後悔した頃には全てが始まっていた。
“蒼穹の塔”は真っ白な塔と真っ黒な塔が対になって並んでいる建物で、隣同士に並んだ塔にはお互いを繋ぐ橋が3つ架かってる。
真っ黒な塔には闇チームが、真っ白な塔には光チームがそれぞれ陣地とする。
そしてその塔の目の前でたった今行われている開会式的な物。司会はもちろん……
「たった今、この瞬間ここは諸君等の守るべき場所となったそれはすなわち……命の限り争い!挑み!戦い尽くせという事だ!!」
「守り尽くせの間違えでしょう!」
「長官の言う事は気にしたら負けだよアルト……」
「……ファイさん……」
堂々と台の上から宣言するファイさんの姿は適役なのかどうか多少疑わしい気もするけど、まぁ似合っていると言われれば似合ってはいる。
「いや、ハマり過ぎじゃろ」
すると沢山の騎士団の人達が並んでいるその中でも一番後ろの端っこにいた私の隣りにはいつの間にかどこからかやってきたネリさんがいた。
「ネリさん……なんですかその格好?」
「んにゃ?」
見るとネリさんはいつもより若干大人しめの真っ黒なゴスロリ服に、普段被っていないこれまた真っ黒なニット帽を今は被っている。
しかもネリさんの頭にあるネコミミが入るようにちゃんとネコミミ付きのニット帽だ。
ネリさんに似合っていない訳じゃないけど、普段の高いツインテールを低めにしてまでわざわざ被るなんて……てか、ツインテールで気づかなかったけど、ネリさん髪長!?今は膝くらいまでありませんか?
「まぁ…あれじゃ、お主の今被っとるそのブカい帽子と同じ理由じゃよ」
「えっ……あぁ、なるほど」
ネリさんに指摘されたように私もちょうど今帽子を被ってる、紺色をしたちょっとブカめのキャップだ。
これは夏にアルトさんと街に出かけた時の帰りにアルトさんが私にくれた物で、もちろんこれは私のこの真っ黒な髪と目を隠すため。
「ネリさんも、その耳を隠すためですか?」
「あぁ、騎士団上部ではそれなりに上手くやっとったがこれだけ人が集まると少々厄介じゃしな」
ふむ、確かによく見たらネリさんは帽子でネコミミを隠すだけじゃなく、いつもの猫の尻尾も見当たらない。多分服の中にでも閉まってるのかな?
しかし、可愛らしいそのニット帽を被ったネリさんはいつもより少し幼く見える。
まぁ、私よりは断然年上に見えるんですがね。普段から既に。
「お主がロリなじゃけじゃろう」
「少しはオブラートに包んでください!ストレート過ぎて虚しくなります!!」
この人、今の可愛らしい見た目に反して結構毒舌だ!超ズバッとした発言力ですね!
「はぁ……そう言うネリさんは一体いくつなんですか」
「にゃっ、わ、儂か?」
そう言うとネリさんはなんだか少しテンパり始めた。
……えっ、何故?私年齢聞いただけだよね?
すると慌てた様子のネリさんは顔を少し掻いて戸惑ってたかと思うと、バッ!と私の方に手を突き出して言った。
「ちょ、ちょっと待っとれ。今思い出す」
「自分の年齢ってそんな記憶に残らない物でしたっけ!?」
お爺ちゃんやお婆ちゃんなら分かりますがまだ10代位のネリさんは悩むような年齢じゃ無いですよね!
なんてツッコんでいる内に指折り考え始めましたよこの人!
「ファイと出会ったのが9…いや10歳じゃったか?そもそもあれから何年たった……?」
「……」
なげぇ……
シンキングタイムとり過ぎじゃないですか?思い出してるのって自分の年齢ですよね?既に2、3分は経ってますよ。
そして、それから更に数分過ぎた頃、ようやくネリさんが「あぁっ!」と言い出した。
「……よし、分かったぞ!」
「そうですか。で、何歳でしたか?」
「思い出せんから後でファイに聞いてくれ!」
「分かったって、それ私の質問の対処法がじゃないですか!!」
結局自分の年齢は思い出せなっかたんですね!なら「分かった!」とか言わずに素直に「分からなかった!」って言ってくださいよ!紛らわしい!!
「いや……ほ、ほら!既にファイの挨拶が終わろとしとるぞ!」
あっ、誤魔化した。
しかしまぁ、これ以上ネリさんにツッコんだ所で更にツッコまされる状況になりそうなので、ネリさんの言った通りとりあえずファイさんの話しに耳を傾けた。
「そして最後にこの演習終了後に諸君等に与えられる褒美を発表しよう」
聞けば丁度この間ファイさんがアルトさんやエルさんと話していた勝利チームへのご褒美の話しになっているようです。
確か、勝ったチームにはファイさんが用意するご褒美が。
負けたチームにはよく頑張りましたと、励ましの物が贈られるらしいけど……一体ファイさんは何を用意したんだろう?
