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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter3 郷愁ラプソディ

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1.そこは異世界の日本 -5-

中に入ると、煙草の煙が充満した事務室だった。

そこにいたのは、ガラの悪い作業服姿の男二人。

私はそれを確認すると、ふーっと溜息をついてから手に持った拳銃をゆっくりと近くにいた男に向ける。


「なっ……!」


レコード違反を犯して、既にこの世から切り離された男が驚いた顔を向ける。

引き金を引いて、破裂音が鳴り響く。

普通に過ごしていれば、まず認識しないであろう私の顔を見て、驚いた男の顔面は、その直後に破裂した。


普段使っている拳銃よりも重い反動を受け流しながら、もう一方の男に銃口を移した。


「お、おい…なんだお前ら…何が目的で!」


あっという間に仲間が1人、目の前で殺された男は、体を震わせて叫ぶ。

私は一歩、二歩近づいて、小さく口元を笑わせた。


何も言わずに、引き金を引く。

もう一回、銃声が鳴り響いて、もう一人分の死体が出来上がる。


「もう一人いるんだっけ?」


淡々とした口調でそう言って、白川さんの方へと向き直る。

彼女はほんの少し気味の悪い顔を浮かべながら頷いた。


「うん…」


私はそんな彼女を見ると、左手に持った拳銃を彼女に渡す。


「なら、あと一人は任せたよ」

「え?」

「奥でドタドタ音がするでしょ?最後の一人だよ」


私はそう言って、彼女に拳銃を持たせると、事務所の方へと目をやった。


「ちょっとだけ、引っかかることがあるんだ…お願い」

「そういうことなら…分かった」


白川さんは、そう言って深呼吸を1回。

それから、意を決したように事務所の奥へと入っていった。

扉が開いた音がして…やがて白川さんの足音が聞こえなくなる。


事務所に残った私は机の上に乱雑に並んだ書類などを見ては投げ捨てながら…適当に探索を進める。


途中で、倒れた2人の男の死体を蹴って顔が見えるようにした。

作業服を漁ると…ロシア製の拳銃が出てきたので、拾いあげた。

チェックしてみると、弾が薬室になかったので、スライドを引き切って弾を薬室に送り込んだ。


レコードを開いて、殺したばかりの男2人のレコードを表示させる。


「……どこかで見たことがあると思ったけれど…どこだろう?」


出てきた男のレコードを見ながら呟いた。

名前に聞き覚えもないけれど…顔はどこかで見たことがある。


私はレコードを閉じて、もう一度事務所を漁りだす。


白川さんが銃を放った音が聞こえないことに、少しだけ違和感を覚えながら、探り続けていると、端っこの戸棚に置かれた茶封筒に目が入った。


ただの茶封筒だ。普通なら、別に見過ごす品物だろう。

だが、そこに太字のマジックで"芹沢俊哲"と書かれていたらどうだろう?


私は、その茶封筒を手に取った。

書かれていたのは、昔の芹沢さんの名前のほかに、東京の方の住所と…電話番号。

芹沢さん宛ての茶封筒だ。


「おい、両手を上げてこっち向いてみろ」


茶封筒を片手に持った私の背中…少し離れたところから声が聞こえる。

低い男の声…ほんの少し聞こえる白川さんの荒れた呼吸音。


「聞こえないのか?ツレがどうなってもいいってんならそうしてな」


状況を理解しきった私は、茶封筒をゆっくりと置くと、手も上げずに振り返った。


「手を上げろって言ったのが聞こえなかったか?」


男はふてぶてしくも自然体のまま振り返った私を見て少しだけ怒鳴るような声を上げる。


「手を?上げろって?」


私は特に動じることもなく答えてから、手を上げる。

ゆっくりと、服の胸ポケットに入った手帳を取って、それを開きながら……


手帳が目に入った男は、さっきまでの殺気だった表情を消して…ただただ茫然と、充電が切れたかのように立ちすくむだけになる。


「そのままの方がよかったんじゃないのかな?」


手帳をポケットに仕舞いこむと、私は捕まったままの白川さんの手を引いた。


「わ…」


力のない右腕で引っ張って、肩を抱くようにして私の横に立たせると、左手に持ったままの拳銃を男に向ける。


「手帳さえ目に入ってしまえば…こうなる」


肩を抱いたまま、白川さんにそう言った私は…銃を向けたまま動きを止めた。


「撃たないの?」

「ちょっと確認したいことができたからね」


手帳を仕舞って数十秒。

呆然としていた様子だった男が生気を取り戻す。


すぐに、銃を向けた私と白川さんを認めて、驚愕した表情を浮かべた。


「ねぇ、一つ聞きたいんだけど」

「な…なんだよ…お前、いったい何を?」

「どうだっていいでしょ。ただのマジックだよ。それより、芹沢俊哲とはどういった関係で?」


呆然と、驚いた様子の男を見ながら口を開く。

男は、芹沢さんの名前にぴくっと反応した。


「芹沢……アンタ芹沢の何なんだ!?」

「一人娘…」


私は、男の問いに即答して見せる。

男は驚きに染まり切って、見開いた目をさらに目を見開いた。


「娘って…ああ…芹沢と…ああ…似ているな…何故…ここを襲った…?」

「それは…貴方の返答次第さ」


私は銃を向けたまま言う。


「芹沢は…ただの客だ。お前が持ってる銃の買い手だ。それ以上の付き合いはしてない…暫くやり取りはしてなかったが、この前…ほんの数日前に電話があった。拳銃5丁とアメリカ製のマシンガン1丁用意できないかって…」

