第六十三話『魔剣ファーレンハイト 後編』
大変おまたせいたしましたm(_ _;)m
一年以上も更新が滞って申し訳ないです。
クオンはカリンを背中に隠しながら、エレナにゆっくりと口を開いた。
「いきなり何を言ってるんですか。」
「無論、根拠ならある。」
エレナは作業台の上に置かれた魔剣ファーレンハイトを指差す。
「このルーペは様々なモノが見える優れものでな。これで見たとき、魔剣とカリン君に未知の繋りがあるのが見えた。そして、魔剣はカリン君の何かを利用して、何かを生成している。徐々に魔剣に何かが充填されているのも見えた。おそらく、その為に魔剣はカリン君の元へと戻ってくるのだろう。」
クオン達はエレナの言葉に驚く。カリンの何か、はきっと竜角の事だ。一体何を生成しているのだろうか。エレナは言葉を続ける。
「ほんのわずかだが、カリン君の魔力の流れが普通の人間とは違う。頭部だけに偏りが見られる。つまり、普通の人間ではない事を示唆している。」
カリンの魔力の流れ、特に竜角への流れは結ばれたリボンで隠蔽されている。それを見抜いたのかとクオンは驚いた。
「さて、ここで君達に提案だ。」
「提案?」
「そうだ。カリン君の事を教えてくれれば、私が魔剣の謎を解いて見せよう。無論、他人には話さないと誓おう。」
クオンは考える。エレナはカリンが竜角人だとまでは気づいていない。できれば竜角人の事は教えたくはない。しかし、魔剣とカリンの関係に謎が残るのもこの先怖い。
「それは、博士に利益があるのですか?」
エレナの提案の理由がよく分からなかった。すると、エレナは何を言ってるんだという表情になる。
「何を言う。この私が一目見ても理解できない少女と魔剣の謎が分かるかもしれんのだぞ。研究者冥利に尽きるではないか。」
エレナは胸を張って言う。その姿はハーヴィー博士と重なる。本気でそう思っているようだった。
「少し時間をください。」
「ああ、いいぞ。」
クオン達三人はエレナから少し離れたところで相談を始めた。
「竜角の事は話したくないんだけど、あの魔剣がカリンから離れない理由も気になるんだよね。魔剣の事が、命に関わる事じゃなければ突っぱねていいんだけど...」
「クオンから見て、リングウッド博士は信用できそうなの?」
「うーん、判断に困るね。僕も今日が初対面だし、高名な研究者って事しか知らないよ。一応、悪い噂は聞いたことはないけど。」
カリンは少し考えた後、意を決した表情で口を開いた。
「私は、話していいと思う。」
クオンとリッカはカリンを見る。二人の心配そうな表情を受けて、カリンは微笑んだ。
「いつまでも怖がってばかりもいられないよ。これから先も、こういう事あると思うし。それに、クオンとリッカが守ってくれるでしょ?」
カリンの言葉に、クオンとリッカは頷く。クオン達三人はエレナの方を向いた。
「相談は終わったか?」
「はい。博士だけに教えます。この事は他言無用です。他の誰にも言わないでください。...もし約束を違えたら、僕が博士を斬り捨てます。」
「ほう。それは怖いな。肝に銘じておこう。さあ、早く見せてくれ。」
エレナは興味津々といった顔でカリンを見ている。居心地の悪さを感じながら、カリンはリボンを解いていく。露わになった白い竜角を見て、エレナの目が点になった。今まで余裕のある表情だったが、流石にこれは予想外だったようだ。
「まさか...竜角人か?生き残っていたとは...」
エレナはゆっくりとカリンの方へ近づいて来た。カリンはひっ、と小さく悲鳴を上げる。そこでカリンとエレナの間にクオンが割って入る。
「触っちゃダメですよ。見るだけです。」
「えー。少しだけでいいから。」
「ダメったらダメです!」
クオンに阻まれ、エレナは名残惜しそうに触ろうとするのを諦めた。カリンはほっと息を吐く。
「なるほどな。だから隠していたのか。確かに、オストシルトの連中にでも知られたら大変だ。あそこには不老不死を求めている奴がまだわんさかといるからな。」
エレナは一人で納得した様子だった。クオンはエレナが白磁の竜角のことについてどう思ってるのか尋ねてみる。
「博士は、竜角の不老不死についてどう思ってるんですか。」
