光と闇の服。
王宮騎士団上部と王宮騎士団との合同演習はまず両方の騎士団を戦力が大体同じになるように2つに振り分ける事から始まる。
主に王宮騎士団“光チーム”と“闇チーム”の2つだ。
……余計なツッコミは省いておく。今回はもうその事についてのツッコミはしないって決めたし。
えっと…そしてその2チームの元となるのは王宮騎士団上部の長官&副長官と王宮騎士団の団長&副団長の4人だ。
つまり片方のチームのリーダーとしてファイさんと副長官さんが。
もう片方のチームのリーダーにはアルトさんとエルさんがなる事になる。
後はその人達を中心に各所属や隊毎に分けていくだけ。
まぁ具体例を言うのならドッヂボールで2チームに分かれる時、代表者2人がジャンケンをして勝った方から好きな人を1人ずつ交代に選んでいくあれかな。
そしてどうやら今回の合同演習では……
「黒……」
今私の手に握られているのは真っ黒な生地で出来た特別仕様の騎士団の制服(女の子version)。
黒色の生地に僅かの白と装飾でデザインされた制服はどことなく大人っぽい雰囲気を持っている。
「いい……」
いや、もう私大人っぽいっていう言葉に滅法弱いです。くらくらします。可愛いのも好きですが大人っぽい物にも憧れる女の子なんですよ。
「黒って事は私は“闇チーム”か」
今日の日付は葉の月第40日。つまり、王宮騎士団上部と王宮騎士団との合同演習が行われる日だ。
そしてこれから私達が向かうのはその演習会場である“蒼穹の塔”
光と闇が争う所……
※
「やぁやぁリリアちゃん。随分黒い服を着てるんだね」
「エルさん!」
“蒼穹の塔”のある辺りまではファイさんに連れて来てもらったはいいけど、ファイさんと途中ではぐれてしまい明確な場所が分からず辺りをうろうろしていた私の前に真っ白な騎士団の制服に身を包んだエルさんが現れた。
「エルさん……“光チーム”なんですか」
「そ、俺とアルト2人共ね」
「敵になっちゃっいましたね……」
「俺としては、あんま白い服似合わないからリリアちゃんがちょっと羨ましいかな」
「……嫌味ですか」
いけめんさんが何言ってるんですか?そのお顔にイラつくくらいよぉ~く似合ってらっしゃいますよ。私の存在が霞んで消えそうな位。
「いやいやリリアちゃん、俺なんかより一度この服着たアルトに会ってみれば分かるよ」
「アルトさん?」
「リリアちゃんの好みど真ん中だと思うよ」
「はぁ……」
エルさんが私の好みを把握している事に若干の疑問を感じますが……まぁ、確かにアルトさんに真っ白な騎士団の制服は似合いそうです。出来れば髪も下ろしてもらえると嬉しいんですが。
「うーん、やっぱりリリアちゃんは黒色似合うんだね~」
「なんじゃ、お主真っ黒になりたいのか」
「はっ?――ぬわぁっ!?」
私が返事するよりも先に何処からか突然そんな声が聞こえてきた。
そしてそれを確認するまでもなく「せいっ!」と言う掛け声と同時にエルさんの腹部目掛けて勢いよく盛大な蹴りが決まった。しかも両脚蹴りで……
「たく、ようやくリリアを見つけたと思ったらうっさい奴が周りをうろちょろとしおって。ムカついたから蹴ってしまったわ」
「ネ、ネリさん……」
「てめぇっ…んな理由で……」
「はっ!別にお主を蹴るのに理由など必要ないんじゃがの」
ひっでぇー!?
すっごい嫌な笑顔でかなり酷い事を言い切りましたよこのお方!
この2人の仲悪さに時々引くんですが、怖いぐらい理由もなく喧嘩を勃発させてますよ。
「ほら、お主も何をしとる。さっさと塔に向かうぞ」
「えっ!あ…はい……」
ネリさんが完全にエルさん放置で歩き出した、私もとりあえずついて行く。
すると、歩き出したネリさんの足にぷるぷる震え瀕死状態ながらも動かしたエルさんの手がガシッと捕まえた。
「むにゃっ!?」
べちんっ!
「……」
当然足を捕まれたネリさんは大きな音と同時に顔面から盛大に転んだ。
あれ…痛いんだよなぁ……
「ようやく引っかかったなネリ!」
「エ、エルさん…さすがにそれは……」
そしてそれを聞いたネリさんはゆっくりと無言で立ち上がるとエルさんの目の前まで来た。
……な、なんか…バックに『ゴゴゴゴ……』って感じの効果音が聞こえてきそうな勢い何ですけど。
どうしよう!全く収拾がつきそうにない!!
「えっとネリさん。一旦落ち着いてですね…平和的に!平和的な解決策がどこかにあるはずで――!」
「お主ごときが何をするかぁあ!!」
「!?」
ゲシッ!
と、勢いよく振り上げられたネリさんの足がうつ伏せに倒れていたエルさんの顔面に綺麗にめり込んだ。
ネリさんが足を引っ込めるとパタリとエルさんは動かなくなった。
そして怒った足取りでまた歩き出しますネリさんをとりあえず追いかける。
「ネ、ネリさん!エルさんあれでいいんですか!?」
「ふん!あのような奴興味もない!」
「うわぁ……」
まぁ、この2人はいつでもこんなものですか……
※
「……なにをやっているんだ?エル?」
「くっ…ッ……」
道中なぜか倒れていたエルを見つけてみたが……また何かやらかしたのか?
盛大に地面に倒れて顔を付けているが、苦しんでいるのか泣いているのかよくわからない声だ。
「おい、エル。」
「――っ…はっ……くっはははははははは!!」
……笑っている?
