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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス
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5.ノスタルジックな風に乗って -4-

「僕達が居てラッキーって所かな。速水さん他の人呼んできて。拳銃もあるよね?」

「は、はい!今すぐに!」


前田さんの、氷点下20度くらいに感じる冷たい言葉で、速水さんは家の方に駆けていく。

一気に増した緊張感。

私もレンも、持ってきていた拳銃を取り出すと、消音器を銃口に取り付けて、スライドを引いて初弾を薬室に送り込んだ。


「パラレルキーパーのお仕事だけどね。今はここが震源地…今レコードにある連中を消せば終わりさ…丁度あの展望台…レンを借りるよ。レナは速水さん達を連れてきて…」

「わかりました」


短いやり取りを済ませると、前田さんはレンの方に振り返った後で駆けだす。

レンも、私の顔を1度見返すと、すぐに前田さんの後を追いかけていった。


一人取り残された私は、レコードを開いて何が起きたのかを改めて確認する。

いや、この前までずっと、レコード違反者と別世界人の対処に追われていたせいで、すっかり慣れてしまったこの感覚。

レコードを開くと、ズラリと別世界から紛れ込んだ人間の名前が羅列された。


「ちゃんと動いてる…こんなに早く動かなくてもよかったんだけど…あの展望台に転送装置…人数はそこそこいるけど…抑えきれる」


私はレコードをポケットに仕舞い込み、ひとり呟くと、丁度、速水さんが入っていった家からぞろぞろと同じ年頃の男女が出てきた。


皆、東京でもそうだったように、扱いなれていない拳銃を持って…一様に表情は不安げだ。


「行こう…トンネルの上にある展望台。わかるよね?」


私は短くそう告げて駆けだす。


「わかります!」


すぐ付いてきた速水さんが答える。

私はそれを聞くと、何も返さずにトンネルの方へと足を進めた。


「最近機能が追加されてる。別世界の流入を知らせる機能…知ってた?」

「はい!…コトさんが教えてくれました…」

「それの対処が注射器じゃないことも?」

「え?」

「もう、この機能で挙がった人間には注射器も、手帳も効かないの」

「何で…です?」


私はトンネルが見えたので、走るのをやめ…ゆっくりと彼女の方に…この町のレコードキーパーの方へと振り返った。


「自分に自覚があるから…自覚がなければ手帳も注射器も効く…でも、自らレコードを自覚して、それを破っているのなら…そいつにはもう何も効かない…」


私はトンネルの上の方からかすかに聞こえる人の叫び声を聞きながら言った。


「普段の処置では、自覚をしていない人間が挙がって…手帳とかで黙らせて注射器で処置する…だけど、今から対処しに行く人間たちにはもう手帳なんて効かない…だからこうやって殺すしかなくなる」


私は淡々とした口調で、トンネル脇のけもの道に入っていった。

岩でできた階段を上り、このまま展望台に上がるか…役場の方へと降りていくかの分かれ道に立ち止まる。


「今まで…そうだね…2015年までは、こんなことなんて起きなかった…だから、何処のレコードキーパーも、注射器と手帳で事が済んでた。だけど、時を戻してから、入ってくる人たちの性質が変わったんだ…きっと…これを調べるのはパラレルキーパーの仕事だけど…前に立つ私達は…こうして銃を持って撃つしかない」


私は先頭に立って、速水さんたちの方へ振り返って言った。

彼女達は、皆一様に、手に持った拳銃を見下ろして、少しだけ体を震わせる。


「いい?部長がなんて言ったか分からないけど、レコードキーパーになった以上、そこら辺の人間はただただレコードに従うだけのロボット。それが暴走したら…紛い物が混ざったら、処置しないとダメなの…」


そう、言うだけ言って、私は先行した前田さんとレンが登って行っているであろう展望台への道を歩き出した。


「そうそう…死んでも復活するけど…個人差があるから気を付けて…慣れてきたら…すぐに生き返ることができるけど…こうやって…」


私は道の途中で、そう言いながら後ろを付いてくる彼らに振り返って…流れるような動作で首元に銃口を突き付けると、躊躇なく引き金を引いた。


速水さん達…6人の驚愕した表情を見た直後…弾丸は喉元から脳を貫く。

一瞬力を失った体はふら付くが…すぐに生気を取り戻して生き返り…驚いた彼らを一通り見回して、向かう先に向き直る。


「今はすぐに生き返る。でも、疲れてたり、5回も6回も短期間に死ぬと…そう簡単にはこの調子で戻らない。体が千切れるような痛みに襲われるから…死ねるといって無茶はしないでね」


