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バナーム使節団が出ていった後、エレナとサリーとカナエは部屋に残り、地下牢への侵入計画を話し合った。見取り図はギルベルトが持って行ってしまったものの、カナエがすべて記憶していた。懐に持っていた紙に城の通路と隠し通路を書き出し、カナエは二人に説明した。それらは複雑な構造をしていて、理解に骨が折れるものだったが、加えてカナエは警備配置の予測もこなした。警備に見つかった場合、はぐれてしまった場合など、事細かに提案した。


カナエの説明を聞き終えると、エレナは不安を漏らした。

「私、実は方向音痴なのよね」


サリーとカナエは意外そうな顔をしてエレナを見つめた。サリーが「知りませんでした。エレナ様にも苦手なことがあるのですね」と反応し、微笑んだ。


「当たり前よ! 私だって完璧じゃないわ、ただの人間なんだから」とエレナは冗談ぽく笑った。「小さい頃から何度も行ってるウィステリアの城でさえ、いまだに迷ってしまうことがあるわ」


エレナは二人の緊張を解きほぐすために、あえて明るく振る舞っていたが、カナエだけは表情を崩さなかった。カナエは忍びの訓練を受ける過程で感情的にならないよう教わってきたため、それは習慣といってもよかった。表現する手段を心の奥にしまったからといって、その人間の中にある何かが存在しないわけではない。


「大丈夫です。わたしが案内申し上げます。その代わり……万が一城の護衛兵に囲まれたときは、ご助力願います」とカナエが言うと、エレナは親指を力強く立てて見せ、「剣なら任せて!」と応えた。その眼差しは自信に満ちていたが、心の中では緊張とも責任感ともとれる感情を抱えていた。サリーとカナエをしっかり守り、ソラとサミュエルを救い出さなければならない。私がみんなを無事にウィステリアへ帰さないといけない。エレナはそう思いながら、腰元の剣の柄を見つめた。そのとき視界に入った鍔の表面に、仲間たちの命が映り込んでいるように感じられた。彼女の心臓は重たく、熱く打っていた。自分の剣が、仲間たちを守る唯一の力であることを、エレナは強く意識した。


警備の切り替えの時刻が訪れた。ベガとバナームの交渉がどうなったのか、歓迎会がどのように行われているのか、まったく様子がわからないまま、三人は出発の時を迎えた。部屋に残ったバナームの従者たち(ゾフィーのお世話係や、雑用係)は談笑していて、緊張感がない。誰一人外に出ることもなく、様子を確かめに行くような素振りも見せない。


カナエはエレナとサリーに向かって、「行きます」と言った。バナームの従者たちはエレナたちの行動に何も言わず、ただ視線を送ってその動きを見送った。ゾフィーが事前に何らかの指示を出していたのかもしれないが、エレナは彼らに対して違和感を覚えた。


部屋を出て、計画通りに進み始めたカナエの動きは、まるでこの城をよく知る者のようにスムーズだった。城の通路はたびたび分岐し、そこには何度も曲がり角があった。城の警備が目に入ることもあったが、彼女たちは素早く彼らの死角に入り、やり過ごした。エレナとサリーは、前を歩くカナエの動きに注意しながら、慎重に歩いた。


(カナエ、成長したわね……)


カナエはエレナよりも年下だった。彼女が忍びとしての道を歩み始める前、エレナは何度も彼女に剣の稽古をつけていた。エレナの記憶には、幼い頃のカナエの純真な笑顔が鮮明に焼き付いていた。そのかつての笑顔が今、危険に晒されていると思うと、エレナの胸は痛んだ。しかし、その思いがただの過去への郷愁であることを、エレナは自覚していた。カナエはもはや成長した大人で、自らの運命を自ら選び取れる者だった。忍びの道を選んだ彼女の生活は、常に危険と隣り合わせだったはず。ただ目の前にいるからといってカナエを心配するのは、余計な過保護心にすぎないとエレナは解した。しかし――頭ではそうわかっていたとしても――立派に先導するカナエの背中をいざ見ると、エレナはそこにかつての幼き彼女の面影を重ね合わせ、その頼もしさが生み出す喜びとともに切なさを感じるのであった。


やがて、彼女たちは地下牢へと続く隠し扉に辿り着いた。カナエがレリーフを動かし、隠し扉を押し開けると、そこには長い階段があった。階段は暗く、下に続く様子はよく見えなかった。しかし、カナエは迷うことなく「足元にお気をつけください」と言うと、階段を下り始めた。エレナとサリーも彼女の後を追い、地下へと進んだ。


地下まで至ると、再び扉が立ちはだかった。カナエはそれに耳を押し当て、警備の不在を確認した。「やはりここには誰もいませんね」と目を細め、音を立てずに扉を開けた。その先は、古い石壁に囲まれた狭い廊下だった。廊下の果てからは微かな薄明かりが漏れ、人間が通行するための通路であることを示していた。冷たく湿った空気が三人の肌に触れ、壁から滴り落ちる水滴の音が静寂を破った。地下特有の音の共鳴、夜よりも暗い闇、そして古石と湿気が混じり合った匂いは、地下牢へ近づいていることを彼女たちに実感させた。

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