453 首謀者
※ろくでもない話が続きますが、フィクションです。
いや、ちゃうんやで。
忘れてたんとは違うんや。微妙に。多分。
つい軽率に首を突っ込んでしまい手に負えなくて公爵とかに丸投げし、それで安心してたとかそう言うことではないって言うか。
嘘だけど。安心しちゃってましたけど。
いや、えらい人が任せろみたいに言ってくれるとマジすかすんませんみたいな気持ちで晴れ晴れとややこしいことなにもかも任せちゃいたくなるじゃない? それ。
逆に、キミらが入ると話がこじれて収拾が付かなくなる恐れがあるから関わっちゃダメと隔離された感もあるのだが、丸投げしてた大事な話のその後の流れは全体的に穏便に、なるようになっているらしい。
穏便になんとかなったって言うか現場が必死にやりましたけどとじっくりとしたガチギレの、貴族ながらに現場の部下にも思いやり深い外交担当のえらい人によると、エーシュヴィッヘルとは色々な話し合いや駆け引きが重ねられ、安定的に栗を輸入する算段が整いつつあるそうだ。
わかるよ。食べたいよね。マロングラッセとかそう言うの。
ただしブルーメとエーシュヴィッヘルは国境を接する隣国ではないため、やはり両国の間に位置する某王子が最近婿入りしたことでおなじみのザイデシュラーフェンを経由する。
ザイデシュラーフェンは絹の輸出で豊かな国だが、これからは栗の関税で恐らくもっと富むことになる。お金は仲間が好きだから、いっぱいある所にばっかり集まって行くのだ。
私もお金を愛しているが、片想いだから振り向いてももらえない。憎しみ。
そんなお金への愛憎で私が勝手に渦巻く内に、話はさくさく進んでいたらしい。
気が付くと、たもっちゃんがテーブルに両手を突いて立ち上がり「何で!」と泣きそうな声を上げていた。
「どうして……! 俺を呼んでくれなかったんですか!」
私は愛憎渦巻くので忙しくあんまり聞いてなかったが、どうやら大森林からくり返しさらわれていたと目されるエルフらについて、どうなったかの話をしていたようだった。
たもっちゃんの様子から、私は最初、なにかよくないことがあったのかと思った。
自分がいればなんとかできたかも知れないと、そう悔やんでいるのかと。
でも違った。
いや、もちろんよくないことはあった。
そもそもエルフが略取されている時点でいいはずがないし、その目的は魔力的な素養の高いエルフを好き勝手に利用することだった。
これだけでロクでもない話だか、しかもそれが国策として行われていた形跡がある。いいはずがない。
だがそれは、フタを開けると数年前からとある事情で計画そのものが停滞していたらしいのだ。
そのため捕らえたエルフらはむしろお荷物のような状態で、捨て置かれ、けれども存在自体が貴重なために大事にされたとは言えずともなんとか生きながらえていた。
そこへブルーメからの呼び掛けに応じた周辺国が手を取り合って、エルフ略取の疑惑の浮かんだ当該国をぎっちぎちにしめ上げながら証拠を突き付けて糾弾。相応の実力行使を伴いつつも、エルフたちを救い出すことに成功している。
現場を知らない私としては「だったらいいじゃん」くらいの感じでいるのだが、たもっちゃんは違った。
奴はエルフを愛しすぎるがゆえに、エルフの不遇さえをも愛してしまうのだ。
たもっちゃんは、メガネの奥でぐらぐらと両目を揺らして感情をこぼす。
「いたんでしょ? 大量のエルフが! しかも囚われて弱って助けを求めたりしたんでしょ? 何で……何で俺に恩を売らせてくれないんですか!」
私はこれまでの人生で、今ほど「そう言うとこやぞ」のセリフがしっくりはまった瞬間を知らない。
だからだよ。
だから隔離されんだよメガネ。
てめーマジでいい加減にしろよと私がぼこぼこにしようと思ったら、テオやテオのお兄さん、静かに見守っていた隠れ甘党に騎士たちや外交担当のえらい人、そしてアーダルベルト公爵に「それは駄目だろ」と、いち早く正論でぼこぼこにされていた。助かる。
――しかし、踏み入るだけでも危険でコストの掛かる大森林の、それも割と深めの場所に小屋まで建てて魔法をほどこし隠匿し、そしてこれは今の話のついでに聞いて知ったことだが、さらったエルフを運び出すためにこれもコストが莫大な転移魔法陣まで設備してあったとのことだ。