「んー?興味無い訳じゃないが、流石に殺してまで得ようとは思わんぞ。そこまでマッドサイエンティストではない。まあ、天寿を全うした後で一欠片くらい譲ってくれたら嬉しいが。」
「...考えておきます。」
油断はできないが、エレナは不老不死に拘泥するようには見えなかった。
「なるほど。魔剣は、カリン君の竜角を利用して何かを生成しているようだな。」
「私の竜角で...?」
カリンは自分の竜角を触る。何かされているような感じはしない。リッカが心配そうな表情で言う。
「ねえ、それって大丈夫なの?カリンの竜角減ったりしてないよね?」
「こ、怖いこと言わないでよリッカ。」
リッカの言葉にカリンは青ざめる。エレナは再びルーペでじーっと竜角を観察する。
「詳しい事は分からんが、今のところ体調に問題なければいいのではないか?竜角に何かあればカリン君は変調をきたすはずだ。」
「そうですね。カリン、体調悪くなったらすぐに言うんだよ。」
「ん。分かった。」
魔剣の効果が不明な以上、用心しておくに越したことはない。
「さて、いろいろと調べて見ようか。」
エレナは様々な器具や装置を引っ張り出す。クオンとリッカに見守られつつ、エレナはカリンと魔剣を調べ始めるのであった。
*********
エアリー達一行はオリヴィエ神殿を発ち、ゼイトゥーン神殿へと着いた。エアリー達がゼイトゥーン神殿の前に降り立つと、神殿からフォノラとパーラが駆け出してくる。
「フェルス!」
フォノラはフェルスに抱きつく。遅れてパーラも追いついた。
「良かった...無事だったのね。」
「ごめんなさいフォノラ。心配をかけてしまって。」
二人が抱き合っているところに、リソスフェアとアセノスフェアが来る。アセノスフェアを見てパーラが声を上げる。
「アセノスフェア様!正気に戻られたんですね!」
嬉しそうなパーラに、アセノスフェアはバツの悪そうな表情になる。
「うん。ごめんね。なんか暴れちゃってたみたいで。」
「いいえ。正気に戻られて良かったです。皆も喜びます。」
フォノラはフェルスからオリヴィエ神殿の状況を聞く。神官達が行方不明と聞いて、フォノラは心配していた。
「立ちっぱなしもあれだし、神殿の中へ入りましょうか。」
フォノラがそう言うと、エアリーが口を開いた。
「それでは、私とプラットはゼノリス王に報告に参りますのでここで失礼します。皆さんはどうしますか?」
「そうね。私達はここに残るわ。申し訳ないけれど、私達がここにいる事を伝えてくれないかしら。」
「承知しました。」
その時、フォノラはゾクッと背中に寒気を感じた。いつものフェルスらしい表情。そこに何か寒いものを感じた気がした。
「ううん。きっと気のせいよね。」
フォノラは頭を振る。もう一度フェルスの方を見ても先程の寒気は感じない。湧き出た疑念を消した。
「あ、リソスフェア様、ちょっと待ってください。」
「どうしたの?」
神殿へと向かおうとするリソスフェアを呼び止めると、エアリーは支援用ゴーレムの一体、イオを召喚する。
「この子、イオを残しておきますね。プラットとリンクしているので、もしアセノスフェア様達に何かあればすぐ分かります。」
「分かったわ。よろしくね。イオ。」
「ピピピー。」
こうして、エアリーとプラットはリソスフェア達をゼイトゥーン神殿に残し、マンテリウム城へと向かうのであった。
*********
エレナの地下研究室では、魔剣ファーレンハイトの調査が続いていた。
「クオン君。この魔剣には何か機能がないのかね。」
「機能ですか?」
「未知の何かを充填しているのは分かった。それを放出することができないかと思ってね。」
「機能と言っても、最初は炎だったということぐらいしか分からないですよ。」
「ふむ。ではとりあえず魔剣をいじってみてくれ。」
クオンは魔剣を持つ。特に変わった様子はない。刀身や柄にも何かギミックがあるようには見えない。変わったところと言えば、刀身の根本に蒼い結晶が嵌め込まれているくらいだ。いろんな場所を触れたり握ったりしてみるが、変わった様子はない。
「煮詰まってしまったな。少し休憩しようか。ちょっと待っておれ。」
エレナはそう言うと地下研究室から出ていく。クオンは作業台の上に魔剣を置くとふーっと息を吐いた。
