表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter3 郷愁ラプソディ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/125

1.そこは異世界の日本 -4-

「レコードを見たら、日向は港とトンネルの向こう側だって」

「そう…じゃ、行こう…案内してくれる?」

「うん」


そう言って、レコードを閉じる白川さん。

すぐに、スタスタと歩き出す。

私もその後に付いていった。


「あ、紀子!私達は岬まで行ってくるね!あっちの方が多いみたいだから!」


玄関を出ると、丁度レンの車に乗り込みかけていた速水さんが私達に気づいて声をかけてくる。


「平岸さんもお願いしますね!」


私達は速水さんの声に、揃って手を振って答える。

2人そろって同じように、左手を上げて、首を少し傾げて手を振った。


速水さんは吹き出すように笑うと、手を振り返して助手席に入っていく。

ドアが閉まると、すぐに普段車内で聞く轟音が鳴り響いた。


思わず2人で耳を塞ぐ。

レンはゆっくりと小道に車を出すと、ノロノロとメイン通りに車を出していった。


「よく耳が割れないね」


車が見えなくなった頃、白川さんがポツリと言う。

その直後、甲高いエンジン音が田舎の町に鳴り響いた。


「慣れだよ慣れ」


私は淡々と答える。

白川さんの横に並んで、スタスタと目的地まで歩き出した。


「急がなくていいの?」

「大丈夫。まだ彼らは違反して間もない頃だから…」

「そう…でも、歩いて3分もすれば着く」

「なら猶更大丈夫だよ。気楽に行こう」


私達は2人並んで、歩いて潮風が吹いてくる方へと向かっていく。


港付近まで来ると、空気が少し生臭くなる。

晴れているというのに、道は濡れていて…見ると漁師さん達が魚を水揚げしているようだった。

港で働く女の人達が、網に入った魚を取ってはカゴに投げている。


私達はそれを横目に見ながら、レコードが示す違反者の元へと向かっていった。


作業のために威勢よく声を張り合う人達に、偶にビクッと驚きながら…

彼らの邪魔にならないように港の道を進んでいく。


「最初の対象は?」

「一番奥…ホラ、あの建物の2階にいる老人」


私の問いに、白川さんはレコードを一度見てから答えた。


「あの人だ。タバコを吸ってる白髪の男」


彼女はそういうと、ほんの少しだけ表情を強張らせた。

私は彼女を横目で見てから、彼女が指さした男に目を向ける。


「白髪の割には若いんじゃない?」

「そう…老人って言ったけど、40そこそこ…前の時は、平成でも居たから…」

「…印象悪いみたいだね」


私はほんの少し刺々しい言い方になった白川さんを見て言う。

彼女は、少しだけハッとした顔を浮かべると、すぐに元の表情に戻った。


「前の時はね…札幌から越してきた私を村八分にした男だから…ちょっと許せないの」

「……そうなんだ」

「結局、レコードを違反するまで、私と…家族と普通に接してくれたのは、今の仲間だけ……あのままレコードを犯さなかったら、私達はこの町に殺されてた…」


白川さんは淡々とそういうと、男がいる建物の扉に手をかけた。


「今となっては遠い昔。一歩引いてみるこの町は凄く綺麗で、素敵で…大好きだけど…そういう一面があるってことだね」


そう言いながら彼女は注射器を取り出した。


「別に、"2回目"の世界の彼に恨みなんてないよ。同じ人でも、レコードは入れ替わった別人だもの…私が知る彼はもういない」

「そう…だね。2回目は、別人だもんね」


私はどこか達観したような顔で、淡々という白川さんの言葉に頷きながら、彼女についていく。


2回目の彼は"別人"と言い切った白川さん。

私は…それを理解してても、きっとそうは思えないと思いながら言葉を返した。


少し寂れた建物内を歩いていく。

きっと、ここは漁業組合か何かの建物なのだろう…応接室のような部屋がいくつかあって…それを横目に見ながら廊下を進んでいく。


階段を上がって、煙草の匂いがする方へと歩いていくと、窓の外をじっと見ている男の背中が見えた。