「まず、勝利チームには『翡翠亭』の貸し切り料理を全品私の奢りで提供しよう!」
「全品!?」
「貸し切り!」
ガヤガヤと何人かの騎士団の人達が驚きの声を上げる。
『翡翠亭』とは、騎士団の直ぐ近くに店を構えている定食屋の事で、私も始めは翡翠を翡翠と読んでしまっていた。
ややこしい名前ではあるけれど、私はまだ入った事は無いのでよくしらないが、聞いた話しではその店のモットーは『早い!旨い!多い!そして程々な価格設定!!』らしい。
程々な価格設定とちゃんと言っている辺り現実味がある気がする。
しかし確かに料理は絶品らしく、騎士団の皆さんの行き着けのお店らしい。
そしてそれが貸し切りでしかも全品ファイさんの奢りとなれば……
「既に『翡翠亭』には注文を取ってある。今頃大量の仕込みと調理に追われている事だろう。なので勝利した者達は演習が終わり次第『翡翠亭』に直行してくれて構わない!!」
「「「「わぁあああああああああああああ!!」」」」
この野太い歓声が私にはかなり怖いです、顔が引きつりそうな程に。
いつの世も、男性の力とやる気の元は食べ物と言う訳ですか……
でも、勝てば『翡翠亭』の料理が食べられると言うのはかなり嬉しいご褒美だ。騎士団の人達のやる気もかなり高まってきてるみたいだし。
「たく、ファイめ。まぁた無駄遣いをしおって。あやつの場合普段の出費が殆ど無いからいいものを……」
「ははは……」
隣りで手をグーにしてぷるぷる震えているネリさん以外は。
「お前達!精一杯腹を満たしたいか!」
「「「「はい!!」」」」
「力の限り戦うかぁ!」
「「「「はいぃっ!!」」」」
「よろしい!負けた者達の腹は私が調理してきた手作り料理で満たすので存分に戦うがいい!!」
「「「「……はっ?」」」」
負けた者達には……ファイさんの手作り料理?
そ、それってつまり――
「「「「えぇええええええええええ!!!?」」」」
勝てば天国、負ければ地獄行き!?
「長官!どう言う事ですか!?」
「……?どうもこうもないぞ?負けた者達だけ腹を空かせては不憫ではないか」
「あ、あれぇ……でも長官。あなた文官さんから料理禁止させられてませんでしたっけ?」
アルトさんとエルさんが必死にどうにかしようとしてるみたいですけど、エルさんにいたってはいつもの笑顔が引きってます。
「あぁ、確かになぜか料理は禁止させられている」
「なぜもくそもないですがね」
「だがな……料理は禁止させられても調理は禁止されていない事に昨日気づいたのだ!」
屁理屈だぁあ!?
完全なる自分勝手な理屈で禁止令を無かった事にしましたよね!
……そう言えば、その禁止令を出したレイさんは?
「りょ、料理も調理も同じ意味ですからぁあああああああ!!」
「昨日の夜から一生懸命調理したのだ!負けたら今日こそちゃんと食べてもらうからな!文官!!」
そう言う訳か……
見ればファイさんに大声でツッコんだレイさんの制服の色は見事なまでの真っ白。
つまり、料理を禁止させられていたファイさんがどうしてもみんな…もといレイさんに自分の料理を食べてもらいたかったから、外堀埋めて逃げられない状況にしたって事ですか。
と言ううか、私達ってただの巻き添えなんじゃ……
「にゃんじゃ、ファイ達闇チームが勝てば光チームの奴らはファイの作った料理で死ぬと言うわけか」
「ネリさん、あなたファイさんの事好きか嫌いかどっちなんですか?」
「つまり…エルも料理を食う事に……ほほう」
……あれ?…あれぇえええええ?
ネリさんがいつも以上の怪しい笑みを浮かべ始めたよ、何故だろう?
分からない分からない。私は知りません、何にも知らなかったんですよー。決してエルさんの自業自得とか思ってないですよー。
「兎に角!」
ダンッ!とファイさんは一歩前に出て、その長い水色の髪を軽く手ではらうと一段と大きな声で言い放つ。
「えー…只今より!第27回王宮騎士団上部と王宮騎士団との合同演習を執り行う!!お前たち!正々堂々殺し合うつもりで闘え!!」
「「「「ああぁあああああああああぁ」!!!?」」」
「にゃっははははははは!」
その第一声から、私達はファイさんのせいで完全に地獄の合同演習へと巻き込まれる事になった。
「昼間の恨みをはらしてもらうからの!ファイが!」
……あと、若干エルさんのせいで。