「カリン、何か体調に変化はある?」
「ううん。特にないよ。大丈夫。」
カリンは竜角を撫でながら言う。見た感じも、やはり変化があるようには見えなかった。
「その姿久しぶりに見た気がするー。やっぱり綺麗だねぇ。」
「そうだったっけ?」
「そうだよー。なんだかんだで恥ずかしがって見せないだもん。」
そう話していると、エレナが戻ってきた。
「人間用の応接間があるから、そこで休憩してくれ。」
「人間用ですか?」
「そうだ。地下世界は気温が高すぎて人間に合うものがだせん。だから来客用に設置しておる。氷檻の指輪は熱を放出するだけだしの。吸う空気には作用するが、食い物までは対応しとらん。ぬるーいお茶でいいのなら別に構わんが?」
「いえ!冷たいお茶が飲みたいです!」
リッカがビシッと手を挙げる。エレナは苦笑しつつ、クオン達を応接室へと案内した。
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エアリーを乗せたヘイフォードは、再びマンテリウム城の中庭に着陸する。ゼノリス王との謁見はすぐに行われた。ハルツ宰相も側に控えている。エアリーは今までの経緯を報告した。
「そうか。アセノスフェア様が元に戻られたか。これは朗報だ。」
ゼノリス王は安堵した表情を見せる。
「はい。現在、ゼイトゥーン神殿におられます。リソスフェア様とフェルス様もご一緒です。王国の状況はどうなっていますか?」
「現在は沈静化している。騎士団も休ませているところだ。」
「ですが、次はどんな手で来るかが不明だ。アセノスフェア様が正気に戻った以上、また同じ手で仕掛けてくるか、はたまた別の手を使うのか。」
「うむ。後手に回ってはいるが、収穫も少なからずあった。冒険者達が蒼銀の炎を手に入れたのだ。」
「本当ですか?」
「しかも、どうやらその正体は魔剣ファーレンハイトらしい。今、リングウッド博士が調べているはずだ。」
「私も見に行ってもよろしいでしょうか。」
「構わない。また状況が変わったら連絡する。その時はよろしく頼む。」
「はい。ゼノリス王。」
エアリーは謁見の間を下がると、兵士に案内されて、リングウッド博士の研究室へと向かうのであった。
*********
クオン達がエレナと応接間で休憩していると、チリンチリンと鈴の音がした。来客のようだ、とエレナは言うと応接間から出ていった。少し待っているとエレナが戻ってきた。
「あれ?来客があったんじゃないんですか?」
「それなんだが、会わせる前に相談しなくてはいけないと思ってな。今、アイソスタシーから派遣された者が来ている。魔剣を調べるのに協力してくれるそうだ。どうする?」
クオンはエレナが何を言いたいのか分かった。カリンの竜角について話すかどうかだ。
「アイソスタシーなら大丈夫だと思うけど...。あんまり広めたくないないんだよね。リングウッド博士に教えちゃったばかりだし。」
「だが、相手はあのタングステンマンだぞ。下手に隠しててもばれるんじゃないか?」
「あ、そっか。マンテリウムに来てるアイソスタシーの人間ってタングステンマンなんだっけ。」
魔剣ファーレンハイトの名は有名だ。魔剣と竜角との間に何かしらの関係があるのだとしたら、カリンの事が明るみに出る可能性も高い。そんな時、ライン大陸各国に力を持つアイソスタシー、その中でも実力者のタングステンマンを味方に付ける価値はあるのだが。
「リングウッド博士はある程度気付いちゃってたから仕方ないとしても、無闇に広めたくないんです。もし勘付かれたら教えるってことにしたいです。」
クオンの言葉に、カリンも頷く。
「分かった。クオン君がそうしたいなら黙っておこう。では、連れて来る。」
少し待っていると、エレナが少女を連れて戻って来た。亜麻色のポニーテールで、首元のチョーカーのオレンジサファイアが印象的だった。
「初めまして。エアリー=ハイスカーネンと申します。貴方達が、蒼銀の炎を手に入れたという冒険者ですか?」
「はい。クオン=アルセイドです。」
「カリン=ハーヴィです。」
「リッカです。クオンの姉です。」
「もしかして、貴方がタングステンマンなんですか?」
