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461 お駄賃

 保湿クリームの納品を無事に済ませた我々は、城まで足を運ばせた礼にとまだ輸入量の少ない異世界栗をどかどかと箱でもらって帰った。

 しかもこれは城まで呼んだお駄賃みたいなものなので、正式な報酬はまた別に用意されるとのことだ。

 うれしいけど恐いくらいに手厚いなと思っていたら、これからも継続的に王室へ健康極まりない保湿用品を納入したくなる謝礼をがんばって用意する。楽しみにしてろ。みたいなことを王様が言って、すがすがしさすら感じる全開の下心だった。

 そうして、きた時と同じく王城の侍従が案内するのにくっ付いて、ぞろぞろと絢爛な廊下を戻っていた途中。

 我々の行く手に、辺りをきょろきょろ見回して油断なく王城の通路を警備する見知った隠れ甘党たちがいた。

「あっ、すげーちょうどいいとこにいる!」

 たもっちゃんは職場だからか普段よりキリッとして見えなくもない隠れ甘党の騎士たちに遠慮なくいつもの感じで駆けよって、装備したアイテム袋から取り出すと見せ掛けアイテムボックスから引っ張り出したいいお寿司屋のまな板くらいありそうな木の板を、ちょっと重そうに両手で渡す。

「これ、通信魔道具の板に枠付けてドアみたいに開閉できるようにしたんで。テオに渡しといてもらえます? そろそろ塩届けに行く季節も近いし、迎えに行けたほうがいいと思うんで。都合よくなったら連絡して欲しいって伝えといてもらえれば」

「何で通信魔道具をドアにするんだ……」

 本当に訳が解らないと言う顔で、一応その通信魔道具を受け取ったのは隠れ甘党の中でもテオの兄、アレクサンドルの片腕的なヴェルナーである。

 私も本当に訳が解らない気持ちは解らなくもないのだが、いいお寿司屋のまな板みたいな魔道具に枠を付けドアとしたものは扉としては小さいが大人ががんばって這いずればどうにか通れる大きさである。

 たもっちゃんのドアのスキルは一度くぐったことのあるドアにしかつなげないと言う制限があるが、テオはいつどこに移動するか解らない。ならば、たもっちゃんが一度くぐったドアそのものを携帯してもらえばいい。

 しかも大きな荷物はジャマになるだろうとの配慮から、ドアとしては小さめ、かつ、通信魔道具の機能を搭載している。魔道具に魔力を充填したものはアイテム袋にもアイテムボックスにも入れることはできないが、発信専用と割り切って普段は魔力を抜いておけば支障ない。

 単純だけど、これならテオから連絡があった時、どこでもすぐに迎えに行くことができる。

「たもっちゃんにしては考えたなあ」

 おめーいつの間にこんなもん作ったんだよと思ったら、昨日ルディ=ケビンのお家に遊びに行けない悲しみでかっとなってDIYに熱中していたらしい。激しい悲しみと衝動でちょっと便利なものを生み出しがちのオタク。

 私はうっかり感心したが、たもっちゃんはしかしあんまり聞いていなかったようだ。

「あっ、待って。俺そのドアまだくぐってないかも。作っただけで満足してくぐるの忘れてたかも。ちょっと一回くぐるから返して」

 はっとしたようにそう言ったメガネは、扉代わりの魔道具の板を木の枠からぱかりと開き、そこに体をむりやりねじ込んで隠し芸としてテニスラケットの枠を通り抜ける人みたいな必死な姿を王城の廊下で披露するので忙しそうにしていた。

 ある意味目の離せない光景ではあるのだが、それ、今ここでやらないとダメか……?

 私はもちろん隠れ甘党や公爵、あんまり顔には出てないがレイニーや案内の侍従がそんな思いで心を一つにし、若干じりじりと後ろに下がってメガネからできるだけ距離を取る。

 ついでに、無関係の他人のフリをするためだろうか。

 通信魔道具のドア枠をちょっと持っててと頼まれて逃げそびれたヴェルナーを気の毒そうに見ながらに、残りの隠れ甘党が私に声を掛けてきた。

「今日は重要な用件だと聞いたが、終わったか?」

「あ、はい。今納品してきたとこで」

「そうか。こちらも警備はしているが、帰りも気を付けろよ」

「なんで?」

 いやマジで。騎士にそんなん言われたら恐いじゃん。

 なにそれ気を付けろってなんなのと。なんだか恐いがいま一つなにもピンとこず、怯える前に引き気味の私に隠れ甘党が語るところによると、どうやら王妃様と武者姫が王様の所へ行く前の我々が通るルートを特定し待ち構えていたらしい。

