部屋
「うわぁ・・・部屋まで旅館みたい」
案内された部屋は、畳の匂いがよい和室だった。
なんだか高そうな壺が置いてあったり、それっぽい掛け軸があったり、机の上にお茶とお菓子が置いてあったりする。明らかに旅館を意識している。
「こんな部屋あったんだぁ・・・。俺知らなかったよ」
そういう勤に勤の母が説明をする。
「ふふふ・・・、ここはこの前までは物置でしたから。佳奈さんが三週間前に連絡してくれたからちょっとずつ片付けていったんですよ」
「え、三週間前?「お義母様!わざわざお部屋を用意していただくても良かったのに」
勤の言葉を遮り佳奈が勤の母と話をはじめる。
残された勤は首をかしげ、あとで聞けばいいかと持ってきたカバンをあさり始める。カバンの中に入れたポテトチップスを取り出そうとすると佳奈にチョップされる。佳奈は勤の母と話しているため手だけで勤に自分の意思を伝える。
「む・・・この合図は、『お昼ご飯食べられなくなるでしょ』ってところか。了解」
そう呟き、勤は仰向けになってゴロゴロと畳の上を転がり始める。
「た~た~み~」
ゴロゴロ転がりながら時々止まっては畳の匂いをかぐ。この行動に何の意味があるのかはわからない。ただ一つ言えることはこの行動は佳奈と勤の母の邪魔になっているということだ。
「それじゃ、荷物置いたら居間に来てくださいねお昼ご飯食べながらお話をしましょう」
そう言って勤の母は部屋から出ていく。
佳奈は勤の母が出て行ったのを確認して勤の方にふりむく。コロコロ転がる勤を足で止めてしゃがむ。
「あんたのフリーダムな性格はいいところでもあるけど、悪いところであるのを知りなさい」
そう言ってぺちっと勤のデコを叩く。勤は頬をふくらませて反論する。
「うるさくしてなかったじゃん」
「どこが」
「喋らず転がったところ!」
「転がるの禁止」
「むー!むー!」
むーむー言う勤の口を佳奈は手をおしつけて閉じる。
「さー、荷物おいて居間に行きましょう」
立ち上がって佳奈は荷物を置く。そして、勤の腕を掴んで立ち上がらせる。
「そういえば、さっき母さんが三週間前に連絡があったとか言ってたけど・・・」
「あー、あれね。ホントよ」
「でも、三週間前は・・・まだ結婚のはなししてなかったよね」
少し頬を赤くして勤は言う。
「うん。でも、結婚してくれると信じてたから。先に言っておいたの各方面に」
「各方面って・・・。ちなみに断ってたらどうなってたの?」
「うーん、多分ね。私は恥かきまくって知り合いに会えなくなったと思う」
「なにそれ、怖!」
「さらに私は心に傷を負って自分なんてどうでもいい、自分なんて最低だ・・・などかなり暗い気持ちでで人生を歩んでしまい・・・「もういい、もういいよカナちゃん・・・」
勤が疲れたように言う。
そんな勤に対し佳奈は明るく言う。
「ま、私は絶対OKしてくれると思ったからいえたの。ふたりの愛が十分だと思ったから」
「カナちゃん・・・それ言ってて恥ずかしくない?」
「羞恥心などとうの昔に捨てた。それにしても、あんたそういうこと普通言わないでしょう」