よく見たらエルは倒れたまま腹を抱えて笑っていた。
そしてうつ伏せの状態から仰向けになると方腕を両目に当てて日の光を軽く遮りながら、また笑い出した。
「ははっ!なにあれ、やっばいくらい面白い!」
あれ?……こいつがここまで笑い出すような事とは一体何なんなんだ?
「はぁ……バカなのか?お前」
「うわぁっ…アルトにマジで罵倒された」
それからエルはしばらく笑い続けていた。
まったく、相変わらずおかしな事ばかり考える奴だ……って、今日の演習…こんなので大丈夫なのか?
※
「おぉ、リリア、ネリ!2人共何処へ行っていたんだ?」
「悪霊退治」
「悪霊?」
「ちょっと迷子になっていただけです!」
あぁ…今更フォローしてももう手遅れな感じしかしない……
「まぁ、なんでもいいがそろそろ塔まで行かないといけないからな」
「……はい」
すると、一度落ち着いて目の前にいるファイさんを見るとファイさんも全身真っ黒な生地で出来た服を着ていた。
けど、私の元々の騎士団の制服をちょっとアレンジして色を変えただけの物とは違い、白いりぼんとラインに、上から下まで繋がった長く黒い生地で出来た服には左の胸元から金色のボタンが縦に並んでいる。
なんて言うか……騎士団の制服と言うよりは軍人の司令官さんみたいな感じの服装だ。
「ファイさん…綺麗ですね……」
「む…そうか?自分ではよく分からないのだが、そう言われると嬉しくなるな」
そう言って笑ったファイさんに連れられて私達は“蒼穹の塔”へと向かった。
この辺りは一面野原に覆われていて今は少し冷たい秋風が吹いている。
「そう言えば、ネリさんはいつも通りのゴスロリ服みたいですけど……演習には参加しないんですか?」
「にゃあ?まぁ、儂は騎士団の者では無いからの見学じゃ、見学」
「それにネリは今は魔術師であって剣士ではないしな」
「えっ?」
確かにネリさんは魔術師で剣士ではないけどなんで魔術師だと騎士団の 人じゃないんだろう?
魔術師だって凄く強そうなのに……
「お主、騎士団内で魔術師を見たこと無いじゃろう?」
「……そう言えば」
「魔術師は大変優秀な者達だが強くはないんだよ」
「でも、火とか水とか出せますよ?」
「んなもん、意味ないんじゃよ」
すると私の前を歩いていたネリさんは急にピタッと止まったかと思うとくるりと私の方を振り合えって言い切った。
「儂ら魔術師はの、人を傷つける魔術は使えないんじゃよ」
「そうなんですか?」
「リリアは魔術については本当に何も知らないんだな」
いやぁ…確かに私は魔術を使えないので魔術に付いては全く習っていなかったけど……ここまで自分が魔術に対して無知だったと分かるとさすがに少しは知っておいた方がいいような気がしてきた。
「そうじゃのぅ……詳しく話すと、儂ら魔術師には使える魔術に得意不得意があるんじゃ」
そしてネリさんは歩き出しながら指を2本立てて私に見せる。
「魔術の種類は大きく分けて2つ、1つは“自然を操る魔術”もう1つは“己の肉体を強化する魔術”じゃの」
つまり、その2つに各々の得意不得意がある…と言う事かな?
「それは、個人で違うんですか?」
「あぁ、例えば儂のバカ弟子のミキ。あやつは自然を操る魔術が得意じゃろ?」
「バカ弟子って……」
「片や儂は肉体を強化する魔術が得意じゃな」
「……でもネリさんの魔術って『心を視る』魔術ですよね?」
肉体のどこをどう強化すれば『心を視る』事が出来るんだろう?
「うーん、儂が強化しとるのは肉体と言うのとは少し違うかの……」
「?」
「ネリは『人を見る目』を強化してるんだよ」
人を見る目……つまり、誰かを見抜く力を強化してるって意味?
それって、魔術で強化しただけで人の心を見たり聞いたり出来るのかな?
すると私の心を聞いたのかネリさんがニヤリと少し笑って見せながら言った。
「まぁ…普通は、無理じゃろうなぁ……」
「元々の人を見る目が高ければできるんだよ」
「は、はぁあ?」
んー?うぅんん??
人を見る目って、そう簡単に鍛えられる物なのかぁ?
だって人を見る目なんてすごーく長生きでもして色んな人を観察でもしなきゃ無理だと思うんだけど……
「とにかく、この2つの魔術の共通点は『決して人を傷つけられない』と言う事じゃな」
「……じゃあ例えば炎を出したりしたらどうなるんですか?」
「その場合、“出す”まではできても誰かに“当てる”と言う事はできん。魔術で出した炎で攻撃したければその炎を一旦何かに移し替えてから投げでもするか、出した状態のまま敵に突っ込むかしかないんじゃよ」
「ネリの『心を視る』魔術も集中して警戒されたら効かなくなるしな」
ネリの魔術が、攻撃と判断されるからな。
とファイさんは最後に付け加えて言った。
しかし、意外だった……魔術師は魔術を使って戦ったりは出来ないのか。なんか、また異世界としてのイメージが下がったと言うか崩れてきたようなぁ……
「――っと、どうやら着いたようだな」
「着いた…ってまさか……」
「にゃあ、光と闇が争う場所。このアリアナで最も空に近い場所じゃ」
広大な草原に堂々と建っていたそれは、圧倒的な存在感を持っていた。
光と闇の対の塔。
“蒼穹の塔”
「さぁ、戦いの始まりだ」