クオンはエアリーにそう尋ねる。エアリーは気恥ずかしそうに頬をかいた。
「あはは。正確には私ではなく、プラットのことですね。人工精霊プラットが操るゴーレム、ヘイフォードがそう呼ばれています。」
「と、言うことは、エアリーさんはゴーレムマスターなんですね。」
「はい。そうですね。」
「会えて光栄です。お噂はかねがね聞いてました。ゴーレムはどこかに置いているんですか?」
「彼なら、ここです。」
エアリーは首元のチョーカーに着けられたオレンジサファイアを指差す。するとプラットの声が響いた。
『初めまして。プラット=ヘイフォードだ。よろしく。』
「うわっ!?急に声が!?」
リッカがプラットに驚いて大きな声を上げる。
『はは。驚かして済まないね。』
「エアリー君は魔剣を調べるのに協力してくれるそうだ。」
「はい。ヘイフォードの解析能力なら何か分かるかもしれません。」
エアリーが手をかざすと、掌から淡い光が照射される。照射光は魔剣ファーレンハイトを柄から剣先までなぞるように移動する。
「どう?何か分かった?」
『ふむ。何やら未知の物質が充填されているようだ。』
「未知?プラットでも分からないの?」
『ああ、私のデータベースには該当しない物質だ。』
クオン達は側でエアリーとプラットの様子を見ていた。
すると、エレナがクオンに近づいて耳元で囁く。
「いつの間にかカリン君と魔剣の繋がりが消えておる。充填完了したようだな。何を充填したのかは不明だが。」
「そうなんですか?」
「ああ。これなら気づかれないかもしれん。」
エアリー達の解析が終わったらしく、こちらへと振り返る。
クオンは、恐る恐るエアリー達に話しかける。バレてない事を祈りつつ。
「どうでした?」
『結論として、フェリウス帝国の遺物で間違いはない。しかし、私が知るものとはいくつか相違点が見られる。帝国製の標準的な魔剣には魔力が充填されるが、この魔剣は未知の物質が充填されている。また、人工精霊ユニットの他に見慣れない機構も内臓されているな。恐らく、この剣は何か特別な目的で作られたものだろう。だが、魔剣ファーレンハイトと判断するには不足だな。より専門的な調査が必要だ。』
未知の物質が充填されているという点はエレナと同じだが、正体までは分からなかったようだ。カリンのことはバレてないようで、クオン達はほっとする。
(プラット、この魔剣、ザラームには有効なのかな。)
『現時点では不明だな。未知の物質というのが気になる。少なくとも神物質ではないようだ。』
(アイソスタシーに持って帰る?)
『ゼノリス王の許可が降りればな。いずれにせよ、ザラームの件が片付いた後だな。』
魔剣ファーレンハイトの能力は未知数だ。不確定要素を対ザラーム戦への策に加える気はプラットにはなかった。人工精霊ユニットを起動させればより詳細な情報が分かるかもしれないが、下手に起動させないほうが良いだろう。
『現時点ではこれ以上のことは不明だ。あまり力になれずに済まないな。』
「いや、そんなことはない。他者の知見は大事だからな。」
エレナとプラットの見解は一致していた。その事だけでも価値はある。
『もし調査を進めるなら、人工精霊ユニットは動かさないほうが賢明だ。何が起こるか分からないからな。』
「ご忠告、留意しておこう。」
そう言い残し、エアリーとプラットは研究室を去ったのであった。
*********
エアリー達が研究室を去ると、エレナは魔剣ファーレンハイトの調査を再開した。
「まずは、カリン君が離れたらどうなるかもう一度やってみよう。何か振る舞いが変わるかもしれんからな。」
カリンは魔剣から距離を取る。今度はカリンの側に転移してくることはなかった。カリンはほっと胸を撫で下ろす。
「ふむ。充填完了すると転移はしないのか。やはり、充填のためにカリン君にくっついていたようだな。」
クオンは魔剣ファーレンハイトの柄を握る。特に変わった様子は見られない。魔剣を構えて何回か振ってみるが、結果は同じだった。
「特に変わった様子はないですね。」
「ふむ。特に変化なしか。では、次だ。」
エレナは魔剣を作業台の上に置くと、何かの端子を取り付ける。端子は箱型の装置から伸びていた。装置にはダイヤルやらメーターが付いている。リッカは興味深そうに装置を覗き込む。
