「コンビニなんて寄れないだろ。お前のマンションまで送ってやるから、とにかく歩け。アホ志村」

 

 志村は、それからも満足げに歩いた。

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