そういいながら先に進むと、不意に飛んできた弾丸が、私達の頭上の木の枝を貫いていった。


悲鳴を上げて身を凍らせる速水さん達。

私は手ごろな木に身を隠す。


そっと顔を出して先を見ると…レンと前田さんらしき人影が、展望台の方に向けて銃を撃っている様子が微かに見えた。


どうやらここに飛んできたのは流れ弾らしい。


「っと…そろそろだね。間違っても誤射はしないでよ。前にレンと前田さんが居るんだから」


私は道の反対側の木に隠れた速水さん方にそういうと、付いてくるように手招きして木から身を出した。


速水さんの方に駆けていって彼女達が隠れた木の横に立つ。


「ねぇ、あの展望台って、どこかから回り込めたりしないの?」

「無理…ですよ。あの展望台の横は木々に囲まれてて…崖になってる。落ちたら…まぁ、下の道路か海まで一直線かな……」


私の問いに、一番図体の大きな男子が答える。

見た目野球部といった感じの、肌が日に焼けた彼は、図体からは想像できないくらい弱弱しい声で言った。


「そ、ならいいや。貴方達はこれ、東京でも撃たなかったんでしょ?」

「はい…結局…」

「予備の弾倉ってある?こういうの」


私は木の陰から、先をチラッと見た後…ポケットから予備弾倉を取り出して見せていった。

彼らは、私の持つ拳銃のものよりも一回り大きな弾倉をポケットから取り出す。

私はそれを見ると、小さく頷いた。


「なら、まずは撃てばいいか…いい?」


私はそういって、彼ら6人を見回す。

彼らは皆、唾を呑み込んで、私の方に顔を寄せた。


 ・

 ・


隠れていた木から飛び出した私は、視界に見える前田さんの真横めがけて駆けていく。

途中、私の姿が展望台から見えたのか、何発かの銃弾が足元やすぐそばを通り抜けていった。


「…っと!」


奇跡的に撃ち抜かれず、前田さんが隠れた木の真横に飛び込む。

ふーっとため息をつくと、私に気づいていた前田さんがこちらを見ていた。


「遅かった」

「すいません…どんな状況です?」

「レコードの通り。数が多すぎる」


前田さんはそういうと、銃弾の雨が少し止んだ後、木から身を乗り出して数発撃ちこむ。

1,2人分の悲鳴が聞こえた後、ドシャ!っという音が聞こえた。

そして、前田さんが再び隠れてしゃがむと…その頭上を銃弾が貫いていく。


「な?」

「ですね…」


銃弾の雨にすっかり慣れ切った様子の彼女は、表情一つ変えずに弾倉を入れ替える。


「前田さん、向こうの銃声が止めば突っ込めます?」

「……恐らくできる」


私の言葉に、彼女は少し考えた後で、そういった。

私は頷くと、少し離れたところにいるレンに顔を向ける。

レンも私に気づいたらしく、こっちを見た。


「レン!速水さん達の援護よろしくね」

「何だって?」

「いいの!ただ撃ってるだけで!」


レンにそう言った直後、私達の背後から一斉に銃声が鳴り響く。


「前田さん行って!」


私はそういって木から身を乗り出して、展望台の方に狙いもつけずに銃を放つ。

前田さんも、私の声と銃声に反応して、間髪入れずに木から飛び出した。


速水さん達に言ったのは…とにかく何でもいいから展望台を撃ちまくること。

少なくとも、私と前田さんが展望台に突入するまでは…ずっと撃ち続けて釘付けにすること。


そう言った甲斐もあって、私と前田さんが駆けだした頭上…先ほどから撃たれ続けていた展望台の2階に向けて、6人分…レンも撃っているなら7人分の銃弾が一気に2階を貫くわけだ。


一瞬、向こうからの銃声が止んだ隙に、私と前田さんは一気に展望台の一階部分に入っていく。

私は前田さんのちょっと後ろから…彼女の邪魔をしないように入っていった。


1階部分まで下りてきていた別世界からの侵入者は、怯んだすきに前田さんに撃ち抜かれていった。


「ちょっと来てもらおう」


1階の中央付近…

急所を外れたのか、すぐに死ななかった男が、いとも簡単に前田さんに捕まる。

私は軽々と…前田さんよりも一回りちょっと大きな体躯の男を振り回す彼女を見て唖然としながら彼女についていく。


男を盾にしながら階段を上がっていった彼女は、右手で男を持って…左手だけで拳銃を撃っているにも関わらず、踊り場に降りてきた男や…階段を上った先にいる男を撃ち抜いていく。


私は階段の下から、転がってくる死体を交わしながら…何もできずに彼女の後を追うだけだった。


前田さんはそのまま階段を上がっていき、まだ息がある男を意図も容易く締め上げて、展望台の2階に立つ。

その頃には、レンや速水さん達の銃撃も止んでいた。


男を盾に取った姿で現れた彼女を見て、2階の侵入者たちは一瞬怯んだらしい。

前田さんは簡単に、2階の連中を撃ち抜いて片付けると、盾替わりにしていた男を蹴飛ばして、そのまま男に数発撃ち込んで射殺する。


階段の踊り場で、そんな一部始終を見た私は、ただただ手際が良い前田さんを見て口を半開きにしながら2階へと上がっていった。


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