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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス

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5.ノスタルジックな風に乗って -5-

「お見事……」

「そんなことよりも、転送装置を見つけて壊さないと…」


前田さんのやり方に圧倒されている私をよそに、彼女は淡々とそういって周囲を見回す。

私も、銃の安全装置をかけると、前田さんの見ていない方へ顔を動かした。


狭い展望台。

私は階段のすぐ近くに倒れた男を足で転がす。

1人目の男は只持っていた拳銃しか落とさなかったが、2人目の男を転がしたときに、ポケットから筒状の機械が落ちてきた。


「あ、前田さんありました」


この前、空港で見かけたものとよく似たモニター画面のついた機械を拾い上げた私は、そういって彼女を呼ぶ。


「これですよね」


無言で歩み寄ってきた彼女に、機械を手渡すと、彼女は細部をサラリと確認した後に頷いた。


「間違いない。これで仕事も終わり…」


前田さんが、表情をほんの少しだけ和らげる。

丁度、レン達が展望台の上に上がってきた。


「レン、ありがとね」

「ああ…終わったみたいだな」


すっかりと定位置と化した私の左隣に立った彼は、周囲の惨状を見て銃の安全装置をかける。

速水さん達は、死体が無造作に倒れている光景を見て、ほんの少し表情を曇らせた。


「ご苦労様…貴方達は特に慣れていないのに、良く撃てた…それだけで評価してもいい」


前田さんは、レコードに何かを書きながら、速水さん方に言った。


「遅れながら自己紹介しようか…僕は前田千尋。パラレルキーパーをやっている。ここは僕達の仲間が処理するから、このまま放っておいて構わない」


前田さんはそういって、レコードをポケットにしまうと、速水さん達の方を向いて首を小さく傾げた。


「は…速水香苗です…まだレコードキーパーになって数か月…慣れてないことだらけで、ご迷惑をおかけします」


前田さんと目が合った速水さんは、そういってペコリと頭を下げた。


「隈川澪です…よろしくお願いします」


その次に、速水さんの横に立つ男子がそういって頭を下げる。

レンよりも一回り小柄で、気の弱そうな、大人しそうな男の子だ。


「長坂佳祐です。東京ではお騒がせしました…一刻も早く戦力になれるよう頑張ります」


その横の、さっき少しだけ会話した野球部っぽい男子が挨拶する。

彼はさっきまで緊張して震えていた様子だったが、今はハキハキとした様子で口を開いていた。


「古知屋一治です。徐々にこういうことにも慣れていけるようにします…」


男性陣の最後は、まだ緊張が解けていなさそうな男子だった。

ガタイだけなら、柔道でもやっていそうなくらいしっかりしているのだが…まぁ、仕方がない。


「尾道南奈…です。本当は私が一番しっかりしないといけないのですけど…すいません…」


古知屋君の後ろにいた彼女は、そういうと深々と頭を下げる。


「一番しっかりしないとって…?もしかして、尾道さんって…」

「はい…この子たちよりも1つ上の学年なんです。だから…しっかりしないとって…」


私が呟くように言った言葉に、彼女はそう返すと、下を向いてしまった。


「そう…それでで…最後が……」


私はそれ以上は何も言わずに、尾道さんの横にいる、私と同じか、それ以上に小柄な女の子を見た。


「白川紀子…です…」


隈川君以上に大人しそうな子だ。私から毒っ気を抜けばそうなりそうな感じ。


「こっちのレナとレンは良いだろう…きっと知ってるだろうし…」


前田さんは白川さんの言葉の後すぐにそう言うと、レコードを取り出して何かを書き込む。


「まぁ…今回みたいなことが起きても、対処できるようにならないとだね…まずは」


私はレコードに書き込んでいる前田さんの代わりに口を開く。


「きっと色々と部長から言われてると思うけど…そうだ、車とかってあるの?」

「持ってない…というか持てない年だよね?俺らも君達も」


古知屋君が不思議そうな顔をして言う。


「まぁ、普通はそうなるわな…」


レンがすぐに反応した。


「管轄内のレコード違反とか別世界の流入は、貴方達で対処することになるんだけど…もしそれが遠かったら?…その時はレコードの最後のページ…自分の情報を書き換えて…車に乗ってでも対処に行かないとだめなの」


