1.それは遠い昔の2人 -3-
4月になって、気づけばもう2週間。
あれだけ忙しかった2月3月が嘘のように暇になり、普通の生活に戻っていた。
部長達のように大人ではなく、実年齢が高校生な私とレンは、2度目の入学式を終えて、面白みのない高校生活を送っている。
ともに1年4組。
一番後ろの席で並んで座って…眠くなる授業を1日中聞いて…
授業が終わると、新たに私達が占拠した教室に入り浸るか、それか銀河通り商店街のアップルスターでコーヒーを飲んで帰るかのどちらか。
関わる人もおらず、平和な日々。
ちょっと暇だなと思えてきたが…この前みたいに、世界が消えるみたいなドタバタ劇はごめんだが…
「駅裏に出た違反者は誰がやるんだ?」
放課後の教室で、さっきレコードに届いた違反者の通知を見ながらレンが言った。
私は一度立ち上がって、コートを着たが…レンの言葉を聞いて席に着く。
「違反者?出たっけ?」
近場で違反者が出れば気づかないはずがない。
私は不思議に思いながらも、コートからレコードを取り出した。
"違反者 1名"
簡単に、そう告げた文面が浮かび上がる。
私はそれを見てレコードを閉じると、携帯電話を取り出した。
着信は入っていない。
「私達の番じゃないよ。チャーリーとリン達の番だったね。そういえば」
そう言って再び鞄を持って立ち上がる。
「そっか。にしてもレナが気づかないなんて珍しいな」
「……だね。そんな日もあるってことかな」
同じように席から立ったレンは、鞄を持って立ち上がり、私の左横に並ぶ。
「何か…機嫌悪い日ってか?」
「いや」
そう言って、廊下にたむろする顔も知らない同級生をよけて歩いていく。
「そうか…」
レンはほんの少し、解せなさそうな顔を見せるけど、すぐに元の顔に戻った。
「ねぇ…」
下駄箱でまで互いに無言で来て…靴を履き替えた。
さぁ帰ろう…といったとき、私はレンに声をかける。
「何だ?」
少し前を歩いて、玄関の扉を開けたレンは私の方を見る。
私は他の人の邪魔にならないように、彼を押して外に出ると、少しだけ腕時計に目を落としてからレンの方を見た。
「寄りたいお店あるんだけど」
「…それだけ?」
「それだけ」
そう言って、私は歩き出す。
横にいたレンも、少し遅れた後でついてきて、私の横に並んだ。
「……どんな店だ?」
「喫茶店…いつものアップルスターじゃなくて…もっと駅よりの」
「駅より?あったかそんなん…」
「地下街に行く途中…地下につながる階段の踊り場にね」
「ああ…あそこか……」
レンはそういうと、ハッとした顔を見せて私の方を見た。
私は彼の顔を見て、ふーっとため息をつく。
「……バレちゃった?」
「ああ…」
「目的は母親じゃないよ、お父さんの方。本当の…ね」
私はそういうと、少し下を向く。
「この前、偶々レンと別々に帰った日があったでしょ?その時にすれ違ってさ…お父さんと、ここにいるのはもう他人だけど…ちょっと一目見てみたくなって」
「……いいのか?すぐ間近にいたらアウトだったはずだよな?」
「喫茶店の端から端の距離なら、大丈夫だよ。レンもいるし…歯止め役、お願いね」
私は苦笑いを浮かべてレンの方を見る。
本当に、母親はこの手で今すぐにでも殺してやりたいくらいには恨んでいるが…お父さんの方はその逆だ。
できることなら、ここでレコードを違反してもらって仲間になってくれればいいのにと思う程に。
そんな風に思ってるのに、顔はこの前まで思い出せなかった。
思い出したのはこの前、偶々車に乗っていた時に横に並んだからだ。
最初見たときは20前半の男かと思った。
濃銀の車に乗っていた男は本当は30手前。
横に乗せていたのは、私の母親だ。
お父さんは想像よりもずっと童顔で、子供のころはやけに大きく見えたのに…今見ると、小柄でひょろりとしている。
母親は記憶よりも数倍、数百倍綺麗で、私が覚えている女とは大違いだった。
2人とも似合っていた。
あの車は、お父さんが死んだときにも職場に乗っていっていたやつだ。
妹と、後ろのチャイルドシートに座って…週末はどこかへ行くことも多かった…はずだ。覚えてないけど。
「歯止め役…ねぇ…」
レンが少し渋った顔をする。
私も、理由が知られればそういった顔をされると思ってたから、苦笑いを顔に張り付けたまま彼をじっと見つめた。
「そんな顔すんなよ、大体端から反対する気なんてないんだ…ただ…」
「ただ?」
少し、予想外の回答をしたレン。
苦笑いを辞めて、元の無表情に戻った私はじっと次の言葉を待った。
「まだ、止めれる自信がないってだけだよ」
そう言って、少しバツが悪そうに目をそむける。
「そんな、レンならこんな小さな……」
私はそこまで言いかけて、レンが言った意味を考えて、暫く無言になった。
「レナってロボットみたいに顔変わんないけど、母さんのことになると目付きからガラッと変わるんだよな」
「……」
レンの言葉に返すこともできず、今度は私が彼から目を背けた。
「レナが引っ越してからどんなんだったかは…この前少しだけレコードを見て知ったんだ。親絡みだし、あんまり強く出れないなって思ってた。実際、俺のことはそうやって気を効かせてくれたろ?」
「……そうかな」
下校道を、まだ行くとも決まっていない駅に向かいながら歩く2人。
「でもよ、あんなん見たら、流石にどうにかしてやらないとって思うんだ。まだ2か月一緒にいるかどうかってとこだけど」
「……」
「だから…ってわけじゃない。無理強いもしないけど、今日は止めにしてくれないか?まだ…レナを止めきれる気がしないから…レナの過去を見て…ああなるのが分かっちまうから……」
そういうと、レンはこっちを向いて、少し恥ずかしさと気まずさをブレンドさせた顔を見せる。
私もそんなレンを見てどう返そうかと少し悩んでいた時、バッグの中の携帯電話が鳴り響いた。
「…このタイミングって誰だろ?」
バックを開けて、安っぽい電子音を鳴らしている携帯電話を取ってみる。
番号は登録している相手ではなかった。
「誰だ?」
「知らない…でも、出ないと、ダメだよね?」
「じゃないの?俺等に電話かけるなんて、そういった人間なんだろきっと」
私もレンも、さっきまでの微妙な空気はどこへやら。
この前の1件もあったせいか、少し緊張感を取り戻して、電話に出る。
「もしもし…?」
少しだけ、探るような声で言った。