「これってなーに?」
「これは魔力を人工的に発生させて流す装置でな。試しに魔力を流してみようと思う。人工精霊が起動するかもしれん。少々危険だが、これ以上埒が明かないのでな。」
人工精霊が搭載されている場合、魔力を流すと起動する種類がある。だが、起動時にトラップが仕掛けてある場合もあるのでリスクもあるのだ。
「プラットさんに止められませんでしたか?」
「忠告は聞いたがやらないとはいっていない。それに、やってはいけないと言われたらやりたくなるのが研究者の性だ。」
「そ、そういうもんですかね?」
「そういうものだ。では、行くぞ。」
エレナは装置のスイッチを入れる。メーターの針が動き、魔力が魔剣へと供給される。すると、魔剣に変化があった。嵌め込まれていた蒼い結晶が輝き、魔剣の上に長方形の何かが現れた。
「おお。これはステータスディスプレイだな。やはり、プラット殿の言ったとおり、人工精霊搭載型だ。」
空中に投影されたディスプレイを見て、人工精霊搭載型と断定するエレナ。
「そうなんですか?」
「ああ。このディスプレイに魔剣の情報が表示されているはずだ。どれどれ。」
エレナは指先でディスプレイに触れ、何やら操作を始める。
「そんなに触れて大丈夫なんですか?」
「心配はいらない。ご丁寧に自動翻訳されておるぞ。この魔剣は優秀だな。ほれ。見てみるが良い。」
クオン達も魔剣上に現れたディスプレイを見る。文字の羅列の中に、ある一文が目に留まった。それは
『管理ユーザー資格:シェトマネトの継承者』と表示されていた。エレナはその一文を指でなぞりながら言う。
「どうやら、魔剣の全機能を解放するにはこの資格を満たさないといけないらしいな。機能が限定された通常ユーザーとしてなら誰でも登録可能らしい。はて、シェトマネトの継承者とは一体何のことだろうな。」
クオン達にはシェトマネトという名前には心当たりがあった。アティスの都市神の名前だ。
「シェトマネトって、アティスの都市神だったよね?継承者ってどういう意味だろう?」
そう言いつつ、リッカは首を傾げる。クオンとカリンも同じ事を思っていた。ふと、カリンが何となく思い付きを言う。
「案外、アティスを治めてるアルセイド伯爵だったりしてね。」
「さすがにそれはないんじゃないかなー。ウチ、フェリウス帝国と関係あるようなすごい家柄じゃないよー。」
リッカはカリンの思い付きに苦笑する。荒唐無稽な話に思えたからだ。アルセイド伯爵家にそんな由緒ある由来があるとは聞いたことがない。カリンも別に本気で言ったわけではなかった。
「まあ、言ってみただけだよ。代々アティスを受け継いでるから継承者っぽいな~って思っただけ。」
「試しにリッカ君も握ってみるか?」
「何も起こらないとは思うけど、やってみよっかな。」
リッカも魔剣を握ってみるが、何も起こらなかった。リッカはちょっとつまらなそうな顔をしつつ、クオンに魔剣を渡す。
「どれどれ、とりあえずクオン君を試しに登録してみようか。」
エレナがディスプレイを指で触り、魔剣から無機質な音声が流れる。
『クオン=アルセイドを通常ユーザーとしてマスター登録しました。』
クオンは再び魔剣ファーレンハイトを握る。すると、クオンの頭の中に様々なイメージが流れ込んでくる。そして、クオンは魔剣の使い方を理解した。試しに魔力を流してみると、刀身が蒼銀の炎で包まれた。
「おおっ。初めて変化がありおったな。」
「頭の中にイメージが浮かんで、急に使い方がわかったんです。」
「ほう、自動学習機能付きか。どういう事ができるのだ?」
「そうですね...どこか安全に剣を使用できる場所はありますか?」
「そうだな...実験室Ⅱに行こう。あそこなら性能評価をするにはうってつけだ。私についてきてくれ。」
エレナに連れられて、クオン達は別の実験室へと案内されるそこは魔道具を試用する用の実験室だった。標的として何体か木偶人形が設置されている。
「ちょっとした思い付きだ。これを斬ってみてくれないか。」
そう言うと、エレナは1枚の鱗を取り出す。美しい深緑色の鱗だ。クオンはその鱗をまじまじと見つめる。リッカとカリンはその美しさに思わず見惚れた。
「わあきれーい。」