私はそういって、レコードの最後のページを開いて見せた。


「実際、今はレンに運転してもらってここまで来てるんだしね。車は……前田さん、どうにかなります?」


前田さんに話を振る。

そういえば、車は芹沢さんが用意してくれたものを使う他なかったから、調達方法がわからなかったのだ。


前田さんは一瞬私の顔をじっと見ると、すぐに何かを察したのか、操作していたレコードを閉じて速水さん達の方に顔を上げた。


「………そこら辺は僕達が窓口になることにする。とりあえず、今、パラレルキーパーを2人、ココに派遣するように要請した。彼らに言えば、車も何とかなる」


前田さんはそういうと、私の方に向き直る。


「そういえば、彼等家具とか家電はいいのか?」

「さぁ……でも、ここからでも、榎田さんの所しかないですよ」

「なるほど」


ほんの少し、2人で確認を取ると、再び前田さんが速水さんの方に向き直る。


「家具とか家電とか、大きなものに関してもここに来るパラレルキーパーに聞いてほしい」


そういうと、前田さんはゆっくりと展望台の階段の方に足を向ける。


「2人…確かそのうちの1人はココの出身だ。ちょっと独特な口調の女だけど」


そういって階段を下りていく前田さん。

私達も、それに続いた。

私とレンは、速水さん達を先に行かせて、そのあとを付いていく。


「前田さんが居てくれて助かったな」


展望台を降りて、元来たけものみちを下っている最中。レンはふと言った。


「そうだね。ここにもパラレルキーパーが居てくれるみたいだし」

「……あ、ああ…そうだな」


私は少しだけ歯切れ悪く答えたレンの方をチラッと見る。


「?……何かあった?もしかしてそのパラレルキーパーの人と東京で会ってたの?同じ仕事してたとかさ」


私は不思議に思いながらも、とりあえず思い付いたことを聞いてみる。

レンは何度か視線を泳がせると、小さく頷いた。


「ああ…向こうにいたときに、レナが芹沢さんといたときにな?俺が組ませてもらったパラレルキーパーの2人組がそうかなって」

「ふーん……珍しいね。この町出身なんて」


私は普段の様子に戻ったレンを見て、少し首をかしげながら言う。

レンも頷いた。


「ああ…男女で…女の人の方がさ、何っていうかなぁ…まぁ、ちょっと口調が独特なんだ。ま、聞き取れる範疇だけど」

「へぇ……」

「どうする?ただ仕事しに来ただけみたいになっちまったが」

「いいんじゃない?…仕事するために来たんだし」


私はそういうと、手に持った拳銃を服のポケットに仕舞った。

レンも、同じように拳銃をジャケットの内側に仕舞いこむ。


「暫くは私達の手もいらなさそうだしね。パラレルキーパーがいるのなら」


ほんの少し歩いて、分かれ道に来る。

速水さん達は階段の方に足を進めたが、私とレンはそのまま立ち止まって、速水さん達を見送った。


前田さんに後を任せて、私達は役場の方へと降りていく。

ほんの数百メートルも歩けば、さっき車を止めた役場の駐車場が見えてきた。


「さて…帰るか」


レンはそう言って、ロックされていない車のドアを開ける。

私も、助手席のドアを開けると、背の低い車の助手席に収まった。


ジェットコースターのシートベルトのような、4点式のシートベルトを少し緩めに締めて、窓を開ける。


そうしている間に、レンはキーを差し込んで、クイっと捻った。

すっかり聞きなれた派手なエンジン音が背後のガラス越しに聞こえてくる。


レンは数度空ぶかしすると、ギアを入れてゆっくりと車を発進させた。


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