「…何やってる人か知ってる?」

「知らない…金払いも良いし、こっちの言い値で買ってくれてたからな…文句はなかったさ…」


男は額に幾つかの汗粒を浮かべながら答えた。


「さぁ、言ったぜ。次はお前さんの番だろ?なぁ、どうして娘が俺らを…」


私は何も答えずに、引き金に指をかけると、指を引く。


「仕事完了っと」


そう言って、背中側に倒れた男に、手に持っていた拳銃を放り投げた。


「ねぇ、レナ」

「何?」

「そろそろ離れて良い?」

「ああ…ごめん」


右腕に抱きっぱなしだった白川さんを放すと、芹沢さんの名前が書かれた茶封筒のある戸棚まで戻り、それを手に取る。


「どうして最後だけあんなに面倒な真似を?」

「芹沢俊哲…聞いたことあるよね?パラレルキーパーの」


白川さんに問いに、私は茶封筒を見せながら答える。

白川さんも、それを見てほんの少し驚いた顔をした。


「ここは所詮ヤのつく職業の仮の職場…こんな場所に、芹沢さんが"本名"で何か送らせようとしてた…そんな過去は、きっと無いはず」


私はそう言って封筒を破いて中身を取り出す。


「だって彼は道警のキャリア組…裏の顔として銀行強盗の一員だったっていうのがあるけど、その時は偽名を使ってたはず…こんな、簡単に足がついて、なおかつ脅されやすい証拠を残すような人じゃない」


そう言いながら、取り出された中身は、モデルガンが入っていそうな箱。

箱を開けると、中身は部長が使っている拳銃と同じものが出て来た。


「部長の拳銃だ。確かに芹沢さんたちは本物の拳銃を使ってたはずだけど…人を撃ってまではいないはず…この前も、この方法で、片田舎のヤクザから銃を手に入れていた…?」

「何か変な話だよね。確かにレナの言う通り」


部長の拳銃を手に取って…じっと見てから、白川さんの方に向き直る。


「そして、ここ一帯の人間がレコード違反を犯してる…ここの人達がレコード違反をした以上、この拳銃がこの時代の部長の元には届かない…ん…?いや、待って…」


私はもう一度、銃に目を落としてから、事務所に掛かったカレンダーに目を向けた。


「おかしい…そもそも、部長達が銀行強盗に手を染めだして、すぐの頃にはもう銃は持ってたはず…なのに、どうして今これを……?」


そう言ってから、暫く2人は事務所に立ちすくむ。

沈黙の中で、事務所の中は夏の暑さと、虫の鳴き声と…遠くに聞こえる波の音に支配された。


「まぁ、後で芹沢さんと部長のレコードを見ればわかること…か」


暫くの沈黙の後、私はポツリと口を開く。


「帰ろう、白川さん」


そういうと、手に持っていた部長の拳銃を事務所の机に置いて、外に出た。


「皆は大丈夫かな…?」


外に出て早々、白川さんがポツリと言った。


「大丈夫じゃない?レンも行ったことだし、心配してないよ」


私がそう返した直後、町の入り口…の方から甲高い音が響き渡る。


「ほら…大丈夫だった」



白川さんたちの家に戻ると、私と白川さんで最後だったらしい。

無事に何事もなく、処置を終えて…あとは明日までの時間つぶしになった。


「レン…ちょっと散歩して来よう?」


私はレンを外に呼んで、2人で散歩に出かける。

別にこの町に詳しいわけでもないから、行くところも1か所くらいしか思いつかなかった。


トンネル横の獣道に入って行って、それから暫く坂を上っていく。


数百メートルほど上がっていくと、赤いペンキで塗られた木造の展望台が見えた。


「それで?なんだって家の中じゃダメだって?」

「何となくね…まだ慣れ切ってない彼らを困惑させるわけにもいかないし…余計な誤解は生みたくないから」


展望台を見上げながらそういうと、私は木造の建物に足を踏み入れた。


「さっきの処置…最後にちょっと気になるもの見つけちゃってね…ま、2回目の世界なんだから、ズレててもおかしくはないんだけれど…それでも、ちょっと引っかかって」


そう言いながら、1人分しか幅のない階段を上がっていく。


「何だなんだ…?話が見えないぜ?」

「順を追って話そうか…っと、その前に景色だね。相も変わらず綺麗な……」


会話しながら階段を上がって行って、あと少しで上がり切るところで、私は足を止める。

丁度、頭だけが登り切った景色を見れるくらいの所だ。


「ん?どうした?」


急に足を止めた私の横に、レンが来た。


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