「ほんと。綺麗な鱗だね。」
クオンはその美しい鱗を見て、ふと思い付いた事を口にする。
「これは、もしかして龍の鱗ですか?」
「ああ、リソスフェアの鱗だ。」
「ええっ!?リソスフェア様の鱗ですか!?その、そんな貴重なモノ使っていいんですか?」
クオン達は驚く。新龍の鱗を勝手に使っていいのだろうかと困惑する。エレナは涼しい顔で答えた。
「別に構わん。私には好きに使っていいと王の許可もあるし、あやつが勝手にここに落としていったものだからな。怒りはすまいさ。」
そう言いつつ、エレナは鱗を標的の木偶人形にセットする。
「新龍はな、この世のどんな武器でも傷つけることはできないんだ。新龍を害せるのは新龍だけだ。」
「それは、話には聞いたことはありますけど...」
わざわざ新龍を攻撃する愚か者は今までいなかった。クオンにはその真偽は分からない。
「私はその事に興味を持ってな。私はリソスフェアとアセノスフェアの協力を得て、強度実験をしたことがある。結果は、どんな手段を用いても鱗の破壊はできなかった。傷一つも付かないんだ。例外は、同じ鱗でひっかいた時だけだな。同じ物質なら破壊できるらしい。」
エレナは鱗の光沢ある表面を指でなぞりつつ、言葉を続ける。
「『神さえ反す力...反神剣ファーレンハイト』。私はそこが気にかかった。もしかしたら、と思わないか。クオン君。」
「この剣で破壊できるかもということですか。」
「そういうことだ。さあ、このリソスフェアの鱗を斬ってみてくれ。論より証拠だ。」
「分かりました。やってみます。」
クオンは木偶人形の方を向き、ファーレンハイトを構える。クオンが先程と同じイメージをしながら魔力を通すと、刀身が再び蒼銀の炎を纏う。
「はっ!」
クオンは魔剣ファーレンハイトで袈裟斬りにする。木偶人形ごと鱗は切断され、蒼銀の炎に包まれる。そしてリソスフェアの鱗は光となって消えてしまった。
「これではっきりしたな。神様以外に神様は殺せない。この魔剣はその絶対...と思われていた理を覆しているということだ。」
「それってやばいんじゃないの?」
リッカの言葉に、エレナは静かに頷いた。
「まったくその通りだ。とんでもないものを作ったものだな。フェリウス帝国は。よっぽど殺したい神様でもいたと見える。」
「神様を殺したいって、そんなことある?」
リッカは当然の疑問を口にする。リッカの常識で言えば、神様といえば、古龍七柱と新龍四柱だ。それに実在が確認されているのは新龍のみ。しかし、エレナの考えは違った。リッカの考えを見透かしたように言う。
「神様と言ってもたくさんいるだろう?力のある神様なら古龍や新龍以外にもいる。」
「でもでもー、新龍様以外の神様っているかどうか分かんないんでしょ?」
「まあな。だが、神話を裏付けするような新龍という存在がいる以上、未確認なだけかもしれん。それにフェリウス帝国の全貌はまだ分かっておらん。神様と交流していたとしても驚かんな。」
リッカの疑問はもっともだが、エレナの言うようにフェリウス帝国は未解明な部分が多く、他の神様と関わりがあった可能性は否定できない。
「さて、蒼銀の炎のサンプルを採取しよう。クオン君、もう一度炎を出してくれないか。」
「はい。」
クオンが魔剣ファーレンハイトの刀身から蒼銀の炎を再び出すと、エレナは慣れた手つきで炎を瓶の中に採取する。瓶の中で蒼銀の炎は消えずにゆらゆらと燃えていた。
「きっとこれがカリン君の竜角を触媒として生成されていたものだろう。解析すれば色々と分かりそうだ。」
エレナはウキウキした様子で瓶の中身を見る。対照的に、カリンはあまり浮かない表情をしていた。クオンは心配して話しかける。
「カリン、どうしたの?」
「話を聞いてたら、ちょっと怖くて。」
神様を殺せるかもしれない魔剣。その得体の知れない力に自分の竜角が勝手に使われている。あまり良い気分はしないし、怖さもあった。クオンはそんなカリンの肩を抱き寄せる。
「僕とリッカがついてるから。」
「...うん。頼りにしてる。」
カリンはクオンの言葉に少し心が軽くなった気がした。
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