「私がやって良い?」

「元よりそのつもり」


少し離れたところで小さく言葉を交わすと、白川さんはスーッと男の背後へと歩いていく。


「ねぇ、おじさん」


そう言って声をかける。

左手に持った手帳を開いて顔の横に掲げた彼女の方に、男が振り返った。


「レコードによると…あなたは、この町の例大祭の行事を取り仕切っていた人とある」


振り返ってただただ、何も言わずに白川さんを見つめる男に、彼女は淡々と続けた。


「30年後には、ちょっとした観光行事にまで成長させた張本人…だけど、今まで行われてきた例大祭は他とちょっと違うよね…特に13年に1度だけ行われる秘祭は…」


そう言って、彼女は男ののど元に注射器を突き立てる。

押し棒は引かずに、針を奥まで突き刺していった。

そこそこ長い注射器の針が刺さっていく。

私はほんの少しだけ目を見開いた。


「…嘘つき」


白川さんはそう言って男に突き立てた注射器の押し棒を押していく。

中に入った虹色の液体が消える頃には、刺々しい雰囲気を繕っていた男は憑き物が落ちたように爽やかなご老人になっていた。


「次、行こう」


私は改変された男のレコードを白川さんに見せると、すぐに来た道に振り返った。

白川さんは一目でさっと見てレコードを私に返すと、普段はレンがいる位置に来る。


「ちぇ…神様も人が良すぎる」

「最期は重度の認知症で町を徘徊している最中海に落ちて死ぬって。十分じゃない?」

「あの男の最期にしては生温い」


来た道を戻って、建物の外に出る。

空調の効いた建物から出ると、少し暑さを感じて…その後ですぐに、海からの涼しい潮風が私達に吹いてくる。


「レコード違反…次は何処?」


白川さんは、風のせいで乱れた髪をかき分けながら言った。


「トンネルの向こう」


私はそう言って、港からほど近いトンネルを指さす。


「そう…後は?」

「全員そこだよ。トンネルの向こうの建設会社に3人」


私はそう言って、白川さんから借りた拳銃を取り出す。

さっきも確認したように、スライドを少し引いて、薬室に弾が入っているかをチェックする。


「拳銃…?」

「レコード見たの。注射器でもいいけど、殺した方が良さそうだしね」


私はそう言って口元を笑わせる。

白川さんは私が言いたいことを察したのか、小さく何度か頷いた。


2人で狭い歩道に並んで歩く。

港の建物から、トンネルはすぐだった。


何時か銃撃戦になった展望台へと続くけもの道を横目に見て、この時代にしてはしっかりとした作りのトンネルに入っていく。


「さっき、あの男を処置するとき、例大祭って言ったでしょ?」

「言ったね。レンから聞いたことあるよ。よく覚えてないけど、凄い綺麗で…狭い町とは思えないくらいに屋台とかも出てて…楽しいんだって?」


私と白川さんは、歩道のないトンネルの中…右車線の端を歩きながら口を開く。


「そうだね。少なくとも、平成になってからはそう…のけ者扱いな私でも、その時だけは楽しかったよ」


白川さんはそう言って小さく笑みを浮かべる。


「でも、私の味方は両親と、今一緒にいる皆だけだった。それが事実」



トンネルを出て、ほんの少しだけまっすぐ歩いていくと、すぐに道の突き当たりが見えた。

トンネル先にも、街の続きがあるわけではなく、ただの1本道があるだけだった。


「何件かの家と…一番奥の建物は…建設会社?」

「そうだよ」

「トンネルを掘る意味あった?これ」


私はそう言って、レコードをもう一度だけ確認してからポケットに仕舞う。

代わりに虹色の注射器を取り出して、押し棒を引いた。


「さぁ…どうだろ?それで、レナ。あの会社の中の人全員が対象で合ってる?」

「合ってる。早く片付けて家に戻ろう」


トンネルを出て、短い直線を突き当たりまで行ったところに建つ建物の前まで来た。

私は白川さんの顔を一度だけ見ると、無表情で私を見返した彼女に小さく笑って見せる。


「アーユーレディー?」

「イエー」


ちょっと前に流行りだった曲の出だしを、2人そろって乾いたテンションで言い合うと、私は扉に手をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