「一言挨拶をと仰っていたが……」

「もしかして……行きにわあわあしてたのってそれでした?」

 侍従の後ろにくっ付いて王様の所へ行く途中、廊下の先が騒がしくそちらを避けて遠回りしたのを思い出す。

 さっき予習したやつみたいな気付きではっとする私に、隠れ甘党たちは静かにうなずき肯定を返した。

「王より前には誰にも会わせない様にとの命令だったからな。従ったが……大変だった……」

「あぁ……大変だった……」

「ええ……なんかごめんな……」

 でも私も大量の保湿クリーム持ってる時に王妃様とか武者姫に会うのちょっと自信なかったから助かったわ……。

 あのきらきらしい貴婦人たちにいい感じにちやほやなんかされたら、王様への納品ぶんを全部吐き出してしまったかも知れない。

 なんか知らんがあの人たちにはいい顔したくなるって言うか、あわよくば、すごいとかよくやったなどとめちゃくちゃにほめてもらいたい気持ちさえある。

 妻子にモテたい王様を内心でバカ親父みたいな感じでディスっていたが、よく考えたらめっちゃ気持ち解るわ私。

 だがそれで、苦労することになったのは隠れ甘党たちである。

 保湿クリームを王様に納入する流れとなった先日の、話し合いそのものからは逃れたがテオの兄であるアレクサンドルやその部下たちもその直前まで共にいた。そのせいもあるのかないのか知らないが、王妃様と武者姫を食い止めると言う難しい仕事がしっかり割り振られてしまっていたようだ。

 あまりにもかわいそうであり、しかも原因が我々すぎたので、私は侍従の目を避けこそこそと納品のためにメガネが予備に作ってあった保存の箱にシュラム荒野のダンジョンで収穫してきたふわふわのクリームたっぷりのスイーツやメガネが作って備蓄している栗のお菓子をこれでもかとぎちぎちに詰め、レイニーに頼んで箱に刻んだ保存の魔法術式に魔力を込めてもらった上で中身が解らないよう厳重に蓋をして布でくるんだものを隠れ甘党たちにそっと渡した。

 そんなスイーツ賄賂のお陰かどうか。

 我々は隠れ甘党の騎士たちのやたらと熱の入った警備のもとで無事に門までたどり着き、行きの会話でまだうじうじしながら待っていた公爵家の騎士たちや馬車と合流。

 馬車に揺られて公爵家へ戻ると、家主たる公爵だけでなく我々もまるで自宅かのような帰宅感にほっと肩の力を抜いた。

 それから傷心の止まらない公爵家の三騎士に付き合い失恋のグチを聞かされて、話が何度めかのループに突入してきた辺りでメガネと協力して日本酒で潰し、仕上げとして翌日に響かないよう体にいいお茶を浴びるように飲ませて整えておいた。いたれり尽くせり。

 翌日からはぽっかり時間ができたが、王様からのごほうびがあるまで待てと言うので王都に留め置かれることになる。

 ちょうどいいのでじゅげむに新しい服や靴でも買いに行くかと話しているとアーダルベルト公爵が仕立て屋と靴屋を屋敷に呼ぶと富豪の祖父みたいな姿勢を強硬に見せたり、我々が油断しているすきに以前じゅげむに肩掛けカバンをくれた騎士が「たまたま! そう、たまたまうちにあったから!」などと明らかな虚偽をまじえて今度は背負うタイプのしっかりしたカバンをじゅげむにプレゼントしてくれたりした。

 たまたまと言うには、あまりにもサイズ感がぴったり。わざわざじゅげむにあげるため探して買ってくれたかと思うと、ここにも親戚がいたかみたいな感慨がある。

 むやみな贈り物は遠慮したほうがいいのかなと一応思いはしたのだが、ランドセルを背負った新一年生みたいなぴかぴかしたじゅげむがべらぼうにかわいく、なおかつうれしそうだったので騎士には入念にお礼を返すことにしてありがたく受け取らせてもらう。

 なお、富豪の祖父ポジの公爵による高級貴族服と靴を仕立てる件は、わざわざ自分のために仕立てると言うのがじゅげむの小市民リミットに抵触したらしく、本人が「なんかこわい」と断固として辞退した。公爵さんはちょっとだけしょんぼりとしていた。

 そんな感じでやいのやいのとすごす内、王都でゆっくりしすぎるがゆえに収入にふとした不安を覚えた私がメガネに頼んでズユスグロブの若様の屋敷に普通に草を売り付けに行き、最近引退して一緒に暮らし始めたその父を「本当に普通にくるんだな……」とドン引きさせるなどしながら、季節は六ノ月である。

 春、そして雨季の始まりとなるその頃に、王室から用意ができたとの連絡があった。

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