なにをしようとしていたのかは知らないが、これはかなり大掛かりな、そして入念に準備された計画だと思う。
そうまでして実行されようとしていた、それも国絡みの計画が止まってしまう事情とは、それはそれでただごとではないような気がする。
少し考えれば当然行き付くこの疑問点について、言及したのはアーダルベルト公爵だった。
「計画の主体――首謀者と言うべきかな。エルフを資源とする計画を発案し誘拐を指示していた重鎮の貴族が、計画から降りてしまったとか。あちらの国では気を病んだと噂されているそうだけど、元に戻ったと言う声もある」
元凶の首謀者と目される貴族は、元々、目立った功績も気概もない男のはずだったそうだ。
それがいつしかすっかり変わり、人をいたぶり悪辣な手段を好んで使う人間へと変わった。
通常ならばいとわれそうなこの変貌は、しかし不思議と周囲を引き付けた。
貴族らは先を争うようにその悪徳に群がり、そのためにやがて王でさえおいそれとは口を出せない権力を得てしまう。
男のもとで一部の貴族は私腹を肥やすが国は荒れ、貧しい者はさらに貧しくなって行く。
それさえも、その男は楽しんでいるかのよう思われた。
それが。
「戻った。昔の彼を知る者の言葉を借りればね。ある時から急に挙動がおどおど気弱になって、しかもそれまでの何年もに渡る記憶を失っていると言う。ちょうど彼が変わり、戻るまでの全ての記憶を」
それは実に、不可解なことだと。
公爵は冷たく輝く宝石のような、淡紅の瞳を少し細めて伏せながらに語る。
思うところがあるように、物憂げな公爵の言葉が途切れたところへ短い質問を投げるのはメガネだ。
「それ、元に戻ったのいつ頃か解ります?」
一体なんの関係があるのかと、公爵はとろりと輝く蜜色の髪を揺らしつついぶかる様子で首をかしげる。
しかし問い返すことはせず、すぐそばに掛けている外交担当の男性に視線を移して答えを求めた。
その貴族然とした男性は、公爵の意を受け質問の答えを端的に示す。
「報告では四年程前、三ノ月頃だと」
悪徳で国を率いた首謀者の、急な記憶喪失と怯懦は周囲にも余程大きな衝撃だったのだろう。
なんとなく思っていたよりも詳しく返ってきた答えに、たもっちゃんは「四年……四年かぁ」などと呟いて、しばらくぼーっと天井を見上げた。
多分だが、この間にスキルでガン見していたのだと思う。
どこかげんなりとしたような、疲れたような、できれば言いたくなさそうな感じで、天井から顔を戻してメガネは言った。
「それ多分、悪魔っすね」
なぜなのか、異世界の隠密みたいな口調で。
大森林からエルフをさらい魔力を好きに利用しようとしていた計画は、記憶喪失で首謀者が事実上消失したことで四年前からゆっくりと失速して行くことになる。
なぜすぐに頓挫せずゆっくりなのか不思議だが、国として一度やると決められたものはそれを遂行することが目的みたいなところがあるので急にはうまく止まれないらしい。
なんかすごい遠い目で、公爵を始めとした貴族らがめちゃくちゃしみじみ言ってた。
たもっちゃんによると、その首謀者が悪魔に取りつかれ悪のカリスマと化していたそうで、四年前の記憶喪失も悪魔の存在を失ったことによるものだそうだ。
確かに、悪魔に取りつかれた状態で公爵家を襲撃したツィリルもその辺のことは覚えてないって言ってたななどとぼんやり思い出してたら、その悪魔とこの悪魔は同一悪魔だと訳の解らないことをメガネが言い出す。
「いや、だからね。ツィリル、お姉さんと姪達探してた訳じゃない? で、お姉さんが捕まってたのがその首謀者のいた国で、て言うかお姉さんの事も利用してたみたいで、近くにいたのね、その首謀者の。まぁ、魔族も魔力凄いからさぁ。そうなるよね。で、何年もしてからツィリルが助けにきた訳だけど、お姉さんは亡くなってるし姪達はいないしでツィリルが暴走し掛けた時に、首謀者よりもこっちの方が利用しがいあるじゃんつって悪魔がツィリルに乗り移ったみたい」
「たもっちゃん……たもっちゃんさあ……」
ろくでもねえ話を普通にすんの、こっちのSAN値に関わってくるからやめて。




